
認知症高齢者の増加によって、ますます深刻となってきているのが「財産凍結の問題」です。「預貯金が引き出せない・・・」「実家が売れない・・・」親の財産が使えなくなる前の対策として、「家族信託」の利用が急速に普及しています。
ところが、家族信託を検討している方の中には、
「始めるにはどれだけの費用がかかるのだろう…」
「できるだけ安く費用を抑えたいのだけど・・・
のように「費用」に関する悩みを抱えて二の足を踏んでいる方も少なくありません。
家族信託を始めるときの費用は、一般的に総額で最低30万円~70万円程度はかかると言われています。決して安い金額ではありません。
高品質な家族信託を相応の費用で始めるには、費用の総額だけでなく「何に、いくらかかるのか」を皆さんが事前にしっかり知っておくことが大切です。そうでないと、必要以上に費用を支払うことになってしまうかもしれません。
また、家族信託を検討する際には、成年後見制度を利用した場合の費用と比べてみることも重要です。家族信託を行わずに親が認知症になってしまうと、もはや成年後見制度を利用するしかありません。家族信託は基本的に「初期費用」だけがかかりますが、成年後見制度は「亡くなるまで」ずっと費用がかかる可能性があります。家族信託をしなかったことで、費用が増えてしまうケースが後を絶ちません。
そこで、本コラムでは、家族信託にかかる全費用と内訳を皆様に分かりやすく解説しています。
また、これまで150件以上の家族信託を取り扱った当社だからこそ分かる「価格をなるべく抑えつつも、質の高い家族信託」を行うポイントもご紹介します。ぜひ最後までご一読ください。
目次
1 家族信託にかかる費用の全体像と内訳
家族信託の費用はどうやって決まるのでしょうか?まずは、費用の全体像と内訳について次の表を確認してみましょう。
家族信託にかかる費用は、大きく分けると「専門家に支払う費用」と「専門家に頼まなくても発生する費用」の2種類があります。
専門家に払う費用は、信託する財産の大小や家族信託の内容によって変動するのが一般的です。また、当然依頼する専門家によって費用は異なります。なお、家族信託の手続きは必ず専門家に依頼しなければならないというわけではありませんが、専門的な知識が多く必要なることから専門家に依頼するケースがほとんどと言われています。
「専門家に頼まなくても発生する費用」は、言い換えれば、仮に自分で家族信託の手続きを行ったとしてもかかる費用ということになります。公正証書の作成費用や登録免許税などがこれにあたります。これらの費用も信託財産の大小などによって変動することになります
家族信託を始めるときの一般的な費用の相場は次のとおりです。
【不動産がない場合】 30万円~50万円程度
【不動産がある場合】 50万円~70万円程度
家族信託の費用は、「不動産がない場合」より「不動産がある場合」の方が高くなります。不動産を信託すると、不動産の評価額に応じて登録免許税という税金がかかること、また、専門家の費用が高くなることが主な理由です。
2 家族信託にかかる費用の内訳と解説
それでは、家族信託にかかる費用をそれぞれ詳しく確認していきましょう。まずは、「専門家にかかる費用」からみていきましょう。
2-1 専門家にかかる費用
① 専門家のコンサルティング費用
◆費用の目安【信託する財産評価額の1%】
コンサルティング費用とは、司法書士や弁護士などの専門家に家族信託のスキーム設計や信託契約書の作成などを依頼する費用です。信託財産の評価額の1%程度をコンサルティング費用として設定している専門家が多いようです。
家族信託を始めるためには、遺言や成年後見制度など他の制度との比較・検討、家族の状況や希望、資産規模に応じた個別のスキーム構築など家族にとって最適な設計図を作ることが何より大切です。その設計図の作成に必要となる費用がコンサルティング費用です。
なお、専門家によってコンサルティング内容は異なります。例えば、「信託契約書の作成」は別途費用としている専門家もいますので、事前にコンサルティング内容を必ず確認しましょう。
プラスワン・アドバイス
家族信託の報酬体系は主に3パターンある
家族信託を扱っている専門家によっては、前述した信託する財産の評価額に応じて費用が変わる「定額制」や「月額制」を採用している専門家も増えてきています。費用の体系は主に以下の3パターンに分けることができます。
①財産連動型
信託する財産の評価額に連動して報酬額が上がっていく報酬体系です。多くの専門家がこの報酬体系を採用しています。
財産連動型では家族信託を始める目的は同じであっても、所有している財産の評価額によって報酬額が大幅に変わってしまいます。
例えば、自宅を信託をする場合、自宅が都内の一等地にあれば評価額が高いので報酬額も高くなります。逆に自宅が都心から離れた地方にあれば評価額が安く報酬額も安くなります。
また、家族信託では、必ずしも委託者(親)の財産の全てを信託する必要はありませんが、財産連動型においては信託の対象とする財産が増えれば増えるほど、その分報酬は高くなるということになります。
なお、財産の評価額が低かったとしても、最低報酬(30万円~50万円)が設定されているケースが一般的です。
②定額制
信託する財産の評価額に関わらず、基本報酬額を一定としている報酬体系です。弊社ではこの定額制を採用しています。
定額制の特徴は、財産の評価額と報酬額が連動することはなく、「財産の種類」によってそれぞれ基本報酬額を一定にしていることです。家族信託の内容や信託財産の組み合わせによって追加の報酬がかかります。
例えば、弊社の場合「金銭のみ」を信託する場合は基本報酬額20万円、「自宅」を信託する場合は基本報酬額30万円などのように基本報酬を設定しています。
定額型を採用することによって、財産の評価額に影響を受けること無く、財産の種類ごとに同じ料金でサービスを受けることができますので、財産連動型に比べて費用を抑えることができるケースが多いです。
③月額型
毎月専門家に報酬を支払う報酬体系です。通常の家族信託は、財産連動型か定額型にかかわらず、原則として初期費用のみが発生し、その後継続的に支払う費用は発生しないのが一般的です。
月額制の場合、初期費用はかからない(または非常に安い)代わりに、毎月専門家に報酬を支払う必要があります。初期費用を抑えて家族信託を始めることが可能です。
月額制の注意点は、ケースによってはトータルの費用がかなり高額になる可能性があるということです。家族信託は始めてから数十年続くことも珍しくありません。毎月報酬を支払うことによって、「財産連動型」や「定額制」の費用を大きく上回るケースもあります。
② 司法書士の費用
◆費用の目安【8万円~10万円】
不動産を信託する場合には、法務局へ信託の登記(名義変更)を申請する必要があります。登記申請は登記の専門家である司法書士に依頼するのが一般的です。司法書士へ依頼した場合の費用はおよそ8万円~10万円が相場です。費用は不動産の評価額や不動産の個数によって異なります。
①の信託のコンサルティングを司法書士に依頼している場合には、同じ司法書士が登記までまとめて対応してくれます。また、依頼する専門家によっては、①のコンサルティング費用に登記の費用も含まれている場合もあります。
2-2 専門家に頼まなくてもかかるする費用
次に、専門家に頼まなくてもかかる費用について説明をしていきたいと思います。
③公正証書の作成費用
◆費用の目安【3万円~10万円】
家族信託は、委託者と受託者で「信託契約」を締結することによって開始します。そして、信託契約書を「公正証書」で作成する場合には、公証役場の費用がかかります。
公正証書とは、公証人が作成する公文書のことをいいます。契約書の内容や遺言などの一定事項を証明する権限をもつ公証人が作成に関与することによって、契約書の安全性や信頼性が高まります。
家族信託の契約書は、法律上必ずしも公正証書によって作成しなければならないというわけではありませんが、紛争防止の観点から実務上はほとんどのケースで公正証書によって作成されています。
公証役場の費用として、下記の図のとおり信託財産の価額に応じて基本手数料がかかります。また、証書の枚数によって手数料が加算されます(4枚を超えるときは、超える1枚ごとに250円加算)。家族信託の場合、3万円~10万円程度に収まるケースほとんどでしょう。
(日本公証人連合会 法律行為に関する証書作成の基本手数料)
また、公正証書を作成するためには、原則として委託者と受託者が公証役場に出向く必要がありますが、高齢や病気などの理由で公証役場に出向くのが困難な場合、公証人に自宅や施設まで出張してもらうことも可能です。公証人に出張を依頼する場合、基本手数料額が1.5倍となり、日当(1日2万円、4時間まで1万円)や交通費がかかります。
プラスワン・アドバイス
家族信託の契約書を公正証書で作成すべき理由は?
理由① 紛争を防止できる
公正証書は公証人が内容を確認して作成しますので、公的に認められた信頼性・安全性の高い契約書になります。これにより信託契約の効力や解釈をめぐって後日紛争が起きることを防ぐことができます。
理由② 契約書の再発行できる
公正証書で作成すると、契約書の「原本」は公証役場で半永久的に保管されます。したがって、作成後に契約書を紛失してしまっても、いつでも公証役場で再発行を受けることができます。
理由③ 信託口口座開設の条件になっている
金銭を信託する場合、信託した金銭を管理するために金融機関で「信託口口座」を開設することが実務上推奨されています。そして、ほとんどの金融機関で信託口口座を開設するためには、信託契約書を公正証書で作成することが条件となっています。なお、信託口口座の開設は2020年12月現在、すべての金融機関で取り扱っている訳ではありません。家族信託を検討している方は、事前にご自身が普段利用している金融機関や近隣の金融機関で開設できるかどうかを確認しましょう。
④ 登録免許税
◆費用の目安【固定資産税評価額×0.3%~0.4%】
登録免許税は、不動産を信託する場合にのみ発生する費用です。
不動産を信託する場合には、法務局へ信託の登記を申請する必要があります。その際に法務局へ納めなければならないのが登録免許税です。登録免許税は不動産の固定資産税評価額を基準に次のとおり計算されます。
- 土地 固定資産税評価額×0.3%
※原則は0.4%。令和3年3月31日までの特例措置。
- 建物 固定資産税評価額×0.4%
例えば、土地が2,000万円、建物が800万円の不動産を信託する場合、
土地の登録免許税が6万円(2,000万円×0.3%)、建物の登録免許税が3万2,000円(800万円×0.4%)、登録免許税は合計9万2,000円となります。
所有している土地や家屋の固定資産税評価額を知りたいときは、市区町村から毎年4月~5月に送られてくる固定資産税の納税通知書に付いている「課税明細書」を見てみましょう。
市区町村によって異なりますが、「評価額」や「価格」という項目に、土地や家屋の固定資産税評価額が記載されています。
<課税明細書の見本>
↓【参考】家族信託と登記についてはこちらをご覧ください。↓
⑤ 印紙税
◆費用の目安【契約書1件につき200円】
印紙税法という法律によって、信託契約書には200円の収入印紙を貼付する必要があります。信託財産の金額によって収入印紙の金額が変わることはありません。
⑥ 信託口口座の開設費用
◆費用の目安【1口座につき3万円~10万円】
金銭を家族信託する場合には、信託された金銭が受託者によって安全・適切に管理がなされるように、「信託口口座」という信託専用の口座を開設することが実務上は推奨されています。
受託者は、法律上「分別管理義務」という義務を負っています。自分自身の財産と信託で預かっている財産を分けて管理しなければならないという義務です。
ところが、万が一受託者が先に亡くなってしまったり、または破産してしまったように場合には、受託者の通常の口座で管理していると、受託者の金銭なのか、信託された金銭なのか見分けがつかず、信託した金銭も含めて全て「凍結」してしまうリスクがあります。これでは、受託者は上記の分別管理義務を果たすことができないばかりでなく、せっかく家族信託した意味すらなくなってしまいます。
そこで、このようなリスクを回避するために「信託口口座」を開設して金銭を管理することが望ましいとされているのです。信託口口座で金銭が管理されていた場合には、たとえ受託者に万が一の事態が起きたとしても、信託された金銭は一切影響を受けることなく守られることになります。
信託口口座の開設には、金融機関によって異なりますが、1口座につき3万円から10万円程度の費用がかかることが多いです。金融機関によっては開設費用が無料のところもあります。
なお、信託口口座の開設は法律上必須というわけではありませんので、信託口口座の開設をしなければ当然この費用はかかりません。もっとも、信託口口座を開設しない場合には、上記の凍結リスクがあるということに十分に留意しましょう。
⑦ 資料収集費用・郵送費
◆費用の目安【1万円】
その他、家族信託を始める際には戸籍謄本や印鑑証明書、不動産の登記簿を取得する必要があります。また、資料の収集や不動産の登記申請で郵送費がかかります。これらの費用が合計で1万円程度かかります。
プラスワン・アドバイス
贈与税や不動産取得税などはかからないの?
家族信託を始めると、贈与税や不動産取得税などの税金が発生するのではないかと不安に思われる方もいます。
贈与税や不動産取得税は、「利益を受ける人」が変わったときに発生する税金です。例えば、不動産の贈与した場合には、不動産から利益を受ける人が贈与者(あげる人)から受贈者(もらう人)に変わります。ですから、受贈者に贈与税と不動産取得税がかかります。
これに対して、通常の家族信託では、自益信託と言って、委託者(財産の管理をお願いする人)と受益者(管理された財産から利益を受ける人)が同一人物であるケースがほとんどです。つまり、自益信託の場合は、利益を受ける人が変わらないということになります。
よって、自益信託である通常の家族信託においては、贈与税や不動産取得税を心配する必要がありません。発生する税金は上記の登録免許税だけとなります。
以上が家族信託を「始めるまでに」かかる費用です。信託する財産の金額や依頼する専門家によって費用は異なってきます。家族信託の利用を検討する際は、一度専門家に相談をして見積書を作成してもらうことをおすすめします。
3 【注意!】家族信託を「始めた後」に費用がかかるケース
家族信託を始めた「後」は、原則として費用がかかることはありません。この点が、継続的に費用がかかる可能性がある成年後見制度との大きな違いです。詳細は後述します。
しかし、場合によっては開始後に費用が発生するケースもありますので確認していきましょう。
ケース① 受託者に報酬を支払う場合
- どのような場合に受託者に報酬を支払うのか
委託者と受託者が信託契約を締結する際、契約書の中で、受託者が報酬をもらえるように設定することができます。
例えば、収益物件を信託するような場合、自宅の信託と異なり、管理会社やテナントとの連絡・調整など、受託者の業務が増えますので、報酬を設定するケースが多いです。
- 受託者の報酬の定め方
信託契約書において実際に受託者の報酬を定めるには、次のような方法があります。
①具体的な報酬額を設定する方法(例:金3万円を毎月末日に支給する)
②報酬額の具体的な算定方法を設定する方法(例:信託財産である不動産の賃料収入の○○%を毎月末日に支給する)
③その都度受益者と受託者の協議により決定する方法(例:相当な額を、受益者と受託者との協議により決定し、支給する)
過大な報酬を設定すると、税務上、贈与とみなされることがあります。成年後見制度における専門家の後見人報酬額(毎月3~5万円程度)や一般的な不動産の管理報酬(賃料の3~5%程度)を参考にするとよいでしょう。
ケース② 開始後に信託契約書を変更する場合
- どのような場合に変更するのか
家族信託は、設計する内容によってはかなり長い時間続く可能性がありますので、時間の経過による状況の変化に応じて、信託契約書を変更する場合があり得ます。
例えば、受託者の権限を変更する、帰属権利者を変更する(信託が終わった際に財産を最終的に引き継ぐ人を変更する)場合などが考えられます。
<具体例>
・受託者の権限を変更する場合
(例:新たに受託者が不動産を売却する権限を与えたい)
・信託監督人の定めを新たに設定する場合
・帰属権利者を変更する場合
・信託の終了事由を変更する場合
(例:信託の開始から10年を経過したら信託を終了させるようにしたい)
・後継受託者を新たに設定する場合
(例:受託者Aが死亡したら、次に受託者になる者としてBを定めておきたい)
- 変更する場合の手続き
信託契約書を変更する場合には、原則として委託者と受託者で信託を「変更する契約」を結ぶ必要があります。信託を始めるときも委託者と受託者で契約を締結して始めたわけですから、変更する際も同じように行うということです。
信託契約書を公正証書で作成している場合には、変更の契約書も公正証書によって作成することが一般的です。また、不動産を信託している場合には信託の登記も併せて変更することになりますので、法務局で変更の登記手続きを行う必要があります。これらの手続きを司法書士や弁護士などの専門家に依頼することも可能です。
- 変更にかかる費用の目安
①公証役場の費用:約3万円
②登録免許税:1000円(不動産1個につき)
③専門家の費用:約5万円~
合計 約8万円~
ケース③ 信託監督人や受益者代理人を設定した場合
- どのような場合に設定するのか
家族信託の最大のメリットは、「家族だけ」で財産の管理を行うことができるという点にあります。しかし、これは裏を返せば、受託者を「誰も監督していない」ということになるので、受託者による財産管理がいい加減な場合には、受益者の利益が害されてしまう可能性があります。
そこで、受託者を監督したり、受益者の利益を守るために、信託監督人や受益者代理人という者を設定するケースがあります。これらの者は、受託者以外の家族や弁護士や司法書士などの専門家が担うことになります。
- 専門家に依頼した場合の費用
信託監督人や受益者代理人を専門家に依頼する場合には、コンサルティングを依頼した専門家にそのままお願いするのが一般的です。家族信託の内容によって費用は異なりますが、毎月1~2万円程度とするケースが多いようです。
プラスワン・アドバイス
家族信託が終わるときはどんな費用がかかるの?
家族信託は、信託契約によって定めた事由が発生することによって終了します。実務上は、受益者(親)の死亡によって終了するように定めておくのが最も多いケースです。家族信託が終了すると、あらかじめ決めておいた者(帰属権利者)に財産が承継されることになります。帰属権利者は、受益者の相続人としておくのが一般的です
それでは、典型的な終了事由である家族信託が「受益者の死亡」によって終了した場合にかかる主な費用を確認してみましょう。
[不動産がある場合の費用]
・登録免許税(所有権移転登記):不動産の固定資産税評価額の0.4%
・登録免許税(信託の抹消登記):不動産の個数×1,000円
・司法書士報酬:8万円~15万円程度
[金銭がある場合の費用]
・帰属権利者への振り込み手数料:約1,000円
[相続税が発生する場合の費用]
・相続税:財産額などにより変動します(※税理士に確認しましょう)
・税理士報酬:財産額などにより変動します(※税理士に確認しましょう)
なお、これらの費用は、通常の相続の手続きの費用と基本的には変わりません。親(受益者)が亡くなった場合には、相続の手続きを行うのに費用がかかりますが、家族信託を行った場合でも通常の相続と同様の費用がかかります。家族信託を行うことによって、登録免許税や相続税が安くなるといったことはありません。家族信託に節税の効果はありません。
4 家族信託の“プロ”が教える費用を節約する3つの方法
これまで見てきたように、家族信託を始めるには数十万円以上の費用がかかります。この費用をできる限り節約するにはどのような方法があるのでしょうか。
4-1 家族信託の費用を節約する3つの方法
方法① 弁護士や司法書士に頼まずに家族信託を始める
専門家にコンサルティングを依頼せず、自分で家族信託の内容を設計し、信託契約書を作成すれば専門家に費用を支払う必要がありません。また、自分で登記申請も行えば、司法書士へ支払う費用を節約することができます。
<デメリット・注意点>
1.信託契約書に信託法上必要な定めが無い、または不十分であることにより家族信託が無効となる可能性がある
2.家族信託が最善の対策かどうか、他の制度と比較検討されないまま対策がスタートしてしまう可能性がある
3.信託登記が漏れなく適切にされていないことで、将来売却や借り入れができない可能性がある
方法② 信託契約書を私文書で作成する(公正証書にしない)
信託契約書を公正証書で作成することなく、私文書で信託契約書を作成すれば、公証人へ支払う費用を節約することができます。
<デメリット・注意点>
1.家族信託の内容の解釈や効力をめぐって家族間で紛争となるリスクがある
2.紛失した場合に再発行ができない
3.金銭を信託した場合に、金融機関で「信託口口座」を開設できない可能性がある
方法③ 信託する財産を減らす
専門家の費用は、信託する財産の価額に比例して上がっていくケースが一般的です。また、不動産を信託する場合の登録免許税は、対象となる不動産の固定資産税評価額が上がると高くなります。したがって、信託する財産を減らすことによって費用抑えることが可能です。
<デメリット・注意点>
1.認知症による財産凍結から家族信託によって守れる財産の範囲が狭くなってしまう
2.将来、信託財産を追加(=追加信託といいます)したくても、そのときに親が認知症になっていると追加信託することができない可能性がある
3.追加信託をする際に新たに費用がかかる
4-2 「安さ」だけを求めるのは危険
家族信託は法律の知識を多く必要とする制度であり、設計した家族信託によって今後の家族の財産管理や財産承継にまで大きな影響を与えうるものです。
費用ばかりに着目して安く済ませることは、かえって大きな損失や余計な手間を生むので、絶対におすすめできません。
費用を抑えつつ質の高い家族信託を始めるためには、「専門家に任せるべきことと自分でできることを分けて考える」ことが最も重要です。
家族信託を開始するまでには、専門的な知識やノウハウだけでなく、様々な準備や関係機関とのやり取りが必要となります。費用を節約するためにそれら全てを自分で行うことはあまり現実的ではありません。
しかし、全てを専門家に依頼しないといけないというわけではありません。例えば、信託契約書の作成や登記申請は、専門的な知識と経験が必要不可欠ですので、弁護士や司法書士などの専門家に依頼すべきです。一方で、資料の収集や信託口口座の開設手続きなどは自分たちだけで行うこともできるでしょう。
このように、必要な部分のみを専門家に依頼して、それ以外を自分たちで行うことによって、質の高い家族信託を行いながらも、同時に費用を抑えることが可能となるのです。
5 代表的な2つのケースによる費用シミュレーション【当社の費用体系を前提に】
ここで、家族信託において代表的な2つのケースについて、費用のシミュレーションをしてみたいと思います。あくまで当社で行った場合の費用ですので、依頼する専門家によって費用が異なることにはご留意ください。
ケース① 金銭のみを信託するケース
【信託する財産】 3,000万円の金銭
金銭のみを信託する場合、専門家報酬として、公正証書の作成費用として約5万円発生しますが、不動産がない場合は登記が不要ですので、司法書士の費用や登録免許税は発生しません。合計して25万円~30万円程度となります。
ケース② 自宅と金銭を信託するケース
【信託する財産】 ・自宅(固定資産税評価額2,500万円の土地、500万円の建物)
・1,000万円の金銭
自宅と金銭を信託する場合、コンサルティングとして30万円がかかります。なお、当社の場合にはコンサルティング費用に登記の費用も含まれています。
次に公正証書の作成費用として約5万円がかかります。不動産を信託すると登録免許税がかかりますので、今回のケースですと95,000円です。合計すると約45万円となります。
6 初期費用は高額に見えるが、実は“費用対効果が高い”理由
6-1 家族信託は費用対効果が高い
家族信託は、他の制度に比べると初期費用が高額になるケースが多く、利用に踏み切れない家族が少なくありません。
しかし、高額に感じるのは初期費用だけで、亡くなるまでのトータルの金額で考えてみると、家族信託を利用した方が結果として節約となるケースが増えています。
老後の親の財産管理に不安を感じている家族にとって、初期費用の負担のみで対策ができる家族信託は、将来の見通しも立てやすく、費用対効果が高いといえます。
それでは、費用対効果が高い理由を説明いたします。
家族信託のメリットについては、下記のコラムで詳しく説明していますので、ご参照ください。
【参考】
親が認知症になる前に必ず知っておきたい!”家族信託“のメリットをわかりやすく徹底解説
6-2 費用対効果が高い理由
理由① 初期費用だけで財産管理ができるから
家族信託を始めた後は、家族だけで財産管理が可能になるため、原則として継続的に費用が発生することはありません。
同じく老後の財産管理の制度である成年後見制度と比較した場合、財産の管理を、家庭裁判所から選任される弁護士や司法書士などの専門家に委ねなければならない可能性があります。そうなると、専門家である後見人に親が亡くなるまでずっと報酬を支払う必要がでてききます。報酬は、管理する財産の価額によって家庭裁判所によって決定されますが、月3万円程度が平均と言われています。そうなると、1年で36万円、3年で108万円と、かなりの金額が報酬としてかかってくることになります。
例えば、親が自宅(評価額3,000万円)と金銭1,000万円を持っている場合で、それぞれ家族信託と成年後見制度(専門家が後見人に選任された場合)を利用し、5年後に親が亡くなったと仮定して費用を比較してみましょう。
家族信託の場合、初期費用(専門家報酬+実費)の約45万円のみが発生し、その後のランニングコストは0円です。
一方、成年後見制度の場合、初期費用(専門家報酬+実費)の約10万円に加えて、ランニングコスト(毎月3万円✕12ヶ月✕5年)が発生しますので、トータルで180万円の費用となります。
したがって、初期費用のみ財産管理を実現できる家族信託は、成年後見制度に比べて費用対効果が高いと言えます。
理由② 家族信託には遺言と同じ機能があるから
家族信託は、親の財産管理ができるだけでなく、将来誰に財産を承継させるかという点も同時に決めておくことができます。これはまさに「遺言」と同じ機能です。
信託した財産については、別途専門家や信託銀行に費用を払って遺言を作成する必要はありません。要するに、家族信託の費用の中には、遺言の費用も含まれているようなものです。
したがって、家族信託を行っておけば、遺言の作成費用を節約できるという点で、費用対効果が高いと言えます。
7 まとめ
最後までお読みいただきありがとうございました。
最後にコラムのまとめです。
・家族信託を始めるには、不動産がない場合:30万円~50万円以上、不動産がある場合:50万円~70万円以上 かかるのが一般的
・家族信託にかかる費用には「専門家にかかる費用」と「専門家に頼まなくても発生する費用」に分けられる
・家族信託を「始めた後」にも費用がかかる場合がある
・極端な節約はリスク大!専門的で重要な事項は専門家に依頼すべき
・実は家族信託は費用対効果が高い
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