株主の判断能力低下で会社がデッドロック-自社株の家族信託で会社を守った事例

事例の概要

 

◆利用サービス

「家族信託組成コンサルティングサービス (プランE・自社株)」※1

◆ご家族

お母様(85歳)=東京都渋谷区在住 

ご長男(64歳)=千葉県市川市在住 ★委託者★

ご次男(58歳)=千葉県千葉市在住 ★受託者★

◆保有財産

株式会社ABC商事(仮)の株式

◆ご相談者

木村佑二様(仮)/ご次男

◆解決期間

約2ヵ月

※1「家族信託組成コンサルティングサービス (プランE・自社株)」とは、オーナー経営者が保有する自社株式を対象に、信託の仕組みを活用して円滑な事業承継を実現するための専門コンサルティングサービスです。本サービスの特徴は、経営者が持つ「議決権」と「株式の財産的価値」を切り離して管理する点にあります。これにより、経営者が元気なうちは引き続き実質的な支配権を維持しながら、万が一認知症などで判断能力を喪失した場合には、あらかじめ指定した後継者が即座に議決権を行使できる体制を整え、経営の空白期間やデッドロックを防ぎます。

東京都渋谷区で金物製造業を営む株式会社ABC商事(仮)は、お父様が創業した会社です。
お父様の死亡後は、お母様、ご長男、ご次男の3人で会社を切り盛りしてきました。 実務の中心はご長男とご次男が担い、お母様も家族経営の一員として会社を支えてきました。

しかし、株式の大部分を保有していたご長男が進行性の病気を発症し、将来的に判断能力が低下するリスクが現実のものとなります。ご長男は独身で子もおらず、このままでは会社の重要な意思決定が滞るおそれがありました。

そこでミラシアは、ご長男保有の自社株をご次男に家族信託し、あわせてご次男が会社を代表できる体制も整えることで、本人の意思を尊重しながら会社の継続性を確保する提案を行いました。

1.ご依頼の背景~会社で本当に重要なのは、社長の肩書きではなく株主だった~

ご相談に来られたのは、ご次男の木村佑二様(仮)でした。木村様は、長年、兄であるご長男とともに株式会社ABC商事(仮)の経営に関わってこられました。会社はお父様が創業した金物製造業で、地域の取引先や仕入先との関係も安定しており、業績も堅調でした。

そして、お父様の死亡後は、お母様、ご長男、ご次男の3人で会社を切り盛りしてきたとのことでした。ご長男が経営判断や対外的な対応を担い、ご次男が現場や日々の業務運営を支え、お母様も家族として会社を見守りながら支えてきたそうです。外から見れば、家族が力を合わせて会社を守ってきた、堅実な同族会社でした。

しかし、法務の観点から見ると、別のリスクがありました。会社の株式の大部分をご長男が保有していたことです。実務は兄弟で分担していても、会社の重要事項に対する最終的な影響力は、議決権を多く持つご長男に集中していました。

さらに、株式会社ABC商事(仮)は取締役会を設置していない会社でした。このような会社では、誰が株式を持ち、誰が議決権を行使できるかの意味がより直接的に表れます。中小企業では、日々の経営は代表者や現場の役員が回しているように見えますが、会社の土台を押さえているのは株主です。 取締役を選ぶのも、会社の重要事項を決めるのも、最終的には株主総会です。つまり、株式会社では「誰が社長か」より前に、「誰が株式を持ち、誰が議決権を行使できるか」を見なければなりません。

この点は、一般の方には意外に感じられるかもしれません。日々の取引や従業員対応、金融機関とのやり取りなどをしているのは代表者ですから、「社長が一番大事」と思われがちです。もちろん、現場では代表者の役割は大きいです。ただ、法的に会社の人事と意思決定の土台を押さえているのは株主です。代表者を変えることも、役員を選ぶことも、会社の重要事項を進めることも、結局は株主と議決権の問題に行き着きます。

そんな中で、ご長男が前頭側頭型認知症と診断されました。相談時点では、直ちに何も判断できない状態ではありませんでしたが、以前に比べて会話や判断の場面で変化が見られるようになり、今後の経営への影響を無視できない状況でした。ご長男は独身で子もいません。しかも、主要株主です。このままご長男の判断能力が低下した場合、会社の重要な意思決定が止まるおそれがある。 木村様の不安は、まさにそこにありました。

木村様は、「兄から権限を取り上げたいわけではないのです。ただ、兄に何かあったときに会社が止まってしまうのは避けたい」と話されていました。私は、この言葉に本件の本質が表れていると感じました。必要だったのは、ご長男を早々に経営から外すことではありません。ご長男の意思を尊重できるうちは尊重しながら、会社が止まらない法的な仕組みを作ることでした。

2.解決までの道のり / ミラシアだからできたこと

ステップ1 問題を「病気の問題」ではなく「株主・議決権の問題」として整理

ご相談の初期段階では、「相続のことを考えた方がよいのではないか」という発想もありました。確かに、ご長男が独身で子もいない以上、将来の承継先をどうするかは重要です。ただ、本件で先に手当てすべきだったのは、死亡後の相続ではありませんでした。本当に急いで対策すべきだったのは、生前にご長男の判断能力が低下した場合に、会社の議決権行使と意思決定がどうなるかという点です。

ここを誤ると、対策の順番を間違えます。遺言書は死亡後の承継には有効ですが、生前の会社経営の停滞を防ぐものではありません。 一方、家族信託は、生前の財産管理や権限行使の仕組みを設計するのに適しています。本件のように、主要株主の判断能力低下が会社運営に直結するケースでは、相続対策よりも前に、生前対策が必要でした。

私は、自社株に関する相談では、まず「誰が代表者か」よりも、「誰が議決権を持っているか」を確認します。中小企業では、実際に日々働いて会社を支えている人と、法的に会社を動かせる立場にある人が一致していないことが少なくありません。本件もそうでした。会社を支えてきたのはお母様、ご長男、ご次男の3人ですが会社の命運を左右し得る議決権はご長男に集中していたのです。

この段階で、私は木村様に、「会社が止まる原因は、社長が病気になることそのものではなく、大株主が議決権を行使できなくなることにあります」とお伝えしました。これは、自社株の家族信託を考えるうえで非常に大切な視点です。

ステップ2 自社株信託と譲渡承認手続をセットで進める

問題の整理ができた後、ご長男保有株式を対象とした家族信託の設計に入りました。本件では、ご長男を委託者兼当初受益者、ご次男を受託者とする形を前提に進めました。これにより、ご長男の経済的利益はご長男に残しつつ、将来、ご長男の判断能力が低下した場合には、ご次男が受託者として株式を管理し、議決権を行使できるようにすることができます。

また、ご長男に判断能力が十分にある間は、ご長男が指図権者として意思を示し、その意思を受託者であるご次男が経営に反映する設計としました。これにより、単に権限を移すのではなく、ご長男の意思をできるだけ生かしながら、将来の空白に備えることができます。

もっとも、自社株の家族信託は、契約書を作れば終わりではありません。自社株は会社の中に組み込まれている財産です。そのため、株式の譲渡承認、株主名簿の整理、社内書類の整備など、会社法実務に即した対応が必要になります。本件の会社も譲渡制限会社でしたので、株式信託にあたって必要となる社内手続を丁寧に確認し、進めていきました。

ここは、自社株信託の実務で特に重要なところです。一般の不動産信託や金銭信託と違い、自社株信託では、会社側の手続が伴わなければ、いざというときに議決権行使の正当性で混乱が生じるおそれがあります。

そのためミラシアでは、信託契約書案の作成にとどまらず、譲渡承認に必要な流れの整理、社内資料の確認、株主名簿の整備まで、一体としてサポートしました自社株信託は、信託法だけでなく会社法実務まで見て初めて実効性が出るのです。

ステップ3 株式対策だけで終わらせず、会社を代表できる体制も整える

本件でミラシアがもう一つ重視したのは、株主としての対策だけでは会社は守りきれないという点です。たとえ家族信託によって議決権の停滞リスクを抑えられたとしても、日々の契約、金融機関対応、重要な対外手続などが一人の代表者に集中していれば、別の意味で会社は動きにくくなります。

そこでミラシアは、株式信託と同時に、男が会社を代表できる体制を整えることを提案しました。具体的には、ご長男だけに代表権を集中させるのではなく、ご次男も会社を代表できる状態に見直すことで、ご長男に何らかの事情が生じても、会社の対外的な業務が止まらないようにしたのです。

この提案には、木村様も強く納得されました。実際、会社が止まる場面は株主総会だけではありません。取引先との契約更新、設備投資、金融機関とのやり取り、各種書類への署名押印など、日々の経営には代表権が必要な場面が数多くあります。会社を本当に止めないためには、議決権と代表権の両方を見直す必要があります。

私は、このような案件では、株式の問題と役員体制の問題を別々に考えないようにしています。議決権だけを整えても、現場の経営執行が止まれば意味がありません。逆に、代表権だけを整えても、株主としての土台が不安定なら、将来どこかで必ず問題が出ます。本件のポイントは、自社株信託と代表体制の見直しをセットで進めたことにありました。

3.サポートの結果とお客様の声

本件では、ご長男の意思確認が十分にできる段階で、自社株の家族信託と会社を代表できる体制整備を進めることができました。これにより、ご長男が判断できる間はその意思を経営に反映しつつ、将来、判断能力の低下が進んだ場合にも、ご次男が受託者として議決権を行使し、会社運営を継続できる土台を整えることができました。

これは単に「信託契約を作った」という話ではありません。ご長男の意思を尊重しながら、会社の意思決定が止まるリスクを減らしたことそして族経営の会社に必要な法務と経営の接点を整理できたことに大きな意味がありました。

木村様からは、次のようなお話をいただきました。

「最初は、家族信託というと相続や不動産の話だと思っていました。ですが、今回相談して、会社では株主がどれだけ重要かを改めて実感しました。父が亡くなってからは、母と兄と私で会社を支えてきました。だからこそ、兄の体調の問題で会社が止まるのは避けたかったです。兄の思いを残しながら、会社を止めない形にできたことに安心しています。契約書を作るだけでなく、会社の手続や体制まで一緒に見てもらえたので、ようやく現実的な備えができたと感じています。」

4.担当司法書士から

author-avatar司法書士  元木翼

自社株の家族信託は、一般的な家族信託よりも難易度が高い分野です。理由は明確で、信託法だけでなく、会社法、株主名簿、社内手続、役員体制まで見なければ、本当に使える対策にならないからです。

私は、自社株の案件では、必ず「会社で一番重要なのは誰か」という視点を持つようにしています。現場感覚では、社長や代表者が最も重要に見えます。もちろん、それは間違いではありません。ただ、法務の世界では、社長を支えている土台は株主であり、株主を支えているのは議決権です。とくに取締役会を設置していない中小企業では、この構造がよりはっきり表れます。だから私は、社長を見る前に株主を見ます。

本件でも、もし単に「ご長男が病気になった」という理解で止まっていたら、役員の問題としてしか処理できなかったかもしれません。しかし、実際に重要だったのは、大部分の株式を持つご長男が、将来、議決権を十分に行使できなくなるリスクでした。そこを正しく捉えたからこそ、家族信託と代表体制の見直しを一体で提案することができました。

また、本件では、お父様の死亡後、お母様、ご長男、ご次男で会社を切り盛りしてきたというご家族の経緯も重要でした。単なる財産管理の話ではなく、家族で守ってきた会社を、これからも止めないためにどうするか、という相談だったからです。私は、こうした同族会社の案件では、法律だけでなく、家族の歴史や役割分担まで含めて見ないと、表面的な対策で終わってしまうと感じています。

もっとも、家族信託は万能ではありません。今回のようにご長男が独身で子がいない場合には、将来的に株式を誰に承継させるのか、ご長男の死亡後の帰属をどう設計するのか、といった出口の問題も引き続き重要です。生前に会社を止めない工夫と、死亡後に会社を引き継ぐ工夫は、本来ひと続きのものです。私は、この二つを切り離さずに考えることが大切だと考えています。

中小企業では、業績が良いほど法務上の弱点が見えにくいことがあります。しかし、売上が順調でも、主要株主の判断能力低下という一点で、会社の意思決定が止まることは十分にあり得ます。 だからこそ、自社株を多く持つ経営者やそのご家族には、「まだ元気だから大丈夫」ではなく、「元気な今だからこそ設計できる」という発想を持っていただきたいと思います。

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家族信託の取扱実績全927件※!司法書士法人ミラシア
※集計期間:2017年1月〜2025年12月