「兄弟に疑われたくない」家族信託を希望していたものの、あえて任意後見をご提案し、将来の紛争リスクを抑えた事例

事例の概要

◆利用サービス

「任意後見コンサルティングサービス」

◆ご家族

母(88歳)=千葉県千葉市在住  ★任意後見委任者★
長男(64歳)=千葉県市川市在住 ★任意後見受任者★
次男(61歳)=千葉県千葉市在住
三男(57歳)=静岡県掛川市在住 

◆保有財産

不動産:千葉市の自宅マンション(80㎡、築30年、時価約7000万円)
金銭:1300万円

◆ご相談者

母 番場登美子様(仮名)
長男 番場義和様(仮名)

◆解決期間

約1ヵ月

※1「任意後見コンサルティングサービス」とは、自宅不動産の管理・処分権限をご家族へ移転することを目的に、信託スキーム設計から契約書作成、公証役場や信託口口座開設の調整、および信託登記手続を一括して代行するサービスです。認知症による「実家凍結(売却不可)」リスクを回避できるため、将来の介護施設入居費用に充てるための売却や、管理費用の支払いを円滑にし「いざという時に自宅をスムーズに売却できるようにしたい」という方に最適です。

千葉県千葉市にお住まいのお母様と長男様から、認知症への備えとして家族信託を検討したいとのご相談をいただきました。

お母様はすでに遺言を作成し、長男様に多めに財産を引き継がせる方針を決めておられましたが、遺言だけでは、お母様が認知症になった場合の財産凍結には対応できません。

そこで生前の対策として家族信託を希望されていましたが、ご家族には複雑な事情があり、制度の選び方によっては将来の疑念や対立を招くおそれもありました。

ミラシアでは、ご家族関係、お母様の意向、現在の財産管理の実情を丁寧に整理したうえで、本件では家族信託よりも任意後見の方が適していると判断しました。結果として、ご相談から約1カ月で任意後見契約の公正証書作成まで完了し、将来に向けた無理のない備えを整えることができました。

1.ご依頼の背景~遺言を作っても残った、認知症による財産凍結への不安~

ご相談いただいたのは、千葉県千葉市にお住まいのお母様と、そのご長男様でした。

お母様には3人の息子様がいらっしゃいますが、ご家庭には複雑なご事情がありました。三男様ご夫婦は、かつてお母様と同居していた時期がありましたが、その際にお母様のお金を使い込むことがあったとのことで、その後は別居となり、現在は疎遠な状態でした。次男様についても、これまで安定した就労経験が乏しく、60代になった現在も短期のアルバイトなどで生活されている状況でした。

こうした経緯から、お母様は、これまで自分を支えてくれた長男様により多くの財産を引き継がせたいと考え、すでに遺言を作成されていました。内容は、「長男7割、次男1.5割、三男1.5割」 というものでした。相続が発生した後の財産の分け方については、お母様の中で明確な意思が固まっていたのです。

もっとも、長男様はその後、別の不安を抱くようになりました。
それは、遺言はあくまで相続が発生した後に効力を持つものであり、お母様の生前の財産管理まではカバーできない という点です。

仮にお母様の判断能力が低下してしまえば、預貯金の引き出し、施設費用の支払い、自宅マンションの処分や管理などに支障が生じる可能性があります。遺言を作っていても、認知症による財産凍結の問題は別に残るため、長男様としては「このままでは十分ではないのではないか」という不安が強くなっていきました。

そこで、お母様の意思を尊重しつつ、生前の財産凍結リスクにも備える方法として、家族信託を検討されるようになりました。ただし、このご相談には、単純に「家族信託を使えばよい」という話では済まない難しさがありました。

というのも、お母様も長男様も、遺言の存在やその内容について次男様、三男様には伝えておらず、追加の対策についてもなるべく知られたくないというお気持ちをお持ちだったからです。ご家族関係に緊張がある以上、制度の使い方によっては、後になって「勝手に財産を動かしたのではないか」と疑われるおそれもあります。

本件で本当に大切だったのは、単に認知症対策の制度を選ぶことではなく、お母様の意思を守りながら、長男様が将来も無理なく、かつ疑われにくい形で財産管理に関われるようにすることでした。

ミラシアでは、この点を出発点として、家族信託を前提に進めるのではなく、まずご家族の状況そのものを丁寧に整理するところからサポートを始めました。

2.解決までの道のり / ミラシアだからできたこと

ステップ1 家族信託ありきではなく、解決すべき課題を整理

ご相談当初、お母様と長男様は「認知症対策をするなら家族信託だと思う」と考えておられました。家族信託は、認知症対策として非常に有効な場面が多く、実際にミラシアでもご提案することの多い制度です。もっとも、家族信託は有力な選択肢ではあっても、すべてのご家庭にとって最適な答えになるわけではありません。

そこでミラシアでは、まず制度の説明から入るのではなく、次のような点を丁寧に確認しました。

お母様の現在の判断能力や健康状態はどうか。
お母様は今の段階で財産管理を誰かに任せたいと思っているのか。
今後、自宅マンションを売却したり、大きく財産を動かしたりする必要があるのか。
ご兄弟との関係はどの程度緊張しているのか。
遺言の内容や、その遺言を作成した経緯にはどのような思いがあるのか。
さらに、仮に家族信託を組成した場合、長男様に万が一のことがあったときに、その後の管理を誰が担うのかという点まで含めて検討しました。

その結果、次のような本質的な課題が見えてきました。

まず、お母様は高齢ではあるものの、当時まだ判断能力は明晰で、「今はまだ自分で管理したい」 というお気持ちをはっきりお持ちでした。次に、現在は施設に入居されており、日々の生活費や施設費は自動引き落としでおおむね対応できていました。さらに、自宅マンションについても、直ちに売却が必要な状況ではなく、お母様ご本人にも今すぐ処分したいという意向はありませんでした。

つまり、本件では、今すぐ誰かが積極的に財産を動かさなければならない事情が強くはありませんでした。

一方で、ご兄弟との関係には繊細な事情があり、仮に家族信託を秘密裏に進めたとしても、後にその存在や管理内容が分かったときに、長男様が疑われる余地が残ることは避けられません。長期にわたる制度である以上、最初は伏せていたとしても、いつかは説明を要する場面が生じる可能性が高いからです。

ミラシアがここで重視したのは、「何の制度を使うか」よりも、「何を実現したいのか」「そのために何を避けるべきか」という視点でした。
本件で本当に解決すべき課題は、家族信託を作ることではなく、お母様の意思を尊重しながら、将来の財産管理を滞らせず、しかも兄弟間の無用な対立を生まない形を作ることだったのです。


ステップ2 任意後見が適切と判断した理由を丁寧にご説明

ステップ1で事情を整理した結果、ミラシアは、本件では家族信託よりも任意後見の方が適していると判断しました。

本件では、家族信託を「できるかどうか」ではなく、「本当にこのご家族に合っているかどうか」で考える必要がありました。
そのうえで、任意後見をご提案した主な理由は、次の3点です。

お母様がまだ元気で、今すぐ財産管理を手放すことを望んでいなかったこと

家族信託では、契約内容にもよりますが、一般的には信託開始後、受託者が信託財産の管理・処分権限を担うことになります。もちろん、お母様の意向を反映した設計は可能ですが、少なくとも「今はまだ自分で管理したい」というお気持ちが強い場合には、その感覚とずれが生じることがあります。

本件では、お母様はまだ判断能力がしっかりしており、財産管理についてもすぐに他人へ委ねたいとは考えておられませんでした。
そのため、契約をした直後から長男様へ管理権限が移る家族信託よりも、将来、判断能力が低下した段階で効力が問題となる任意後見の方が、お母様のお気持ちに沿っていました。

現時点で大きく財産を動かす必要性が高くなかったこと

本件では、お母様はすでに施設に入居しておられ、毎月の支出は自動引き落としで対応できていました。自宅マンションも、すぐに売却しなければならない事情はなく、積極的な組み替えや処分を予定しているわけでもありませんでした。

家族信託の大きな強みは、判断能力低下後も受託者が柔軟に財産を管理・処分しやすい点にあります。しかし、そもそも現時点でそのような積極的な財産管理が強く想定されないのであれば、その強みが前面に出る案件とはいえません。

本件では、「自由に動かせる制度」であることよりも、「必要になるまで本人が管理を続けられる制度」であることの方が重要でした。
その意味で、任意後見の方が現状に合っていました。

ご兄弟との関係から、透明性のある仕組みの方が長男様を守れると考えられたこと

本件では、この点が特に重要でした。

家族信託は、法定相続人全員の同意がなければ作れない制度ではありません。もっとも、同意が不要であることと、他のご家族に一切知らせず進めることが実務上適切かどうかは、別問題です。

本件では、次男様、三男様との関係に緊張がありました。仮に家族信託を組成し、長男様が受託者として財産管理を担った場合、後から制度の存在や財産の動きが分かったときに、「勝手にやったのではないか」「自分たちに不利なことをしたのではないか」と疑われるおそれがありました。

さらに、長男様に万が一のことがあった場合、後継受託者をどうするかという問題も現実的に考えなければなりません。ご兄弟に制度の存在すら伝えていない状態で、長期にわたる家族信託を円滑に回していくことには、無理が生じやすいと考えられました。

これに対して任意後見では、家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、その監督のもとで任意後見人が事務を行います。つまり、裁判所と第三者の目が入ることで、財産管理の透明性と信頼性を確保しやすい のです。

本件では、長男様が単に管理しやすいこと以上に、「後から見ても疑われにくいこと」「長男様ご自身を守れること」 がとても大切でした。ミラシアは、その点からも任意後見が適切だと判断しました。

もちろん、任意後見にもデメリットはあります。任意後見契約が実際に動き出す際には、任意後見監督人の選任が必要となり、監督人への報酬負担も生じます。
それでも本件では、そのコストを踏まえても、透明性の高い仕組みを作るメリットの方が大きい と考えられました。

ステップ3 約1カ月で任意後見契約の公正証書作成まで完了

方針が固まった後は、任意後見契約の内容を整理し、公正証書作成に向けた準備を進めました。

任意後見は、単に契約を結べば終わりではありません。将来、実際に判断能力が低下した場合に、どのような財産管理や手続を誰が担うのかをできる限り具体的に想定しておくことが重要です。そこでミラシアでは、対象財産の内容、今後想定される管理場面、ご長男様に担っていただく役割などを丁寧に整理したうえで、公証役場との打ち合わせや必要書類の準備を進めました。

本件では、お母様の意向が明確なうちにきちんと形にしておくことが大切だったため、スピード感も重視しました。ご依頼者様に何度もご負担をおかけしないよう、ミラシアが全体の窓口となって段取りを整理し、必要な場面ごとに分かりやすくご説明しながら進めた結果、ご相談開始から約1カ月で、任意後見契約の公正証書作成まで完了しました。

制度選びの段階でしっかり整理ができていたからこそ、その後の手続きも迷いなく進めることができた事例でした。


3. サポートの結果とお客様の声

今回のサポートにより、お母様の相続に関する意思を尊重しつつ、生前の財産管理についても備えを整えることができました。

まず、お母様は、判断能力が十分な間はこれまでどおりご自身で財産管理を続けることができます。これは、今すぐ管理を手放したくないというお母様のご意向に合った形です。その一方で、将来、判断能力が低下したときには、長男様が正当な立場で財産管理に関与できる土台が整いました。

また、本件では、ご兄弟との関係性から、単に生前対策を作るだけでなく、後から見ても不自然ではない、説明可能な形にすること が重要でした。任意後見を選択したことで、裁判所や任意後見監督人の関与のもとで財産管理が行われるため、長男様が不当に疑われるリスクを抑えることにもつながりました。

さらに、すでに作成済みだった遺言との役割分担も明確になりました。
遺言は相続後の財産承継を定めるもの、任意後見は生前の判断能力低下に備えるものとして整理されたことで、相続対策と認知症対策の両方が、無理なくかみ合う形になりました。

今回、お客様からは次のようなお言葉をいただきました。

「最初は家族信託にすれば安心だと思っていましたが、うちの家族関係や母の気持ちまで踏まえて考えると、任意後見の方が合っていると丁寧に説明してもらい、とても納得できました。遺言を作っていたので十分だと思っていましたが、生前の備えは別に必要だということもよく分かりました。これで将来何かあっても、あわてずに対応できると思いますし、私自身も少し肩の荷が下りました。」

単に制度を作ったというだけでなく、ご家族にとって無理のない着地点を見つけられたことが、本件の最も大きな成果だったと考えています。

4.担当司法書士から

author-avatar司法書士  永井悠一朗

認知症対策のご相談では、家族信託が有力な選択肢として挙がることが多く、実際に非常に有効な制度であることは間違いありません。もっとも、「家族信託が使えるかどうか」と「家族信託がそのご家庭に本当に合っているかどうか」は、まったく別の問題です。

本件は、まさにそのことを強く感じた事例でした。

もし表面的に「認知症対策をしたい」という点だけを見れば、家族信託を組成するという結論もあり得たと思います。しかし、本件では、お母様がまだ元気で、ご自身で財産管理を続けたいというお気持ちをお持ちでした。また、現時点で大きく財産を動かす必要性も高くありませんでした。それに加えて、ご兄弟との関係性には慎重な配慮が必要で、制度の作り方次第では長男様が後から疑われる可能性もありました。

このような案件では、制度の自由度の高さが、そのままメリットになるとは限りません。
むしろ、自由にできることが多いからこそ、後で説明が難しくなったり、不信感を招いたりすることもあります。

ミラシアは、家族信託だけを提案する事務所ではありません。遺言、任意後見、成年後見なども含めて、ご家庭ごとに最適な方法を考えることを大切にしています。私は、こうしたご相談では、「何の制度を使うか」だけでなく、「どの制度を使わない方がよいか」まで見極めることが重要 だと考えています。

本件では、任意後見にも監督人報酬などの負担はありますが、それでもなお、透明性の高い仕組みを作ることの価値が大きい案件でした。家族信託を無理に使わなかったこと自体が、結果としてご家族を守ることにつながったと感じています。

ご家族の事情は、それぞれ異なります。
同じ「認知症対策」というテーマでも、家族信託が向いているご家庭もあれば、任意後見の方が自然なご家庭もあります。大切なのは、制度の名前に引っ張られるのではなくご本人の意思、ご家族の関係、財産の内容、将来想定される管理場面まで含めて、総合的に判断すること です。

家族信託を考えているけれど、本当にそれでよいのか迷っている。
遺言は作ったが、生前の備えが十分か不安である。
そのような場合には、制度ありきで進めるのではなく、一度全体を整理することをおすすめします。ミラシアでは、ご家族にとって無理のない、実務的な着地点を一緒に考えていきます。

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※集計期間:2017年1月〜2025年12月