家族信託の受託者になる前に絶対知っておくべき義務・資格・報酬の定め方

超高齢社会の進展に伴う認知症高齢者数の増加によって、「家族信託」を利用して認知症対策を行う家庭が急増しています。

家族信託は認知症対策による財産凍結から財産を守ることができるというメリットがある一方で、委託者から信託財産の管理を託される「受託者」は法律上様々な義務や責任が負うことになります。

ところが、家族信託をスタートする際はそのメリットばかりに目がいき、受託者がこれらを十分に理解していないケースが増えています。そのため、家族信託が開始した後に予想だにしないトラブルに巻き込まれてしまったり、思わぬ責任を負ってしまうという事態になりかねません。

家族信託の受託者になる前に、義務や責任についてしっかりと頭に入れておきましょう

そこで、本コラムでは受託者の義務や責任について解説するとともに、実際の現場で頻繁に質問を受ける受託者の資格、報酬の定め方なども説明します。

家族信託における受託者の業務は長期間続くことも十分考えられます。後で後悔することがないよう事前に受託者について正確に理解しておきましょう。

1 受託者の権限

相談者

家族信託の受託者にはどのような権限があるのでしょうか?    

家族信託の受託者には、信託財産を管理・処分する権限があります。     

元木司法書士

受託者の役割

家族信託の「受託者」とはどのような者をいうのでしょうか。法律上は次のように定められています。

信託法2条5項】
この法律において「受託者」とは、信託行為の定めに従い、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をすべき義務を負う者をいう。
 

家族信託の開始と同時に、委託者から受託者に信託財産の権限が移転します。家族信託が開始した後は、受託者」が信託財産を管理・処分することになります。そのため、受託者には管理や処分を行う権限だけなく、信託契約や信託法上様々な義務や責任が課されています。なお、上記の「信託行為」とは家族信託の内容を決定する信託契約や遺言などを指します。信託契約と置き換えて読んで差し支えありません。

受託者にはどのような権限があるのか

受託者の権限については、法律上は次のように定められています。

【信託法26条】

受託者は、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をする権限を有する。ただし、信託行為によりその権限に制限を加えることを妨げない。

信託法上、受託者には信託財産の管理・処分権限があり、権限は広範囲にわたります。特に信託契約書に明記されていなくても、受託者は家族信託の対象とした金銭の引き出しや支払いはもちろんのこと、自宅の売却や賃貸、アパートの管理などを行うことが可能です。

ただし、信託契約によって権限を制限することもできます。例えば、不動産賃貸の権限は与えるけれど、売却の権限は与えない、また、不動産を売却する際は受益者や受益者代理人の同意を必要とするなどのように受託者の権限を限定することも可能です。

さらに、このような制限がなかったとしても、「信託目的」によって受託者の権限が制限を受けることがあります。信託目的とは、家族信託を開始した目的、言い換えれば家族信託の存在理由のようなものですから、これに反する行為を行う権限はそもそも受託者には認められません。例えば、先祖代々引き継いできた土地を子供や孫に確実に引き継いでいくことが信託の目的であった場合、家族信託の途中で土地を売却することは受託者にはできないということになります。

実際の信託契約書では、信託目的との関係で権限が不明確となる可能性もあるため、受託者の権限はできるだけ具体的に記載することが望ましいとされています。不動産の売却、賃貸、担保権の設定、借入、登記手続の権限など、ケースに応じて受託者の権限の内容を明確に定めておきましょう。

2 受託者の9つの義務

相談者 相談者

受託者には幅広い権限がありますね。逆に何か義務を負うことはあるのでしょうか?          

受託者には主に9つの義務があります。受託者となる方は家族信託を始める前にしっかり理解しておきましょう。

元木司法書士

受託者には幅広い権限が認められている一方で、様々な義務が法律上課されています。主に次の9つの義務があります。それでは1つずつ確認していきましょう。

受託者の9つの義務

義務① 忠実義務

【信託法30条】

受託者は、受益者のため忠実に信託事務の処理その他の行為をしなければならない。

受託者は、常に受益者の利益を最優先して信託事務を行わなくてはなりません。これを忠実義務といいます。例えば、受託者となった長男が自分の利益のためだけに信託財産を利用することは許されませんし、また受託者が信託財産を贈与することも認められません。

また、この忠実義務から派生して受託者と受益者の利益が相反する取引(利益相反取引)が禁止されています。例えば、家族信託した不動産を受託者個人が買い取ることは原則として認められません。受託者として「売主」の立場になると同時に、「買主」の立場にもなってしまうので、受益者の利益のために行動できなくなる可能性が高いからです。

同様に、受託者と受益者の利益が競合する行為(競合行為の制限)も禁止されています。例えば、家族信託したアパートのテナントの応募に対して、受託者個人が所有しているアパートを紹介することはできません。この場合、受益者の利益と受託者の利益が競合してしまい、受益者に不利益となる可能性が高いからです。

義務② 分別管理義務

【信託法34条】
 受託者は、信託財産に属する財産と固有財産及び他の信託の信託財産に属する財産とを、次の各号に掲げる財産の区分に応じ、当該各号に定める方法により、分別して管理しなければならない。-—-以下略——–

受託者は、信託財産と固有財産(受託者個人の財産)を分けて管理しなければなりません。これを分別管理義務といいます。

それでは、どのように分別管理を行えばよいのでしょうか。

【受託者の分別管理義務】

不動産

不動産については、信託財産であることを明らかにするために登記」(所有権移転登記と信託登記)をしなければなりません。この登記する義務は信託契約によっても免除することはできません。登記は信託契約の締結後、速やかに行う必要があります。詳細は下記のコラムをご覧ください

金融資産

金銭については、信託口口座を開設して管理するのが一般的です。信託口口座の開設は信託契約締結後、速やかに行う必要があります。口座開設後、信託契約書で定めた金銭を口座に移します。金銭を移す前に委託者の判断能力が低下してしまうと、委託者の口座から出金ができなくなり金銭を移せなくなるリスクがあります。金銭の移転は速やかに行うことが大切です。詳細は下記のコラムをご覧ください。

上場株式・投資信託については、証券の信託口口座を開設して管理するのが一般的です。

義務③ 公平義務

【信託法33条】
受益者が二人以上ある信託においては、受託者は、受益者のために公平にその職務を行わなければならない。 

認知症対策で利用される家族信託では、受益者が1人であるケースがほとんどです。

しかし、相続対策や親亡き後対策(障害を抱えるお子様がいるご家庭において親が亡くなった後の財産管理などについて行う対策)では受益者が複数となる場合もあります。

受益者が複数いる場合、受託者はそれぞれの受益者を公平に扱って信託事務を行っていかなければなりません。これを公平義務といいます。

義務④ 信託事務遂行義務

【信託法29条1項】
受託者は、信託の本旨に従い、信託事務を処理しなければならない。 

受託者は、信託の本旨(信託の目的)に従って、信託事務を行っていかなければなりません。これを信託事務遂行義務といいます。家族信託は信託目的を達成するために始めるわけですから、受託者は信託目的の範囲内で信託財産の管理・処分権を有していることになります。

義務⑤ 善管注意義務

【信託法29条2項】

受託者は、信託事務を処理するに当たっては、善良な管理者の注意をもって、これをしなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる注意をもって、これをするものとする。

受託者は、信託事務を進めていくにあたっては、善良な管理者の注意をもって行っていかなければなりません。これを善管注意義務といいます。「善良な管理者の注意」とは、その職業や地位にある者として通常要求される程度の注意をいいます。家族信託の受託者は、通常財産管理の専門家ではないので、他人の財産を管理するにあたり一般的に必要とされる程度の注意をもって信託財産の管理や処分を行えば足りるということになります。もっとも、受託者の職業が財産管理の専門家(士業、金融機関の方など)である場合には、より高度な注意(その職業で通常要求される程度の注意)が要求されます。

なお、この注意義務は信託契約によって軽減することができますが、免除することはできないとされています。

義務⑥ 信託事務の処理の委託における第三者の選任及び監督に関する義務

【信託法35条】
1 第二十八条の規定により信託事務の処理を第三者に委託するときは、受託者は、信託の目的に照らして適切な者に委託しなければならない。

 第二十八条の規定により信託事務の処理を第三者に委託したときは、受託者は、当該第三者に対し、信託の目的の達成のために必要かつ適切な監督を行わなければならない。

——以下略——–

受託者は、信託事務の処理を第三者へ委託することができます(信託法28条)。例えば、アパートを家族信託した場合には、受託者がアパートの管理を行うことが原則となりますが、管理会社に管理を依頼することももちろん可能です。

しかし、第三者に信託事務を委託する際は、信託契約によって定められた信託の目的に照らして適切な者を選び、委託しなければなりません。そして、第三者に委託したときは、信託目的を達成するために適切な監督を行う必要があります

義務⑦ 信託事務の処理の状況についての報告義務

【信託法36条】
委託者又は受益者は、受託者に対し、信託事務の処理の状況並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況について報告を求めることができる。 

受託者は、受益者から信託事務の処理状況などについて報告を求められた場合には、状況を受益者に報告しなければなりません。例えば、受益者(親)から信託した金銭や不動産の状況を聞かれた際は、受託者(子)はその都度状況を報告しなければならないということになります。

義務⑧ 帳簿等の作成等、報告及び保存の義務

【信託法37条】
1 受託者は、信託事務に関する計算並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況を明らかにするため、法務省令で定めるところにより、信託財産に係る帳簿その他の書類又は電磁的記録を作成しなければならない。

 受託者は、毎年一回、一定の時期に、法務省令で定めるところにより、貸借対照表、損益計算書その他の法務省令で定める書類又は電磁的記録を作成しなければならない。

 受託者は、前項の書類又は電磁的記録を作成したときは、その内容について受益者(信託管理人が現に存する場合にあっては、信託管理人)に報告しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

——以下略——–

家族信託では、受益者が受託者の信託事務が適切に行われているかどうかを監督することになります。信託監督人や受益者代理人を信託契約書で定めた場合はこれらの者が監督することもあります。

そこで、受益者などが受託者の監督が行えるよう、受託者は帳簿などを作成し、毎年1回受益者に報告しなければならないとされています。

具体的には次の2つの書類を作成することになります。

信託帳簿(信託法37条1項)

信託帳簿とは、家族信託した金銭の入出金などを記録する帳簿です。

帳簿とありますが、現金出納帳、仕訳帳、総勘定元帳などのいわゆる会計上の帳簿に限らず、認知症対策を目的とした一般的な家族信託においては信託口口座の預金通帳のコピーに入出金の内容などを記録する形でも問題ないとされています。信託帳簿には使途や支払い先などを記録し、レシート、領収証、振込明細などと一緒に保存しておくとよいでしょう。

信託帳簿は原則として作成後10年間保存しなければなりません。ただし、受益者に信託帳簿またはその写しを交付した場合には保存義務はありません。

財産状況開示資料(信託法37条2項)

受託者は、毎年1回「財産状況開示資料 」を作成し、その内容を受益者に報告しなければなりません

財産状況開示資料とは、家族信託した財産の状況を明らかにする書類です。信託帳簿に基づいて作成しなければなりません。

認知症対策を目的とした通常の家族信託では、「財産目録」「収支計算書」を作成すればよいとされています。財産目録や収支計算書は、成年後見の事務で利用する財産目録を参考にするとよいでしょう。

【参考】成年後見業務の財産目録

【参考】成年後見業務の収支計算書

財産の管理だけでなく、財産の「運用」まで行っている場合は貸借対照表と損益計算書の作成が必要となります。

財産状況開示資料は、信託が終了するまで(信託の清算の結了日まで)の間、保存しなければなりません。ただし、受益者に信託帳簿またはその写しを交付した場合には保存義務はありません。

義務⑨ 信託の計算書及びその合計表の提出義務

収益不動産や株式・投資信託など(ただし、収益が年間で3万円以下の場合は不要)を信託する場合、受託者は、毎年1月31日までに、信託の計算書及びその合計表」を提出する必要があります。

【参考】信託の計算書
【参考】信託の計算書合計表

なお、確定申告はこれまでどおり受益者が行いますが、毎年の確定申告の際に、通常の添付書類に加えて、託から生ずる不動産所得の金額に関する明細書」を作成・添付する必要があります。

3 受託者の責任

相談者相談者

受託者には重い義務が課されているのですね。義務に違反した場合はどのような責任を負うのでしょうか?

受託者の責任は第三者に対する責任(無限責任)受益者に対する責任(損失てん補責任)の2つに分けることができます。    

元木司法書士

第三者に対する責任(無限責任)

受託者は、信託財産の所有者として財産管理や処分を行うため、第三者に対しては「無限責任」を負わなければなりません。無限責任とは、家族信託によって第三者に対して損害が発生した場合には、信託財産だけでなく、受託者個人の財産も責任財産となることをいいます。つまり、信託財産で支払いができない場合には、受託者自身の財産で支払いをしなければならないことになります。

例えば、家族信託した自宅の屋根の一部が台風や強風によって倒壊し通行人に損害を与えた場合やアパートの手抜き工事によって入居者に損害を与えた場合、受託者は土地所有者として工作物責任(民法717条)を負う可能性があります。工作物責任とは、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときに、その工作物の占有者が被害者に対して負う責任ですが、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたときは、所有者がその損害を賠償しなければならないとされています。
受託者は所有者ですので、者は、過失がなくても工作物責任を負わなければならない場合があるということです。工作物責任による損害賠償を信託財産で支払うことができなければ、受託者個人の財産で支払いをしなければなりません。

同様に、ローン付のアパートを家族信託して受託者が債務引受した場合新たに受託者が借入を行った場合に、信託財産から債務の返済ができなくなってしまうと、受託者個人の財産で返済を続けていかなければななりません。

この点、受託者の責任を限定する責任財産限定特約や限定責任信託という制度がありますが、事前に債権者の承諾が必要となるなど手続きが複雑であるため、家族信託ではほとんど用いられていません。

受託者の無限責任は非常に重い責任ですが、これを知らないまま家族信託の受託者となっているケースもあるようです。専門家から十分に説明を受け、しっかりと理解しておきましょう。

受益者に対する責任(損失てん補責任

【信託法40条1項】

受託者がその任務を怠ったことによって次の各号に掲げる場合に該当するに至ったときは、受益者は、当該受託者に対し、当該各号に定める措置を請求することができる。ただし、第二号に定める措置にあっては、原状の回復が著しく困難であるとき、原状の回復をするのに過分の費用を要するとき、その他受託者に原状の回復をさせることを不適当とする特別の事情があるときは、この限りでない。

 信託財産に損失が生じた場合 当該損失のてん補

 信託財産に変更が生じた場合 原状の回復

受託者は、任務を怠った(=2の義務に違反した)ことによって信託財産に損失が発生した場合には、その損失をてん補(埋め合わせ)をする責任を負います。例えば、受託者の義務違反によって家族信託したアパートや株式などの価値が下落してしまった場合に、その損失の負担を受益者から請求されると、受託者は損失をてん補しなければなりません。

同様に、信託財産に変更が生じた場合には、受託者は原状回復を行う責任を負うことになります。

4 受託者の資格・条件

相談者相談者

受託者になるには、何か資格や条件などは必要となるのでしょうか?                           

受託者になるために資格や条件は必要ありません。未成年でなければ誰でもなることができます。 

元木司法書士

受託者に資格や条件はない

【信託法7条】

信託は、未成年者を受託者としてすることができない。 

家族信託の受託者は、未成年者」でなければ誰でもなることができます。法律上、未成年は財産を管理する能力がないとされているので受託者にはなることができませんが、その他に特に資格や条件は必要とされていません。

法人を受託者にすることもできる

また、株式会社、合同会社、一般社団法人などの「法人」を受託者とすることもできるとされています。個人を受託者とした場合、病気や事故などによって信託事務ができなくなってしまうリスクや受益者より先に亡くなってしまうリスクなどが考えられますが、法人にはそのようなリスクはありません。

既存の資産管理会社や新たに設立した法人などを受託者とすることによって、個人が受託者となる場合よりも安定的に家族信託を継続できる可能性があります。ただし、信託の引き受けを営利目的をもって反復継続して行うことは信託業法上の免許または登録が必要となりますので注意が必要です。また、法人を維持するには役員などの構成員が必要となりますから、上記リスクの根本的な解決にはなり得ないとの指摘もあります。

5 家族信託の受託者を選ぶ際の5つの注意点

相談者相談者

受託者のことがよくわかりました。受託者を選ぶときには何に注意すればよいですか?

家族信託の受託者を選ぶ際は5つの注意点があります。    

元木司法書士

上記のとおり、家族信託の受託者になるにあたって何か特別な資格や条件が必要となるわけではありません。とはいえ、受託者は誰でもよいというわけではありません家族信託を安全・確実に進めていくためには、適切な受託者を選任することが必要不可欠です。

それでは、受託者を選ぶ際はどのような点に注意すればよいのでしょうか。主な注意点として下記の5つが挙げられます。

受託者を選ぶ際の5つの注意点

注意点① 委託者よりも年齢が若い受託者を選ぶ

家族信託の受託者に未成年でなければ特に年齢制限はありません。しかし、委託者と同じ世代の方を受託者に選任すると、受益者よりも先に受託者が亡くなってしまう可能性があります。配偶者や兄弟姉妹ではなく、子供や甥・姪など受益者よりも若い世代の人を受託者に選任するのがよいでしょう。

プラスワン・アドバイス  
         弁護士や司法書士などの士業は家族信託の受託者になれるのか?

家族信託を利用したいが受託者をお願いできる家族がいない場合、弁護士や司法書士に受託者をお願いすることはできるのでしょうか?

結論として、弁護士や司法書士などの士業は受託者になることができないと考えられています。なぜなら、弁護士や司法書士が受託者になることは、信託業法上の「信託業」に該当する可能性が高い(※)からです。信託業を行うためには、信託業法上の免許または登録が必要となりますが、士業が免許や登録を受けることはできません。

したがって、受託者をお願いできる家族がいないケースでは、任意後見制度など他の対策を検討することになります。

※これに対して、家族が受託者となる場合には「信託業」には該当しないとされています。

注意点② 信託契約書で後継受託者を選任しておく

家族信託は委託者兼受益者が亡くなるまで継続することが一般的ですので、長期間継続することも十分考えられます。そのため、受託者が先に死亡したり、病気や事故によって信託事務ができなくなるリスクがあります。

そこで、信託契約書の中で後継受託者を選任しておくことが推奨されています。後継受託者を選任しておくことで、当初の受託者に万が一の事態が発生したとても、信託事務が停滞することなくスムーズに引き継ぐことが可能となります。

後継受託者の定めがない場合には、委託者と受益者の合意(通常の家族信託では委託者と受益者は同一人物なので事実上単独で決定できる)によって後継受託者を定めることになります。しかし、家族信託では委託者兼受益者は高齢であることが多いため、認知症などによる判断能力の低下によって意思表示ができない状態になっていること可能性もあります。

後継受託者が選任されず、受託者が不在の状態が1年経過すると家族信託は終了してしまいます。

信託契約書においてできる限り後継受託者を定めておくようにしましょう。

プラスワン・アドバイス  
  受託者を複数選ぶことはできるのか

家族信託の受託者を複数で行うことはできるのでしょうか。例えば、父親の認知症対策として家族信託を開始する際、長男と次男が同時に受託者なれるのかどうかという問題です。

結論としては、複数の者が同時に受託者となることも法律上可能ですが、実務上は受託者は「単独」で行うことが一般的です。理由は2つあります。

まず、受託者を複数にした場合、信託事務を進めていく際の意思決定がスムーズにいかなくなる恐れがあります。受託者が2人以上ある信託においては、信託事務の処理については、受託者の過半数をもって決めるのが原則なので、意見が一致しない場合に信託事務が進められなくなるリスクがあります。各受託者が独立して信託事務を進めることができる旨の定めを置くことができますが、それでは受託者を複数にした意味があまりなくなってしまうでしょう。

また、受託者が複数の場合「信託口口座」が作成できないという問題もあります。銀行でも証券会社でも共同名義での口座開設には対応しておりません。また、各々が信託口口座を開設することもできません。

したがって、家族信託において受託者を複数にすることは稀です。上記の例でいえば、長男を当初受託者、次男を後継受託者としてスタートすることが一般的です。

注意点③ 受託者の義務や責任をしっかり理解した人を選ぶ

家族信託では、どうしても受託者の「権限」(信託財産について受託者ができること)ばかりがクローズアップされがちですが、2・3で確認した義務や責任について事前に理解しておくことが非常に重要です

安易に受託者に就任して思わぬ責任を負うことがないよう、信託契約を締結する前にしっかりと専門家から説明を受けておきましょう。

注意点④ 委託者が心から「信頼」する人を選ぶ

家族信託は、委託者と受託者の「信頼関係」があって初めて成立します

家族であれば誰でもよいというわけではありません。委託者が心から信頼できる人に受託者をお願いするべきです。受託者に財産管理を任せることに不安を感じるようであれば、家族信託を始めるべきではありません。

注意点⑤ 受託者のフォロー体制を作る

ほとんどの人にとって家族信託の受託者になるのは初めての経験です。家族信託のメリットは分かるが、今後受託者として財産を管理をしていくことに不安を感じる人も多いでしょう。また、信託事務を進めていく上で様々な疑問点が出てくることも予想されます。

そこで、受託者を継続的にフォローする体制を作っておくことが大切です。家族信託の手続きを依頼した司法書士や弁護士などの専門家にいつでも質問できるようにしておくことが一番スムーズです。また、専門家を受託者監督人や受益者代理人に選任することも検討してもよいでしょう。

6 受託者の報酬の定め方

相談者相談者

受託者の業務は決して軽いものではないですね。受託者は報酬を受け取ることはできるのでしょうか?

 受託者に報酬を支払うことは可能です。ただし、信託契約書にその旨必ず定める必要があります。    

元木司法書士

報酬を受け取るには必ず契約書に報酬の定めが必要

家族信託の受託者に報酬を設定するかどうかは自由です。認知症対策として自宅や金銭を管理するだけであれば無報酬のケースが多いですが、収益物件を信託した場合には、テナントや管理会社とのやり取りなど受託者の負担が増えますので報酬を設定するケースもあります。

注意が必要なのは、受託者が報酬を受け取るためには、必ず信託契約書の中で信託報酬を支払う旨を定めなければなりません。信託契約書に報酬の定めがなければ、報酬を受け取ることができません。

報酬の定め方

報酬の定め方や上限・下限などについては法律上の決まりはなく、信託契約書の中で自由に決定することができます

信託契約書において実際に受託者の報酬を定めるには、次のような方法が考えられます。

 ①具体的な報酬額を設定する方法(例:金3万円を毎月末日に支給する)

  ②報酬額の具体的な算定方法を設定する方法(例:信託財産である不動産の賃料収入の○○%を毎月末日に支給する)

 その都度受益者と受託者の協議により決定する方法(例:相当な額を、受益者と受託者との協議により決定し、支給する)

 報酬額は自由に決定できますが、信託財産の規模や信託事務の内容から考えて過大な報酬を設定すると、税務上、贈与とみなされるリスクがあります。報酬額の決定にあたっては、成年後見制度における専門家の後見人報酬額(毎月3~5万円程度)や一般的な不動産の管理報酬(賃料の35%程度)を参考にするとよいでしょう。また、報酬は受託者の所得となりますので、金額によっては受託者の確定申告の対象となります。報酬額の決定にあたっては税理士に相談すると安心でしょう。

7 まとめ

最後までご覧いただきありがとうございました。いかがでしたでしょうか。

受託者には信託財産の管理・処分権限だけでなく、様々な義務や責任があることが分かったと思います。実際に家族信託をスタートする前に必ず理解しておきましょう。

本コラムが皆さまが安心して家族信託をスタートする一助になれば幸いです。それでは、最後に本コラムのまとめです。

本コラムのまとめ

・受託者には信託財産の管理・処分権限がある

・受託者には主に9つの義務がある。
 ①忠実義務
 ②分別管理義務
 ③公平義務
 ④信託事務遂行義務
 ⑤善管注意義務
 ⑥信託事務の処理の委託における第三者の選任及び監督に関する義務
 ⑦信託事務の処理の状況についての報告義務
 ⑧帳簿等の作成等、報告及び保存の義務
 ⑨信託の計算書及びその合計表の提出義務

・受託者の責任には、第三者に対する責任(無限責任)と受益者に対する責任(損失てん補責任がある)がある。

・家族信託の受託者に特に資格や条件はない

・家族信託の受託者を選ぶ際には5つの注意点がある
  注意点① 委託者よりも年齢が若い受託者を選ぶ
  注意点② 信託契約書で後継受託者を選任しておく
  注意点③ 受託者の義務や責任をしっかり理解する
  注意点④ 委託者が心から「信頼」する人を選ぶ
  注意点⑤ 受託者のフォロー体制を作る

・受託者が報酬を受け取るためには、信託契約書に報酬の定めが必要

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