
目次
事例の概要

◆利用サービス | 「家族信託組成コンサルティングサービス(プランB・自宅)」 |
◆お客様 | 新田様(仮名)ご家族 |
◆ご家族 | 父(82歳)=東京都町田市在住 ★委託者★ 長男(53歳)=東京都江戸川区在住 ★受託者★ 長女(50歳)=神奈川県座間市在住 |
◆信託財産 | 町田市のご自宅(50坪・築48年) 金銭4500万円 |
◆ご相談者 | 新田隆 様(仮名) |
◆解決期間 | 約2ヵ月 |
※「家族信託組成コンサルティングサービス(プランB・自宅)」とは、自宅不動産の管理・処分権限をご家族へ移転することを目的に、信託スキーム設計から契約書作成、公証役場や信託口口座開設の調整、および信託登記手続を一括して代行するサービスです。認知症による「実家凍結(売却不可)」リスクを回避できるため、将来の介護施設入居費用に充てるための売却や、管理費用の支払いを円滑にし「いざという時に自宅をスムーズに売却できるようにしたい」という方に最適です。
東京都町田市にお住まいだったお父様(82歳)は、長年連れ添ったお母様を脳梗塞で突然亡くされて以降、急激に元気をなくし、外出も減って自宅にこもりがちになっていました。
ご家族では、長女様との同居も検討されましたが、「家族に迷惑をかけたくない」というお父様の強い意向があり、最終的にはサービス付き高齢者向け住宅へ移る方針となりました。
ただ、お父様としては、思い出の詰まった町田市のご自宅をすぐに手放す気持ちにはなれず、ときどき帰れるように、しばらくは残しておきたいとのご希望がありました。
一方で、将来認知機能が低下した場合には自宅の売却が難しくなり、介護費用や医療費に充てるための資金確保に支障が出るおそれがあります。そこで、知人の保険営業担当者から家族信託の仕組みを聞き、当法人へご相談いただきました。
町田市のご自宅(50坪・築48年)と金銭4500万円について、長男様を受託者とする家族信託を組成し、約2ヵ月で今後の生活と将来の資産管理に備える体制を整えた事例です。
1.ご依頼の背景〜妻の急逝後、父の住み替えと将来の自宅売却準備が課題になったケース〜
ご相談のきっかけは、お母様の急逝でした。お母様は町田市のご自宅でご主人と暮らしていましたが、そのまま脳梗塞でお亡くなりになりました。
突然の出来事であったこともあり、お父様の精神的な落ち込みは大きく、それまで普通に送れていた日常生活にも変化が出てきました。もともと愛妻家であったこともあり、お母様を亡くしたあとの喪失感は非常に大きく、外出の機会が減り、家で過ごす時間が大半を占めるようになっていきました。
ご家族としても、このままお父様が広いご自宅でひとり暮らしを続けるのは、生活面でも安全面でも不安があると感じていました。そこで、長女様との同居案も出ましたが、お父様は「娘の生活に負担をかけたくない」「自分のために家族の生活を変えてほしくない」とお考えになり、この案は実現しませんでした。
最終的には、見守りや生活支援を受けられるサービス付き高齢者向け住宅へ移ることになりました。
もっとも、住み替えをするからといって、すぐに自宅を売却したいわけではありませんでした。お父様にとって自宅は、長年お母様と暮らした場所であり、気持ちの整理がつく前に処分することには強い抵抗がありました。
そのため、ご家族としても「今すぐ売る」のではなく、「必要になったときに売れる状態を整えておく」ことが大切でした。
ここで問題になったのが、将来の判断能力低下リスクです。ご本人が自宅を売ると決めたとしても、その時点で認知機能が低下していれば、不動産の売却契約は進められません。
この点を心配されたご家族が、知人の保険営業担当者へ相談し、家族信託という方法を知りました。その後、当法人をご紹介いただき、ご相談にお越しいただいたという経緯です。
2.解決までの道のり / ミラシアだからできたこと

今回のご相談では、契約書を作ること自体が中心ではありませんでした。ご家族全員が納得できる形に落とし込むことが必要でした。当法人では、初回相談の段階から法的な仕組みの説明だけでなく、ご家族のお気持ちや生活実態も丁寧に確認しながら、実際に運用できる形に整えていきました。
ステップ1 家族信託が本当に必要かを見極め、目的を「自宅維持と将来売却」に絞る
最初の面談では、お父様、長男様、長女様から、ご家族の状況や今後の希望を詳しくお聞きしました。そこで見えてきたのは、「お父様が安心して住み替えたあとも、必要になるまでは自宅を残し、必要なときには確実に売却できるようにしたい」という極めて現実的な目的でした。
家族信託は、何となく不安だから行うものではなく、何のために行うのかを明確にすることが重要です。今回のケースでは、自宅の管理と将来売却の備え、そして介護費用・医療費の支払い原資を守ることが中心テーマでした。
また、お父様は当初、「まだ自分で判断できるのに、今の段階で家族信託をしたら、自分の家がもう自分のものではなくなるのではないか」という不安を率直に口にされました。
家族信託では、信託した財産について受託者が管理や処分を行う立場になりますが、それは受託者が自由に使ってよいという意味ではありません。信託の目的に従い、受益者のために管理することが前提です。
この説明を重ねることで、お父様にも「自分の生活のために備える仕組み」であることをご理解いただけるようになりました。
ステップ2 家族会議に司法書士が同席し、受託者を長男に決める理由を整理したこと
次に大きな論点になったのが、誰を受託者にするかでした。受託者は、単に名前を貸す立場ではなく、金融機関対応、信託口口座の管理、不動産の維持管理、将来売却する場面での契約対応など、一定の実務を担います。
そこで当法人では、家族会議の場に同席し、制度の説明だけでなく、受託者に求められる役割を具体的に共有しました。
話し合いの結果、最終的には長男様が受託者となることに決まりました。ご家族内での信頼関係に加え、今後の金融機関対応や売却対応を担う意思が明確であったことが大きな理由です。
一方で、長女様が蚊帳の外になるような設計にはしていません。「長男が中心となって動き、長女も状況を把握しながら支える」という形に整理しました。
今回も、司法書士が同席して論点を整理したことで、感情論だけではなく、実務面も含めた合意形成ができました。
ステップ3 信託口口座と終了時期まで設計し、介護費用・医療費から葬儀費用まで見据えたこと
受託者が決まったあとは、信託財産とお金の流れを具体的に設計していきました。今回の対象財産は、町田市のご自宅と金銭4500万円です。
金銭については、信託口口座を利用して長男様が管理する形とし、お父様の生活費、介護費用、医療費などに充てられる体制を整えました。
不動産については、「売る」ことだけを目的にした家族信託ではなく、「残す」選択肢と「売る」選択肢の両方を持たせる設計としました。
さらに、今回の事例で実務上大きかったのは、お父様が亡くなられた時点で直ちに信託を終了させない設計を採ったことです。本件ではご逝去後もしばらく信託を存続させる形とし、葬儀費用、火葬費用などの支払いに対応できる流れを組みました。
今回の家族信託では、お父様の生前の生活を支えるだけでなく、ご逝去直後の支払い実務まで含めて設計できた点に大きな意味がありました。
3.サポートの結果とお客様の声
今回のサポートにより、お父様はサービス付き高齢者向け住宅へ移るという新しい生活の準備を進めながら、思い出のあるご自宅をすぐに手放さずに済む体制を整えることができました。
今は残し、必要になったら売るという選択が可能になったことで、お父様の気持ちにも配慮しつつ、将来の介護費用や医療費の確保にも備えられるようになりました。
また、長男様が受託者として信託口口座を管理する体制が整ったことで、日々のお金の管理と家族内での役割分担が明確になりました。
家族信託は、元気なうちの準備という印象を持たれがちですが、実際にはその後の運用と支払い実務まで設計してこそ意味があります。今回はその点まで含めて、ご家族にとって無理のない体制を作ることができました。
ご相談者の新田様は、次のようにお話しくださいました。
4.担当司法書士から
今回の事例では、家族信託の必要性が非常に分かりやすい一方で、感情面への配慮が欠かせない案件でした。制度だけ見れば、「将来売却する可能性があるなら早めに家族信託を」という話になりますが、実際には、ご本人が自宅にどのような思いを持っているか、すぐには売りたくない気持ちをどう受け止めるかが極めて重要です。制度の正しさだけで進めると、ご本人の納得が置き去りになってしまいます。
また、家族信託では、誰を受託者にするかが非常に重要です。近くに住んでいるかどうかだけでなく、金融機関対応や将来の売却実務まで含めて、責任を持って動けるかを見なければなりません。今回のように、家族会議の場に専門家が入り、感情面と実務面の両方を整理しながら受託者を決めることには大きな意味があります。
さらに、家族信託は「作ること」よりも、「どう運用するか」を見据えて設計することが大切です。何を信託財産に入れるのか、口座をどう管理するのか、自宅をいつ売るのか、ご逝去後にどのような支払いが生じるのかまで考えておくことで、初めて実務で機能する仕組みになります。今回の事例は、まさにその点がよく表れたケースでした。
ご家族の事情はそれぞれ異なりますが、共通して言えるのは、判断能力が十分にあるうちでなければ、家族信託は組成できないということです。少し元気がなくなった、最近判断が心配になってきた、施設入居を考え始めた、そのような段階は、実は準備を始める重要なタイミングでもあります。今回のように、「まだ売らないけれど、売れるようにしておきたい」というご相談は非常に多くあります。ご本人の気持ちと将来の現実、その両方を丁寧に整理しながら、最適な形を一緒に考えていくことが大切だと改めて感じた事例でした。

司法書士 元木翼


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