数か月前に兄が亡くなりました。兄には多額の借金があったので、兄の妻や子供たちは相続放棄していると思います。両親はすでに他界しているので、このままでは私が兄の借金を相続してしまいそうです。兄の妻や子供たちが相続放棄したかどうか調べたいのですが、長らく疎遠で連絡先が分かりません。どうしたらよいでしょうか?
家庭裁判所に対して「相続放棄申述の有無の照会」をすることで調査が可能です。
先順位の相続人が相続放棄をすると、後順位の相続人に相続権が移ります。亡くなった方に多額の借金がある場合は、後順位の相続人も相続放棄をしなければ借金を相続してしまいます。
自分に相続権があることを知った時から3か月以内であれば相続放棄ができますが、その前提として、先順位の相続人が相続放棄をしたかどうかを確認する必要があります。先順位の相続人が相続放棄をしたかどうかを確認したい場合、その相続人に直接確認できればよいですが、連絡先が分からなければ確認できません。連絡先が分かったとしても、疎遠になっていると確認しづらいこともあるでしょう。
そんなときに利用できるのが、家庭裁判所に対する「相続放棄申述の有無の照会」という方法です。
本コラムでは、相続放棄の申述の有無についての照会方法について分かりやすく解説します。先順位の相続人が相続放棄をしたかどうかを確認したい方のお役に立てれば幸いです。
目次
1 相続放棄申述の有無の照会~相続放棄を調べる方法~
1-1 相談放棄申述の有無の照会とは
「相続放棄申述の有無の照会」とは、特定の相続人が相続放棄したかどうかの事実を家庭裁判所に問い合わせ、回答してもらえる制度のことです。
相続放棄されている場合にはその事件番号や受理年月日等が回答され、相続放棄されていない場合にはその旨の証明書が交付されます。
被相続人に多額の借金がある場合には、相続放棄をすることで借金の相続を回避できますが、先順位の相続人が相続放棄をしない限り、後順位の相続人は相続放棄をすることができません。
先順位の相続人が相続放棄をしても、そのことを後順位の相続人に通知する法律上の義務はありません。
そのため、疎遠になっている場合には任意に知らせてくれることも期待できないので、後順位の相続人は相続放棄が必要かどうかを判断できない状態に置かれます。このような場合に、照会を行うことになります。
1-2 照会制度を利用すべき典型ケース
それでは、照会制度を利用する典型例を具体的な事例でみていきましょう。
【具体例】
被相続人 Bさん(相談者の兄)
相続人 Cさん(Bさんの子)
相談者 Aさん(50代男性)
例えば、50代のAさんの兄であるBさんが亡くなったとしましょう。両親とBさんの妻はすでに他界しており、相続人としてはBさんの子(Aさんから見て甥)であるCさんがいるとします。
AさんはBさんと数十年前に仲違いをして疎遠となっており、Cさんとも幼い時に何度か会っただけで、連絡を取ることも全くありませんでした。ただ、Bさんが多額の借金を抱えていることは、生前両親から聞いていました。
この事例で、第1順位の相続人であるCさんが相続放棄をすると、Aさんに相続権が移るため、借金の相続を回避するためにはAさんも相続放棄をしなければなりません。そのため、AさんはCさんが相続放棄をしたかどうかが気になっています。
CさんとはBさんの葬儀で顔を合わせたものの、ひと言挨拶したのみで、その後はまた没交渉となってしまいました。四十九日の連絡もないので、やはりCさんからも嫌われていると感じています。連絡を取ったとしても相手にされない可能性もあるので、AさんはCさんに直接尋ねることをためらっています。
このような場合、AさんとしてはCさんに尋ねるのではなく、「相続放棄申述の有無の照会」制度を利用して、家庭裁判所で事実を確認することができます。
【照会制度】
なお、Aさんは自分がBさんの相続人となったことを知った時から3か月以内は相続放棄ができるので、Cさんが相続放棄をしたことを誰かが伝えてくるまで待っていても問題ないように思われるかもしれません。
しかし、Bさんが亡くなってから「3か月」を経過してから相続放棄の手続きをとると、Aさんは家庭裁判所から、本当に自分が相続人となったことを知らなかったのかについて確認されることになります。
Aさんは、Bさんが多額の借金を抱えていることと、Cさんが相続放棄をする可能性があることは知っていたのですから、状況によっては相続放棄が認められない可能性もあるかもしれません。
よって、本事例のAさんと同様の立場にある方は、できるだけ早く「相続放棄申述の有無の照会」によって相続放棄の事実を確認し、必要があれば相続放棄の手続きをとるべきです。
その他にも、先順位の相続人が相続放棄をしたことは明らかであるものの、その時期や家庭裁判所における事件番号が分からないので知りたいという場合にも、「相続放棄申述の有無の照会」を利用することは有用です。
2 相続放棄の申述の有無の照会の申請方法
【照会の手続き】
申請先 | 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所 |
照会の申請ができる人 | 相続人または被相続人の利害関係人 |
必要書類 | 照会申請書、被相続人等目録、戸籍謄本など |
手数料 | 無料 |
照会できる期間 | 被相続人の死亡日が平成12年以降の場合は、現在まで可能 |
それでは、次に「相続放棄の申述の有無についての照会」を申請する方法を解説します。
2-1 申請先
申請先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
例えば、被相続人の最後の住所地が東京都の23区内にある場合は、「東京家庭裁判所」が申請先となります。23区以外に住所がある場合は、住所地に応じて「東京家庭裁判所立川支部」、「東京家庭裁判所八丈島出張所」、「東京家庭裁判所伊豆大島出張所」となります。
申請先の家庭裁判所が遠方にある場合でも、郵送での申請が可能です。直接出向く必要はありません。
家庭裁判所の管轄区域は、裁判所のホームページで確認できます。
なお、被相続人が亡くなった場所と「最後の住所地」は異なる可能性があるので、事前に必ず住民票除票または戸籍の附票で最後の住所地を確認しましょう。
2-2 照会の申請ができる人
相続放棄の申述の有無の照会申請ができるのは、相続人または被相続人の利害関係人に限られます。
利害関係人とは、例えば、被相続人にお金を貸していた人や金融機関、未払い料金の請求権を有している行政機関や法人などの債権者が該当します。
2-3 必要書類
相続人が照会する場合の必要書類
①照会申請書
照会申請書の様式は各家庭裁判所によって少し異なるので、申請先の裁判所のホームページからダウンロードして使用するとよいでしょう。
【照会申請書の例(東京家庭裁判所の場合)】
②被相続人等目録
被相続人等目録の様式は各家庭裁判所によって少し異なるので、申請先の裁判所のホームページからダウンロードして使用するとよいでしょう。
【被相続人等目録】
③被相続人の住民票の除票(本籍地が記載されているもの)
④照会者と被相続人との関係が分かる戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本を含む)
⑤照会者の住民票(本籍地が記載されているもの)
⑥相続関係図(被相続人と相続人の関係を表すもの。手書きでも可)
⑦返信用封筒と返信用切手(郵送での返送を希望する場合のみ)
⑧委任状(弁護士に申請を依頼する場合のみ)
利害関係人が照会する場合の必要書類
①照会申請書
②被相続人等目録
③被相続人の住民票の除票(本籍地が記載されているもの)
④申請者の資格を証明する書類
個人の場合は住民票、法人の場合は商業登記簿謄本または資格証明書となります。いずれも発行から3ヶ月以内のものを提出する必要があります。
⑤利害関係の存在を証明する書面のコピー
金銭消費貸借契約書、判決書、担保権が記載された不動産登記簿謄本などの写しなどが該当します。
⑥相続関係図(被相続人と相続人の関係を表すもの。手書きでも可)
⑦返信用封筒と返信用切手(郵送での返送を希望する場合のみ)
⑧委任状(弁護士に申請を依頼する場合のみ)
2-4 手数料
申請手数料は無料です。
ただし、別途「相続放棄申述受理証明書」の交付を申請する場合は、1通につき150円の手数料が必要です。
相続放棄申述受理証明書とは、相続放棄が認められたことを公的に証明する書類のことです。不動産の相続登記を行う場合や、被相続人の債権者が証明を求められた場合に必要となります。
もっとも、相続放棄するかどうかを検討するために相続放棄の申述の有無の照会を行う場合は、相続放棄申述受理証明書が必要となることはあまりないと思われます。
2-5 照会できる期間
相続放棄されたかどうかを照会できる期間(家庭裁判所に調査してもらえる期間)は限られていますので注意が必要です。各家庭裁判所によって、具体的な期間が異なります。
東京家庭裁判所の場合、照会可能な期間は以下のようになっています。
・第1順位者については被相続人の死亡した日から3ヶ月間が調査対象期間となります。
・第2順位者以降については、先順位者の相続放棄が受理がされた日から3ヶ月間が調査対象期間となります。
これ以上の期間の照会はできないとされています。 なお、被相続人の死亡日によっては、審判書原本が既に廃棄済みなどの理由により、照会に応じられない場合があります。
3 照会の結果、自分が相続人だったらどうする?
照会した結果、自分が相続人となっていることが分かった場合は、相続放棄をするかどうかを判断した上で、所定の手続きを行う必要があります。
以下の手順で手続きを進めていくことをおすすめします。
3-1 まずは財産調査を行う
まずは、被相続人の財産を調査しましょう。被相続人が借金を抱えていたとしても、トータルでプラスの財産の方が多い場合には相続した方が得となるからです。
調査すべき主な財産と、調査する方法は以下のとおりです。
①預貯金・・・金融機関で残高証明書を取得する
②不動産・・・法務局で登記簿謄本を取得するか、市区町村役場で名寄せ帳を取得する
③株・投資信託などの有価証券・・・証券保管振替機構に情報開示請求をして証券会社を確認し、残高証明書を取得する
④借金等の負債・・・個人信用情報機関に情報開示請求をする
疎遠となっていた被相続人に家族がいる場合は、財産調査が難航することもありますが、できる限りの調査を尽くしましょう。
3-2 相続放棄する場合
相続放棄は「3ヶ月」以内に行う
財産調査の結果、借金などマイナス財産の方が多いことが分かった場合は、相続放棄を選択することになるでしょう。
相続放棄をするためには、自分が相続人であることを知った時から3か月以内に家庭裁判所で申述の手続きを行う必要があります。
被相続人が亡くなってから3か月が経過していた場合でも、被相続人の借金を相続したことを知ってから3か月以内であれば、相続放棄をすることは可能です。ただし、亡くなってから3ヶ月を過ぎていた場合には、上申書などの書面を作成し、家庭裁判所に対して借金の事実を知らなかったことを証明しなければならないので注意が必要です。
したがって、できる限り、被相続人が亡くなってから3か月以内に相続放棄の申述の有無の照会を経た上で、相続放棄の申述の手続きまでを行うことが望ましいといえます。
限定承認という方法もある
被相続人の財産のうち、プラスの財産・マイナスの財産どちらが多いのか分からない場合には、「限定承認」という方法を利用することも考えられます。
限定承認とは、被相続人が有していたプラスの財産の範囲内でのみ、マイナスの財産を相続する手続きのことです。
限定承認をするときも、自分に相続権があることを知った時から3か月以内に、家庭裁判所で申述の手続きをする必要があります。
早い段階で弁護士や司法書士に依頼すれば、相続放棄の申述の有無の照会申請から財産調査、相続放棄または限定承認の手続きまでを任せることができます。手間が省ける上に、正確かつスピーディーに手続きできますので、困った時は専門家に相談することをおすすめします。
3-3 相続放棄をしない場合
財産調査の結果、プラスの財産の方が多いことが分かった場合は、相続放棄をせずそのまま相続することになるでしょう。
まず遺産分割協議を行う
自分以外にも相続人がいる場合は、「遺産分割協議」を行い、誰がどの遺産を取得するかを決めます。協議がまとまったら遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名・押印をします。印鑑証明書を添付し、押印は実印でなければなりません。
遺産分割協議によって各財産の承継先が決定しますので、それに基づいて相続手続きを行います。
なお、自分の他に相続人がいない場合は、遺産分割協議を行う必要はありません。
主な相続手続き
主な相続手続きとして、以下のようなものが挙げられます。
①預貯金の相続手続き
金融機関で口座の名義変更や解約の手続きをする
②不動産の名義変更
法務局で相続登記をする
③有価証券(株や投資信託)
証券会社で名義変更や解約の手続きをする
④相続税の申告
一定の財産規模(基礎控除額)を超えた場合には、被相続人が亡くなってから10ヶ月以内に相続税の申告と納付を行う必要があります。
相続財産の名義変更や解約などの手続きについても、司法書士などのサポートを受けることができますので、困った時は専門家に相談してみるとよいでしょう。
4 まとめ
最後までご覧いただきありがとうございます。
いかがでしたでしょうか。相続放棄申述の有無の照会の利用方法がお分かりいただけたかと思います。
それでは、本コラムのまとめです。
・先順位の相続人が相続放棄をしているかどうかを調べるためには、「相続放棄の申述の有無の照会」という手続きを利用する。
・相続放棄の申述の有無の照会とは、特定の相続人が相続放棄したかどうかを家庭裁判所に問い合わせて確認できる手続きのことをいう。
・照会の申請は、相続人または利害関係人が家庭裁判所に対して必要書類を添付して行う。手数料は無料。
・照会の結果、自らが相続人であった場合には、財産の調査をした上で、財産を相続するかまたは相続放棄をするか決定する。一連の手続きは司法書士や弁護士に依頼した方が安全かつスピーディーに進めることができる。
コメント