【2025年最新】遺言書の種類と選び方 自筆証書・公正証書・秘密証書遺言を徹底比較

はじめに~遺言書はなぜ必要?誰のためのもの?~

人生の終わりを見据えたとき、「自分の財産を誰にどのように引き継いでもらうか」はとても大切な問題です。遺言書とは、自分の財産の分け方や伝えたいメッセージを自分の最終意思として書き残すものです。特に50代〜80代の方やそのご家族にとって、遺言書の準備は決して他人事ではありません。遺産をめぐる話し合いは、仲の良い家族であっても時に揉め事の種になりがちです。実際、相続は「争族(争いの相続)」という言葉があるほどトラブルになりやすいものです。

「うちは財産も少ないし家族仲も良いから遺言書なんて必要ない」と思われるかもしれません。しかし、小さな財産でも分け方次第では思わぬ不公平感が生じたり、手続きの負担が増えたりします。また、財産の多少に関わらず、遺言書があることでご家族は手続きをスムーズに進めることができ、無用な心配や争いを避けることができます。遺言書は、残される家族への「思いやり」の一つとも言えるのです。

では、実際に遺言書を作成しようと考えたとき、どのような「種類」の遺言書を作れば良いのでしょうか?遺言書には法律で定められた形式がいくつかあり、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。

本コラムでは遺言書の3つの主要な形式(自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言)をわかりやすく比較し、どの形式を選ぶべきかを解説します筆者の相続専門の司法書士としての実務経験から、実際によくあるトラブル事例や成功事例も交え、読者の皆様が「これは自分にも関係ある」と感じながら読み進められるように構成しました。

最後まで読むことで、あなたやご家族にとって最適な遺言書の形式が見えてくるはずです。ぜひ参考にしてください。

1. 遺言書の種類は主に3種類〜自筆・公正・秘密

遺言書には法律上いくつかの種類がありますが、一般的によく利用される主要な形式は「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類です(これらは「普通方式の遺言」と呼ばれます)。それぞれ作成の方法や手続き、効力は同じですが、安全性や手軽さに違いがあります。また特殊な状況で認められる「特別方式遺言」も法律上存在しますが、遭難や大事故時など限定的な場合のものなので、ここでは一般的な上記3種類に絞って解説します。

まずは3つの遺言書の違いを比較表(図1)で押さえてみましょう。

【図1:3種類の遺言書の比較表】

種類(形式) 作成方法 主なメリット 主なデメリット
自筆証書遺言 遺言者(本人)が遺言の全文を自分で書いて作成する。
※財産目録(財産一覧)はパソコン等で作成可能(添付)。
・紙とペンがあればいつでも手軽に作成できる
・費用がほとんどかからない
・法務局の遺言書保管制度を利用すれば安全に保管できる(紛失リスク低減)
・保管制度を利用すれば家庭裁判所の検認が不要
・方式の不備などで無効になりやすい
・内容について専門家のチェックがないため争いの種になりやすい
・自分で保管する場合、紛失・未発見・改ざんされるリスク
・自宅保管の場合、死後に家庭裁判所での検認手続きが必要
公正証書遺言 公証役場で公証人が遺言者の口述を筆記して作成。
遺言者・公証人・証人2名が署名押印し完成。原本は公証役場で保管される。

・法律のプロである公証人が関与するので形式不備による無効の心配が少ない
・公証役場で原本を保管するため紛失や改ざんの恐れがない
・遺言書があるかどうか確実に検索・確認できる(全国公証人連合会の遺言検索システムで検索可)
・家庭裁判所の検認手続きが不要
・公証人に出張を依頼すれば病床でも作成可能
・紛失しても何度でも再発行できる

・他の形式に比べ費用がかかる(公証人手数料など)
・作成に手間がかかる(公証役場へ出向・証人2人の立会い等)
・遺言の内容を公証人と証人に知られる(※公証人・証人には守秘義務あり)
秘密証書遺言 遺言者が遺言内容を作成して封印し、公証役場に持参して公証人と証人2名の立会いのもと提出する。公証人は内容を確認せずに存在のみを証明。 ・遺言の内容を誰にも知られずに作成できる
・本文は代筆やパソコン作成でもよく、署名と押印さえ自書すればよいので高齢で筆記が困難でも可能
・作成に公証役場での手続きと費用(約1万円の手数料等)が必要
証人2名の立会いが必要
・公証人は内容をチェックしないため方式不備で無効になるリスク
・自分で保管するので紛失・未発見のリスク(家族が遺言書の存在自体に気づかない恐れ)
・死後に家庭裁判所での検認手続きが必要
・実務上は利用者が少なく、特殊なケース向き

上記のように、それぞれの遺言書形式には一長一短があります。法律上はどの形式でも要件を満たしていれば効力に差はありませんが、遺言内容を確実に実現できるか、手続きが円滑に進むかといった観点で違いが出てきます。実務上は、自筆証書遺言か公正証書遺言のいずれかの形式を選択することがほとんどです

それでは、ここからは各形式についてさらに詳しく見ていきましょう。

2. 自筆証書遺言とは(自分で書く遺言書)

自筆証書遺言とは、その名の通り遺言者本人が遺言の全文を自書(自分で書くこと)する方式の遺言書です。最も手軽で作成しやすいため、現実に作成される遺言書の大半は自筆証書遺言と言われています。用意するものは紙とペン、そして印鑑だけ。極端に言えば思い立ったその日にでも、自宅で自分一人で書き始めることができます。

2-1. 自筆証書遺言の作成方法と必要事項

自筆証書遺言を有効に作成するには、法律で定められた形式的な要件を守る必要があります。具体的には民法968条で、「遺言者が遺言の全文、日付、氏名を自書し、これに押印しなければならない」と定められています。そのため、パソコンで本文を作成したり、署名や押印が欠けていたりすると、その遺言書は無効になってしまいます。また日付も「令和○年○月○日」と特定できる形で書く必要があり、「○月吉日」など曖昧な表現は認められません。

とはいえ、2019年の法律改正により、自筆証書遺言でも財産目録(財産の一覧ページ)についてはパソコンで作成したものを添付することが可能になりました。例えば、複数の不動産や預貯金口座など、財産が多岐にわたる場合、すべてを手書きで列挙するのは大変です。そのような場合は、遺言書本文に「別紙の財産目録に記載した財産を◯◯に相続させる」といった形で書き、詳細な財産リストはパソコン等で作ったものを添付すればよいのです。ただし本文部分(誰に何を遺すかなどの重要事項)は自書する決まりですので注意しましょう。

【参考】

2-2. 自筆証書遺言のメリット

自筆証書遺言の最大のメリットは、思い立ったときにすぐ作成できる手軽さと、費用がかからない経済性です。自宅にある筆記用具と紙があれば、いつでもどこでも書き始められます。公証人役場に出向いたり証人を用意したりといった必要もなく、自分一人で完結できます。

また、近年は後述する「法務局の遺言書保管制度」を利用することで、自筆証書遺言を安全に保管できるようになりました。この保管制度を使えば、従来問題だった紛失や隠匿のリスクを大幅に減らせます。さらに保管制度を利用した場合、後述の「検認」の手続きを省略できるため、相続発生後の手続きもスムーズになります。

自筆証書遺言のメリット

メリット1 手続きが簡単でいつでも作成できる
自筆証書遺言は、紙とペンさえあればいつでも自分一人で作成できます。他の方式の遺言書のように証人(立会人)を用意したり公証役場に出向いたりする必要もありません。方式も比較的簡単で、全文を自書し日付・氏名・押印といった法律の定める要件を満たせば、有効な遺言書として認められます。
メリット2 費用がかからず経済的
自筆証書遺言の作成には特別な費用がかかりません。紙とペンがあれば始められ、公証人に支払う手数料なども不要です。例えば公正証書遺言では公証人への手数料が必要ですが、自筆証書遺言ならそうした経済的負担なく遺言書を準備できます。また、費用がかからない分、内容を変更したいときにも気軽に書き直しが可能です。
メリット3 内容の変更・撤回が容易
自筆証書遺言は、遺言者自身の手元で保管するため、いつでも自分の意思で内容を変更・撤回しやすい点も利点です。遺言の内容を変えたくなったら、新たに自筆証書遺言を書き直すことで簡単に更新できますし、古い遺言書を破棄すれば撤回したことになります。法律上、遺言書は最新のものが優先されるため、状況の変化に合わせて気軽に書き直せる柔軟性は大きなメリットです。

2-3. 自筆証書遺言のデメリット

一方、自筆証書遺言には手軽さ故に、様々なデメリットや注意点があります。

自筆証書遺言のデメリット

デメリット1 遺言書が発見されないリスク
自筆証書遺言を自宅などで保管する場合、死後に遺言書自体が発見されないリスクがあります。遺言を書いたこと自体を誰にも伝えていなかったり、伝えていても遺言書の所在を家族が失念してしまったりすると、せっかく用意した遺言がないものとして扱われてしまいます。遺言書が見つからなければ、ご自身の思い描いた相続分配が実現しない可能性もあるため注意が必要です。
デメリット2 紛失や改ざんなどの恐れ
自筆証書遺言はご自身で保管するため、紛失や破棄、隠匿(こっそり隠されてしまう)といった恐れもあります。また、他人による偽造や改ざんが行われる可能性も否定できません。極端な例では、遺言を書く際に第三者から心理的圧力を受けて本意でない内容を書かされてしまっても、作成時に立会人がいないため証明が難しいという問題もあります。こうしたリスクにより、ご自身の最終の意思が正しく相続人に伝わらない恐れがあります。
デメリット3 法定の形式を満たさないと無効になる可能性
自筆証書遺言には守るべき法定の形式があります。全文を自書すること、日付・氏名を正確に記載すること、押印をすることなど必要事項が定められており、これらを満たさない遺言書は無効となってしまいます。専門家のチェックなしにご自身で作成する場合、うっかり日付を書き忘れてしまったり、形式に不備が出たりするリスクは否めません。せっかく作成した遺言書も、要件不備で法的効力がなくなっては相続に役立てることができないため注意が必要です。
デメリット4 内容が不明確だと相続トラブルになる恐れ
自筆証書遺言では、内容の書き方にも注意が必要です。法律的に有効な形式で書かれていても、遺言の文言が不明確だったり法的に解釈しづらい内容だったりすると、相続人同士で遺言の意味を巡って争いが生じる恐れがあります。例えば、財産の分け方の指定が曖昧だった場合、受け取る相続人が解釈をめぐって対立してしまうかもしれません。専門家の助言なしで作成する自筆証書遺言では、このように内容面で相続トラブルの火種が残ってしまう可能性もデメリットと言えます。
デメリット5 家庭裁判所での検認が必要
公証人が関与しない自筆証書遺言は、相続開始後に家庭裁判所で「検認(けんにん)」という手続きを経る必要があります。遺言書を発見した相続人が家庭裁判所に遺言書を提出し、裁判所が遺言書を確認する手続きですが、この検認には時間と手間がかかります。検認が終わるまで遺産分割の手続きも進められず、相続人にとって大きな負担となりがちです。ただし、法務局の遺言書保管制度を利用して預けた自筆証書遺言であれば検認は不要です

手軽に作成でき費用もかからない自筆証書遺言は魅力的な反面、形式不備や保管方法によるリスクなど注意すべき点も多くあります。ご自身で遺言書を作成する際は、上記のメリットとデメリットを踏まえ、内容や形式に不備がないか十分に確認することが大切です。また、法務局の保管制度を活用するなど、リスクを減らす工夫も検討しましょう。

2-4. 法務局の「自筆証書遺言保管制度」でデメリットを補完

自筆証書遺言保管制度とは

上記の自筆証書遺言のデメリットを補う制度として、2020年7月より開始されたのが法務局による「自筆証書遺言書保管制度」です。これは、遺言者が自分で書いた遺言書の原本を生前に法務局(法務局の遺言書保管所)に預けて保管してもらえる制度です。保管を申請できるのは遺言者本人のみで、直接法務局に出向いて手続きを行います(代理申請は不可)。申請時には遺言書原本と本人確認書類、そして収入印紙で手数料3900円を納付します。

【参考】
遺言書保管申請ガイドブック(法務省)

保管制度のメリットとは

法務局で保管してもらうメリットは大きく二つあります。一つは、遺言書を国家機関である法務局が預かってくれることで、紛失や改ざんの心配がほぼなくなることです。自宅で保管していて火災や盗難で失う心配もありませんし、特定の相続人がこっそり抜き取ってしまうといったことも防げます。もう一つは、保管された遺言書は遺言者の死亡後、家庭裁判所の検認を経ずに直接相続手続きに使えることです。法務局で厳重に保管された遺言書は、すでに真正なものとして扱われるため、相続人は検認という手続きを省略できるのです。

法務局に遺言書を預けると、あなたの死後、その存在を知らせる通知が二段階で届きます。まず、生前に指定した遺言執行者や財産を渡したい人、お世話になった友人など(最大3名)へ、死亡後すぐに法務局から通知が行きます。次に、続人の一人が遺言書の閲覧手続きをすると、他の相続人全員にも「遺言書があります」とお知らせが届くため、知らない間に話が進む心配もありません。この仕組みで、あなたの想いがより確実に伝わります。

保管制度の注意点

ただし、この保管制度は遺言書の内容そのものを法務局がチェックしてくれるわけではない点には注意が必要です。法務局では形式面(本文が自書されているか、日付や署名押印があるか等)の確認は行ってくれますが、遺言の文言の適否や法律的に問題ない内容かまでは審査してくれません。そのため、保管制度を利用して形式面の不備リスクは下げられても、遺言内容の不備(たとえば法定相続分と大きくかけ離れた指定による遺留分のトラブルや遺言書作成時の意思能力をめぐるトラブルなど)まで防げるわけではありません。

自筆証書遺言を書く場合は、この法務局保管制度を積極的に活用することを強くおすすめします。少なくとも遺言書が確実に発見され、法的に有効な形で残せる可能性が高まるからです。その上で、できれば内容についても専門家に相談しながら作成すると安心です。「費用をかけたくないから自筆でやるけれど、本当にこれで大丈夫かな…」と不安な方は、後述する無料相談なども利用してみてください。

3. 公正証書遺言とは

公正証書遺言とは、公証役場で公証人という法律の専門家に作成してもらう遺言書です。遺言者が口頭または書面で遺言内容を伝え、それを公証人が法的に有効な遺言書の形にまとめて作成します。作成時には遺言者のほかに証人として2名の立会人が必要で、完成した遺言書は公証人・遺言者・証人全員が署名押印します。完成した原本は公証役場にて厳重に保管され、正本(正式な写し)が遺言者に交付されます。

公証人とは?

公証人とは、法務大臣によって任命された公的な専門家で、私たちの重要な文書や契約について「これは確実に本物です」「この方がご本人の意思で署名されました」ということを公的に証明してくれる人です。

普段の生活ではあまり馴染みがないかもしれませんが、実は私たちにとって非常に重要な役割を果たしています。例えば、遺言書を作成する際に公証人が関わることで、後々の相続争いを防ぐことができますし、会社を設立する際の定款認証や金銭の貸借といった重要な契約を結ぶ時にも、公証人の認証があることで文書の信頼性が格段に高まります。また、海外での手続きに日本の文書を使う場合には、公証人の証明が求められることもよくあります。

なぜ公証人がこれほど重要なのかというと、後になって「この文書は偽造されたものだ」「私はそんな契約をした覚えがない」といったトラブルが起きても、公証人が関わった文書であれば、その正当性を公的に証明することができるからです。つまり、公証人は私たちの大切な文書に「公的なお墨付き」を与えてくださる、文書の信頼性を保証する専門家なのです。

公証人への相談は、全国各地にある「公証役場」で行うことができ、費用については文書の種類や内容によって法定の手数料が決められています。重要な文書を作成される際は、ぜひ公証人への相談をご検討ください。きっとあなたの大切な権利や財産を守る強い味方になってくれることでしょう。

3-1. 公正証書遺言のメリット

公正証書遺言の最大のメリットは、その確実性と安全性の高さにあります。前述の自筆証書遺言と異なり、公正証書遺言では公証人が法律に則って文書を作成してくれるため、形式の不備で無効になる可能性は極めて低くなります。具体的なメリットを確認していきましょう。

メリット1 確実性と安全性が高い
公正証書遺言は、公証人が法律に則って文書を作成してくれるため、形式不備によって遺言が無効になるリスクが非常に低く抑えられています。内容についても公証人が遺言者の意思を丁寧に確認しながら文章化していくので、曖昧さがなく明確で、後々誤解が生じにくくなります。実際、私自身これまで数多くの遺言書作成に関わってきましたが、公正証書遺言が原因で相続人同士の争いに発展したケースはほとんど経験していません。それほどまでに、公正証書遺言は相続トラブルの防止に効果的だと言えるでしょう。
メリット2 遺言書の紛失・改ざんの心配がない
公正証書遺言の原本は公証役場にて厳重に保管されます。そのため、遺言書が紛失したり第三者によって改ざんされたりする恐れがありません。仮に遺言者が自身で保管していた正本を何らかの理由で紛失してしまっても、公証役場で再発行してもらえるので安心です。さらに、遺言者の死亡後には公証役場の「遺言検索システム」を利用して全国の公証役場に遺言の有無を照会することができます。公正証書遺言が残されていれば、相続人は家庭裁判所での検認手続きを経ることなく、速やかに遺言に基づいた相続手続きへ移行することが可能です。
メリット3 自書できない場合でも作成可能
高齢や病気で筆が持てなくても、公正証書遺言なら口頭で意思を示すだけで作成可能です。私はこれまで病院や自宅に公証人を招き、同様の出張作成を数十件支援してきましたが、現場で遺言者の意思を確認しながら確実に手続きを進められる点は大きな安心材料になります。公証人は内容を読み聞かせたうえで遺言者に代わって署名・押印し、その原本を公証役場で保管するため、形式不備や改ざんの心配もほぼありません。出張には日当・交通費などの追加費用がかかるものの、自筆証書遺言では不可能なケースでも遺言を残せるというメリットは費用以上の価値があるといえるでしょう

3-2. 公正証書遺言のデメリット

公正証書遺言にもいくつかデメリット(留意点)はあります。

デメリット1 公証人手数料がかかる
公正証書遺言を作成するには、公証人に支払う手数料が必要となります。手数料の額は遺言に記載する財産の評価額に応じて異なり、扱う財産が大きいほど高額になる仕組みです。例えば、遺言内容に含める財産額が5,000万円程度であれば、手数料はおおよそ5〜6万円前後かかるイメージです(財産額ごとに細かく定められていますが、多くの場合は数万円程度に収まります)。さらに、公証人に出張を依頼すれば別途出張費が発生します。自筆証書遺言がほぼ無料で作成できるのに比べると、公正証書遺言はどうしても費用面での負担が大きくなってしまいます。
公証人の手数料
遺言の目的である財産の価額に対応する形で、次のとおり、その手数料が定められています。以下、日本公証人連合会のHPからの抜粋となります。
【公証人手数料】
【留意点】
   上記の基準を前提に、具体的に手数料を算出するには、次の点に留意が必要です。

  1.    財産の相続または遺贈を受ける人ごとにその財産の価額を算出し、これを上記基準表に当てはめて、その価額に対応する手数料額を求め、これらの手数料額を合算して、当該遺言公正証書全体の手数料を算出します。
  2.    全体の財産が1億円以下のときは、上記(1)によって算出された手数料額に、1万1000 円が加算されます。これを「遺言加算」といいます。
  3.    さらに、遺言公正証書は、通常、原本、正本および謄本を各1部作成し、原本は、法律に基づき公証役場で保管し、正本および謄本は、遺言者に交付されるので、その手数料が必要になります。
       すなわち、原本については、その枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚(法務省令で定める横書きの公正証書にあっては、3枚)を超えるときは、超える1 枚ごとに250 円の手数料が加算されます。また、正本および謄本の交付については、枚数1枚につき250 円の割合の手数料が必要となります。
  4.    遺言公正証書の作成が嘱託人の病床で行われたときは、上記(1) によって算出された手数料額に、50 %加算されることがあるほか、遺言者が、病気または高齢等のために体力が弱り、公証役場に赴くことができず、公証人が、病院、ご自宅、老人ホーム、介護施設等に赴いて、遺言公正証書を作成する場合には、公証人の日当と、現地までの交通費が掛かります。
  5.    遺言公正証書の作成費用の概要は、以上でほぼご説明できたと思いますが、具体的に手数料の算定をする際には、それ以外の点が問題となる場合もあります。それらの問題については、それぞれの公証役場にお尋ねください。
デメリット2 作成までに手間がかかる
公正証書遺言は、自筆証書遺言に比べて作成までの手続きに手間と時間がかかります。公証役場との日程調整、証人2名の手配、遺言内容の事前打ち合わせなど、準備しなければならないことがいくつかあります。特に証人については注意が必要で、未成年者や将来相続人になる予定の人、その配偶者や直系血族などは証人になれない決まりがあります。司法書士や弁護士に遺言作成を依頼すれば、その専門家本人と事務所スタッフなど計2名で証人を引き受けてもらえることがほとんどです。また、公証役場とのやり取りも代わりに専門家が行います。弊社でも、公正証書遺言の作成サポートをご依頼いただいた際には、弊社司法書士が証人となり、さらに別の専門スタッフ1名を手配することで証人確保のお手伝いをしています。こうした手続き上の手間は、自筆証書遺言にはない公正証書遺言特有のハードルと言えるでしょう。
デメリット3 遺言内容を完全に秘密にはできない
公正証書遺言では、作成時に遺言内容を公証人および2名の証人に知られることになります。証人には多くの場合、専門職の第三者(司法書士や弁護士など)を依頼するため身内に内容が漏れる心配は通常ありません。しかし、「生前は自分以外の誰にも遺言内容を知られたくない」というニーズがある方にとって、公正証書遺言はその要望を満たせない方式であるとも言えます。もっとも、公証人や職業証人には厳格な守秘義務がありますので、内容が外部に漏れることはなく、生前に親族へ知られてしまうようなこともありません。それでも「自分以外には絶対に内容を見せたくない」という場合は、後述する秘密証書遺言など他の遺言方式を検討すべきでしょう。
費用だけ見ると高く感じられるかもしれませんが、「確実な遺言を作れる安心料」と考える方も多いです。実際、公正証書遺言を作成された方からは「多少お金はかかったが、これで子供たちに迷惑をかけずに済むと思うと安心できた」といった声をよく耳にします。

4. 秘密証書遺言とは(内容を秘密にする遺言書)

秘密証書遺言とは、その名の通り遺言の内容を秘密に保ったまま作成する遺言書です。遺言書自体は自分で作成しますが、封をした遺言書を公証役場に持参し、公証人と証人2名の前で提出して「確かに遺言書を預かりました」という事実だけを公証人に証明してもらいます。公証人は内容には一切目を通さず、形式(遺言者が署名押印していることなど)だけを確認して、遺言書の存在を公証人役場の記録に残します。こうして作成された秘密証書遺言は、再び遺言者が持ち帰り、自分で保管します。

4-1. 秘密証書遺言のメリット

秘密証書遺言の一番のメリットは、生前に遺言の内容を誰にも知られずに済です。公証人でさえ中身は確認しませんので、「他人に内容を知られたくない」という希望は公正証書遺言よりも強く叶えられます。具体的なメリットは、次のとおりです。

メリット1 内容を誰にも見られずに済む
秘密証書遺言では、公証人でさえ本文を開封・確認しません。生前に「相続の内容を絶対に知られたくない」というご希望がある方には、公正証書遺言より高い秘匿性を確保できます。作成の事実だけを公証役場に残すため、安心してプライバシーを守れる点が最大の利点です。
メリット2 本文は自筆でなくても有効
遺言書の本文はワープロ入力や代筆でも構いません。遺言者が最後に自署し押印すれば成立するため、「長文を手書きするのがつらい」「筆記具が持てない」という高齢者や病気療養中の方でも負担を軽減して作成できます。
メリット3 自筆証書遺言よりも改ざんリスクが低い
封じたまま公証人と証人が署名・押印し封印を確認するため、作成時点で改ざん防止措置が施されます。完全密封のまま保管できるため、内容を書き換えられるリスクを一定程度抑えられます。

4-2. 秘密証書遺言のデメリット

しかし、秘密証書遺言は実務上ほとんど利用されていないのが現状です。その理由は、デメリットが多いためです。デメリットは下記のとおりです。

デメリット1 形式不備による無効リスク
本文は自由に作成できる反面、公証人は内容をチェックしません。日付抜け・署名漏れ・封印不完全など形式を誤ると無効になるおそれがあります。自筆証書遺言と同じく“自己責任での作成”が前提です。
デメリット2 手続きの手間と費用が発生

秘密証書遺言も証人2名の立会いが必要で、公証人にも出向いてもらうため、手続きの手間と費用がかかります。公証人に支払う手数料は一律で約11,000円(※法改正により現在は1万1000円)と、公正証書遺言よりは安いですが、自筆証書遺言と比べれば費用負担があります。証人を公証役場に頼む場合は別途費用も発生します。

デメリット3 検認手続きが必須
秘密証書遺言であっても遺言者の死亡後は家庭裁判所での検認手続きが必要です。公正証書遺言のように検認が不要にはなりません。内容を秘密にできる以外は、自筆証書遺言のデメリットをほぼすべて抱えていると言っても過言ではないでしょう。

以上のことから、秘密証書遺言は「どうしても生前に遺言内容を他人に知られたくない」という場合以外は、あまり選択されない方式です。実際、筆者の事務所でも秘密証書遺言をご希望された方はこれまでほとんどおらず、ご相談に来られた方には公正証書遺言か自筆証書遺言(+法務局保管制度)の併用をおすすめしています。「内容を秘密に」というニーズについても、公証人や証人には守秘義務がありますし、遺言書の存在自体は秘密証書遺言でも公正証書遺言でも周囲には知られませんので、通常は公正証書遺言で十分ではないかと思います。

5. どの遺言書を選ぶべき?あなたに適した遺言の形式

ここまで3種類の遺言書の特徴を見てきましたが、「結局自分はどの形式で書くのが良いのだろう?」と迷われるかもしれません。最後に、遺言書の形式選びのポイントを整理してみましょう。重要なのは費用・手軽さと安全性・確実性のバランスをどう考えるかです。以下に、それぞれの遺言形式がどんな方・どんな状況に向いているかをまとめます。

5-1. 自筆証書遺言に向いている方

遺言に記載する財産や相続人関係が比較的シンプルで、まずは手軽に遺言を書いてみたいという方。費用をほとんどかけずに準備したい場合にも向いています。ただし、自筆証書遺言を選ぶ場合は必ず法務局の保管制度を利用し、できれば専門家に内容を作成してもらうなどして、形式不備や内容不備を防ぐことが大切です。例えば「妻に全部の財産を相続させたい」というようなシンプルなケースで、とりあえず自分の意思を書き留めておきたい方は、自筆証書遺言から検討すると良いでしょう。

5-2. 公正証書遺言に向いている方

相続人や財産が複数あり、確実に法的に有効な遺言を残したい方に最もおすすめです。特に、相続人間でもめ事を避けたい場合や、認知症になる前にしっかりとした遺言を作っておきたい場合、また不動産がある相続人以外にも財産を譲りたい人がいる(例えば孫や世話になった人、慈善団体への寄付など)ケースでは、公正証書遺言を選ぶべきでしょう。費用はかかりますが、その分得られる安心感は大きいはずです。遠方にお住まいの相続人がいる場合や、遺言執行者を確実に任命しておきたい場合なども、公正証書遺言でしっかりと手配しておくと安心です。

5-3. 秘密証書遺言に向いている方

生前にどうしても遺言の内容を他人に知られたくないという特別な事情がある方。ただし、このケースでも多くの場合は公正証書遺言で差作成した方が良いケースがほとんどです。実際に秘密証書遺言を選ぶのは、たとえば「公証人にも内容を見られたくないほどプライベートな事項(認知していない子への財産分与など)がある」場合など、かなり限られた状況でしょう。

また、不動産オーナーや経営者など財産規模が非常に大きく、公証人の手数料がかなり高額になってしまうケースでは、あえて公正証書遺言ではなく、秘密証書遺言を選択するケースもあります。

そのような方以外は、秘密証書遺言に固執せず他の形式を検討することをおすすめします。

5-4. まとめ

以上をまとめると、費用や手軽さを優先するなら「自筆証書遺言」安全確実に遺言を残したいなら「公正証書遺言」という選択になります。繰り返しになりますが、よほど特殊な事情がない限り、第三の方式である秘密証書遺言はあまりメリットがありません。最終的な結論として、多くの方にとって公正証書遺言がベターな選択となるでしょう。

6. 公正証書遺言が最もおすすめな理由【筆者の見解】

相続専門の司法書士として、最も信頼できる遺言の方法は「公正証書遺言」だと考えています。作成には一定の費用がかかりますが、その分、法的に確実で安全な遺言書を残せるという安心感は大きな価値があります。仮に遺産を巡って争いが起きれば、調停・裁判・弁護士費用など、公正証書遺言の作成費用を大きく上回る負担が生じることもあります。

また、公正証書遺言の作成は、公証人だけで完結するものではありません。多くの場合、事前に弁護士や司法書士などが内容を整理・作成し、それを公証人が法律に沿って確認・修正しながら公文書として仕上げていきます。このように、複数の専門家の関与を得ながら進められるため、形式・内容の両面で信頼性が高いのが特徴です。特に、遺留分への配慮や将来の相続手続きまで見据えた助言が得られる点は、公正証書遺言ならではのメリットといえるでしょう。

私がこれまで関わったご家族でも、「遺言書が公正証書でしっかり残されていたおかげで、揉めずに済んだ」と後から感謝の言葉をいただいたことが何度もあります。逆に、「父は口ではこう言っていたのに遺言がなかったせいで兄弟で争うことになってしまった」という悲痛な相談もありました。そうした経験から、将来の家族のために少しでも不安要素を取り除いておくという意味で、公正証書遺言を選ぶことを強くお勧めしたいのです。。

もちろん、家族関係や財産状況によっては自筆証書遺言が適しているケースもあります。大切なのは、自分にとってどの方式が適しているのかを見極め、必要に応じて専門家のアドバイスを受けながら準備を進めることです。

7. 遺言書作成の5つのステップ

それでは、ここで遺言書作成の大まかな流れを確認しましょう。弊社が遺言書の作成をサポートする際は、下記のようなステップで手続きを進めていきます。

【遺言書作成の5つのステップ】

ステップ1 ヒアリング

ご家族の関係性や大切にしたい想い、具体的な財産の内容を丁寧にお伺いします。
誰にどの財産を託したいか、逆に遺したくないケースがないかなど、心配ごとを言語化する重要な工程です。
ヒアリング結果はそのまま遺言書の骨子になるため、時間をかけて詳細を確認します。

ステップ2 提案

次に、ご本人のご意向や家族構成・財産状況を整理し、どの遺言方式が最適かを司法書士が分かりやすくご提案します。
相続人の数や不動産・預貯金のバランス、将来の争いリスクなどを総合的に評価し、方向性を共有します。
「何を準備すればいいか」「スケジュールはどう進むか」をここで明確にすることで、後の手続きがスムーズになります。

ステップ3 遺言方式の決定

自筆証書・公正証書・秘密証書の中から、ご本人の状況に合った方式を選択します。
費用、手続きの難易度、将来のトラブル回避のしやすさなど、各方式の特徴を比較検討します。
納得感を持って決めていただけるよう、専門的にサポートします。

ステップ4 遺言内容の検討・決定

具体的に「誰に・何を・どのように」渡すかを、法的な観点も踏まえて検討します。
遺留分や税金、将来の手続き負担なども考慮しながら、内容を練り上げていきます。
必要に応じて遺言執行者の指定や付言事項の追加も行います。

ステップ5 遺言書の作成

決定した内容をもとに、正式な遺言書を作成します。
公正証書遺言の場合は公証人とのやり取りや証人の手配までサポート可能です。
ここまでにかかる期間は、公正証書遺言の場合、およそ作成まで2〜3か月が目安となります。

まとめ

遺言書は、人生の最後にご自身の意思を明確に伝える大切な手段です。遺産の分け方を自ら決め、相続人間のトラブルを防ぐためにも、元気なうちに準備しておくことが何よりも重要です。今回ご紹介した3つの遺言方式——自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言——には、それぞれ異なる特徴と注意点があります。

自筆証書遺言は、紙とペンさえあればすぐに作成でき、費用もほとんどかからないという点で非常に手軽です。さらに法務局の保管制度を利用すれば、紛失や改ざんのリスクも軽減されます。ただし、形式不備による無効のリスクや、相続人による検認手続きの必要性など、注意点も多くあります。

一方、公正証書遺言は、費用や手間はかかるものの、法律的な確実性・安全性において最も信頼できる方法です。弁護士や司法書士などの専門家とともに内容を練り上げ、公証人が公文書として作成することで、形式不備や内容のあいまいさを防ぎます。また、作成された遺言は公証役場に保管され、相続発生後も家庭裁判所の検認が不要なため、遺言の実現がスムーズに進みます。

秘密証書遺言は、生前に誰にも内容を知られたくないという方に適した方式ですが、実務上の利用は少なく、自筆証書遺言と同様のリスクを多く含んでいます。本文がパソコンなどで作成できる反面、公証人が内容を確認しないため、形式ミスがそのまま遺言の無効につながるおそれもあります。

どの方式が最適かは、財産の状況、ご家族の関係、ご自身の健康状態などによって異なります。「とりあえず書いておきたい」「争いのない相続にしたい」「財産が複雑なので不安」といったお悩みに応じて、適切な遺言の方法を選ぶことが大切です。

当事務所では、言書作成に関する初回無料相談を承っております。ご自身に合った遺言の作り方を知りたい方は、ぜひお気軽にご相談ください。相続専門の司法書士が、分かりやすく丁寧にサポートいたします。今回のコラムが、皆さまが遺言を考えるきっかけになれば幸いです。

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