
「親が認知症になったら預金が引き出せなくなる」「実家の売却ができなくなる」といった話を耳にして、「家族信託」による認知症対策を検討するご家族が急増しています。しかし、いざ家族信託の手続きを始めようとすると、「一体誰に相談すれば良いのだろう?」**という新たな疑問が生まれるものです。
インターネットで調べてみると、行政書士、司法書士、弁護士といった様々な専門家が家族信託のサービスを提供していることがわかります。「費用を抑えたいから行政書士に頼もうかな」「でも登記が必要だから司法書士?」「トラブルが心配だから弁護士が安全?」と、選択肢が多すぎて迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。
実際に弊社にも「行政書士でも家族信託はできますか?」「司法書士と弁護士、どちらに依頼すべきでしょうか?」といったご相談が日々寄せられています。大切なご両親の財産を守るための制度だからこそ、専門家選びで失敗は許されません。
本記事では、家族信託における行政書士・司法書士・弁護士それぞれの役割や業務範囲の違いを具体的に解説し、なぜ司法書士・弁護士に依頼するのが安全で確実なのかを、実務経験に基づく事例を交えながら分かりやすくお伝えします。専門家選びで注意すべきポイントも詳しく説明しますので、ご両親の認知症対策や相続対策を検討中の方は、ぜひ最後までご一読ください。
目次
1. 家族信託とは何か?高齢者の財産管理を家族で行う新しい仕組み
はじめに、家族信託の基本を簡単におさらいしましょう。家族信託(民事信託)とは、自分(親など)の財産を信頼できる家族(子どもなど)に託し、将来に備えて管理・運用してもらう仕組みです。たとえば、認知症などのによる判断能力の低下に備えて、財産管理の権限をあらかじめ子どもに信託しておくことで、親が万一判断力を失っても財産が凍結されず、家族が柔軟に財産管理・活用できるようにするものです。つまり、家族信託によって認知症による財産凍結を回避することができるのです。
1-1. 家族信託の基本的な仕組み
家族信託は、委託者(=親)が自分の財産を受託者(=子)に託し、親や家族(受益者)のために管理・運用する仕組みです。
【家族信託の基本的な仕組み】
【参考コラム】
【参考動画】
家族信託は「信託契約」を締結することによってスタートします。親(委託者)が子(受託者)との間で契約を書面で結び、不動産や金銭などの財産を信託財産として託します。受託者となった子は、契約内容に従い、親(受益者)ために財産を管理・処分できるようになります。これにより、親が認知症になった場合でも子が金銭の管理や不動産の売却などを代わりに行えるため、介護費用の支出や財産処分をスムーズに進められるのです。
1-2. 家族信託の効果と成年後見制度の比較
家族信託と成年後見制度は、どちらも高齢者の財産管理を支える制度ですが、その性質は大きく異なります。
家族信託は、親御さんが元気で判断能力がしっかりしているうちに家族間で契約を結ぶ「事前対策」です。「息子に財産管理を任せたい」「実家は売却せず、孫の代まで受け継がせたい」などといった家族の希望を事前に契約書に盛り込んでおくことができます。
一方、成年後見制度は、すでに判断能力が低下してしまった後に家庭裁判所が後見人を選任する「事後対策」です。裁判所が選んだ後見人(家族や専門家)が、あくまで本人の利益を最優先に財産を管理することになります。
両制度の主な違いを整理すると、次のような比較表になります。
【家族信託と成年後見の比較表】
比較項目 | 家族信託 | 成年後見制度 |
---|---|---|
利用を始めるタイミング | 本人の判断力が十分あるうちに、自分の意思で契約を結ぶ | 本人の判断力が低下してから家庭裁判所に申立てを行う |
誰が財産を管理するか | 委託者(親など)が選んだ 家族や信頼できる人(受託者) | 家庭裁判所が選任した 後見人(専門職や親族) |
管理できる範囲 | 契約で決めた財産のみを柔軟に運用・処分できる | 本人の全財産を厳格に保全・管理(自由な運用は制限) |
裁判所の関与 | なし | あり。後見人は定期的に報告義務がある |
主な費用イメージ | 設計・契約書作成・登記で 30〜50万円前後(財産規模で変動) | 申立費用10万円~15万円+後見人報酬が 毎月数万円(専門職後見人の場合) |
柔軟性/自由度 | 受託者が資産売却や賃貸など機動的に対応できる | 居住用不動産の処分は家庭裁判所の許可が必要 |
期間・終了 | 受益者が亡くなるまでなど契約で自由に設定 | 原則として本人が亡くなるまで継続 |
向いているケース | 認知症になる前に将来の資産凍結を防ぎたい人 | すでに判断力が低下し自己管理が困難な人 |
上記の通り、家族信託は成年後見制度よりも柔軟で家族の希望を反映しやすい制度といえます。「将来の財産凍結を予防したい」「家族の意向に沿った資産管理・承継をしたい」という場合には、家族信託の方が適しているでしょう。
【参考】
ただし、家族信託は比較的新しい制度であり、まだまだ発展途上の分野です。信託契約書の作成、信託口口座の開設、不動産の信託登記など、手続きには高度な専門知識が必要で、実務経験の豊富な専門家もそれほど多くありません。
そのため「誰に相談するか」によって、信託契約の質や手続きの成否が大きく左右されるのが現実です。相談先を間違えると、「せっかく相談したのに画一的な成年後見制度を勧められてしまった」「作成された信託契約書に重大な不備があり、肝心な時に家族信託が機能しなかった」といったトラブルが起こる可能性もあります。
では実際、家族信託の相談・依頼先にはどのような選択肢があり、それぞれ何が違ってくるのでしょうか?
2. 家族信託の依頼先になりうる専門家とそれぞれの違い
家族信託の依頼先となる専門家には、司法書士、弁護士、行政書士があります(ケースによっては、これらの専門家と連携して、税理士が税務面をサポートすることがあります)。また、最近では民間企業が家族信託のコンサルティングサービスを提供することも増えていますが、コンサルティングサービスにおいてもこれらの専門家が主要な役割を果たすことになります。
まずはそれぞれの資格者の業務範囲や専門分野を整理してみましょう。
2-1. 行政書士とは
行政書士は文書作成のスペシャリストです。主に官公署(役所)に提出する許認可申請書類の作成代理や、契約書・内容証明の作成などを行う専門家です。依頼者に代わって各種手続きの書類を整え提出することに長け、行政手続きの専門家として身近な存在ですが、扱える業務には制限があります(後述)。相続の分野では相続人や財産の調査、遺産分割協議書の作成などを担います(相続登記はできない)。
2-2. 司法書士とは
司法書士は、不動産登記や商業登記をはじめとする登記手続きの専門家として位置づけられています。法務局での各種登記申請の代理業務を中心に、相続手続き、遺言書作成サポート、成年後見、そして家族信託など、財産管理・承継に関わる幅広い法律事務を扱う専門家です。
特に相続・家族信託の分野では、相続手続き全般から家族信託のコンサルティング、契約書作成、そして不動産の信託登記まで一貫してワンストップで対応できることが大きな強みとなっています。複数の専門家に分散して依頼する必要がないため、手続きがスムーズに進み、費用面でも効率的です。
また、司法書士の多くは一定の研修・認定を受けることで簡易裁判所における訴訟代理権を取得しており、140万円以下の民事事件については裁判の代理人としても活動できます。
注目すべきは、家庭裁判所から成年後見人等に選任される専門職の中で、司法書士が最も多い割合を占めているという事実(下記資料参照)です。弁護士と並んで司法書士は成年後見業務の中核を担っており、行政書士が成年後見人に選任されるケースはほとんどありません。これは、財産管理の専門家として司法書士が高く評価されている証拠といえるでしょう。
【成年後見関係事件の概況-令和6年1月~12月最高裁判所事務総局家庭局】
家族信託と成年後見制度は密接に関連する制度であるため、両方の実務に精通している司法書士に相談することで、将来のリスクも含めた総合的なアドバイスを受けることができます。万が一、家族信託の設定前に親御さんの判断能力が低下してしまった場合でも、司法書士であれば速やかに成年後見の申立て手続きに切り替えることが可能です。
2-3. 弁護士とは
弁護士は、言うまでもなく法律全般のスペシャリストです。訴訟代理を含む全ての法律事務を扱える国家資格者です。家族信託についても契約書作成、コンサルティング、訴訟対応など全面的なサポートが可能で、特に紛争性のある案件や複雑な法律問題の検討が必要なケースで頼りになります。司法書士ができることは全て弁護士も行うことができますが、実務上は弁護士は紛争性がある案件に関わることが多いです。また、弁護士は登記手続きを代理する権限もありますが、実務上は登記の専門家である司法書士がすることが一般的です。ただし、弁護士の中でも家族信託の実務経験が豊富な人は現時点では限られており、また費用面では報酬が高額になりがちな点に留意しましょう。
以上のように、それぞれ専門分野や強みは異なります。家族信託は誰にでも相談できるわけではなく、適切に手続きを進めるには家族信託に精通した専門家を選ぶことが重要です。では中でも、行政書士と司法書士・弁護士では何が違うのでしょうか?次章で家族信託を依頼する際の業務範囲の違いと、行政書士に依頼する場合のメリット・デメリットを詳しく見てみましょう。
2-4. 家族信託で行政書士ができること・できないこと
結論から申し上げると、行政書士に家族信託の手続きを丸ごと任せることはできません。行政書士は契約書の文案作成や公証役場での公正証書化といった「書類の整備」を得意とする専門職であり、この部分だけを依頼するのであれば十分に力を発揮してくれます。しかし、家族信託の中心に据えられることの多い不動産の名義変更や信託登記は、法律上、司法書士または弁護士の専管業務と定められており、行政書士が代理することは認められていません。仮に契約書作成を行政書士に依頼しても、登記段階では別途司法書士や弁護士を探して依頼し直す必要があり、手続きが二度手間になる点は否めません。
さらに、親御さんの判断能力が低下していた場合に備えた成年後見の申立てや、信託後に万一トラブルが起きて裁判所を介する交渉・訴訟が必要になった場合も、行政書士には代理権がありません。これらの局面では弁護士や司法書士へのバトンタッチが必須となり、その際には時間や費用が追加で発生します。
このように、行政書士は家族信託の「契約書を整える段階」では心強い存在ですが、信託を実行し維持するうえで欠かせない登記や裁判所対応には携われません。家族信託をワンストップで確実に進めたい場合や、将来的なリスクに備えておきたい場合には、初めから司法書士や弁護士に相談するほうが安心でスムーズです。
2-5. 家族信託で司法書士・弁護士ができること
司法書士の最大の魅力は、家族信託に関する手続きを最初から最後までワンストップで任せられることです。信託契約書の作成はもちろんのこと、不動産の名義変更や信託登記も代理で申請できるため、「契約を作ったはいいけれど登記で立ち往生」という心配がありません。もともと司法書士は不動産登記の専門家として養成されているため、信託登記にも精通しており、契約内容をそのまま登記に反映させ、信託の効力を確実に担保できます。
さらに、司法書士は成年後見や遺産整理など高齢者の財産管理全般にも携わる機会が多く、「信託が難しければ後見へ」「相続が発生したら遺産整理へ」といったように、ご家族の状況に合わせて柔軟に制度を使い分ける知識と経験を備えています。実際に当法人でも、信託を検討していたものの親御さんがすでに認知症を発症していたため、司法書士が家庭裁判所への成年後見申立てをサポートし、そのまま後見人に就任して財産管理を継続したケースがあります。こうしたセーフティネットまで視野に入れたトータルサポートは、司法書士ならではの強みです。
もちろん、弁護士に依頼すれば信託契約や登記に加えて、家族間で争いが起きたときの交渉や訴訟までフルカバーできます。揉め事の可能性が高い場合や法的リスクが大きい案件では弁護士の力が欠かせません。ただし弁護士は分野ごとに専門性が異なり、費用も比較的高いのが一般的です。その点、司法書士は「登記を中心に家族信託を完結させたい」「後見や相続の課題まで一貫して任せたい」というニーズに、専門性と費用バランスの両面で応えられる頼もしい存在と言えるでしょう。
【比較表】行政書士・司法書士・弁護士の業務範囲と家族信託への対応力
上記の違いを一覧で整理すると次のようになります。家族信託の相談相手を選ぶ際の参考にしてください。
業務項目 | 行政書士 | 司法書士 | 弁護士 |
---|---|---|---|
家族信託のコンサルティング(相談・設計提案) | △(対応可だが実績に注意) | ◯(豊富な実績者一部) | ◯(豊富な実績者一部) |
信託契約書の作成サポート | ◯(書類作成の専門家) | ◯(対応可) | ◯(対応可) |
公正証書化の手続き支援(公証役場対応) | ◯ | ◯ | ◯ |
信託財産に不動産がある場合の登記申請 | ✕(権限なし) | ◯(司法書士が代理申請) | ◯(弁護士が代理申請) |
信託口口座の開設支援 | ◯(書類作成支援) | ◯(書類作成支援) | ◯(書類作成支援) |
家族信託契約後の継続サポート | △(書類作成等のみ) | ◯(財産管理の助言、登記変更等継続可) | ◯(法律トラブル全般対応可) |
成年後見の申立代理(親が判断能力低下後) | ✕(不可) | ◯(申立書類作成支援・後見申立可) | ◯(申立代理・後見申立可) |
紛争発生時の交渉・訴訟対応 | ✕(関与不可) | △(簡易裁判所事件は可) | ◯(すべて対応可) |
家族信託分野の実務経験者数 | 少ない | やや多い(信託専門の司法書士が増加) | やや少ない(専門特化の弁護士は限定) |
費用水準 | 安め(報酬相場低め) | 中程度(行政書士と同等) | 高め(難易度・責任相応) |
(※上記は一般的傾向の比較です。個々の専門家の対応可否や費用は各事務所により異なります。)
この表から明らかなように、家族信託の相談先としては司法書士または弁護士が適しているといえるでしょう。次章では、行政書士に依頼するメリット・デメリットを改めて整理しつつ、「なぜ司法書士や弁護士の方が安心なのか」を深掘りして解説します。
3. 行政書士に家族信託を依頼するメリット・デメリット
ここまで行政書士の業務範囲の限界について述べましたが、行政書士に家族信託を依頼する場合のメリットにも触れておきます。その上で、デメリット・リスクも検討してみましょう。
3-1. 行政書士に依頼するメリット
メリット①:費用が比較的安い傾向
行政書士の最大のメリットは、弁護士と比較して費用を抑えられる点です。家族信託の契約書作成のみを依頼する場合、行政書士の報酬は弁護士より安価に設定されているケースが多く見られます。
日本行政書士会連合会の調査データによると、遺言書作成や相続関連書類一式の作成を行政書士に依頼した場合の費用相場は約20万円程度となっています。この金額は弁護士に同様の業務を依頼するよりも安価であり、「信託契約書などの書類作成だけを依頼したい」という限定的なニーズにおいては、行政書士はコストパフォーマンスの面で魅力的な選択肢といえるでしょう。
メリット②:契約書作成を一任できる安心感
行政書士は契約書や公正証書の作成業務に長年携わってきた専門家です。そのため、家族信託契約書の文案作成を一任できる安心感があります。
自分で一から契約書を作成する場合、法的な専門知識が必要となり、相当な時間と労力を要します。行政書士に依頼することで、こうした手間を大幅に省くことができ、家族の希望や事情をヒアリングした上で適切な契約書を作成してもらえる点は確かなメリットです。
デメリット・リスクとの比較検討が重要
これらのメリットは確実に存在しますが、家族信託という複雑な法的制度を扱う際には、行政書士の業務範囲の制限から生じるデメリットやリスクも慎重に検討する必要があります。
単純な費用比較だけでなく、家族信託の設計から運用、将来的なトラブル対応まで含めた総合的な視点で、どの専門家に依頼するかを判断することが重要です。
3-2. 行政書士に依頼するデメリット
デメリット①:不動産の登記ができない
家族信託で不動産を扱う場合、信託の登記手続きが法律上欠かせません。しかし、行政書士はこの不動産に関する信託登記を行うことができないため、契約書の作成だけでは十分とは言えません。いくら契約内容を万全に整えても、登記をしなければ信託は第三者に対抗できず、効力を十分に発揮できなくなってしまいます。そのため、行政書士に契約書作成を依頼した場合でも、登記申請は依頼者自身が法務局で行うか、別途司法書士に依頼しなければなりません。ワンストップで手続きを完結できず、専門家同士の連携ミスや手続きの重複による時間ロス・コストロスが生じるリスクも考えられます。
デメリット②:成年後見や訴訟など裁判所を介する手続きには対応できない
家族信託の本来の目的は、認知症による資産凍結の回避にあります。しかし、信託を設定する前にすでに親など委託者の判断能力が低下していた場合には、成年後見制度の利用を検討せざるを得ません。また、信託契約後に受益者やほかの相続人との間でトラブルが生じる可能性はゼロではありません。
こうした家庭裁判所が関与する手続きや法的なトラブルに、行政書士が直接対応することは困難です。行政書士は家庭裁判所に提出する書類を依頼者に代わって作成・提出することが法的に認められていません。さらに、万一トラブルが訴訟に発展した場合でも、弁護士法の制約により行政書士が代理人として相手方と交渉したり裁判手続きを行ったりすることはできません。
そのため、信託契約後に問題が生じて行政書士だけでは対応しきれない場合には、最終的に弁護士に引き継ぐ必要が出てきます。改めて弁護士への依頼と手続きを行う分、時間や費用が余分にかかってしまうおそれがあります。実際に、行政書士が提携する弁護士に引き継ぐ際にも時間を要するケースが指摘されています。このように、リスク発生時の備え(バックアップ体制)が十分とは言えない点には注意が必要です。
デメリット③:家族信託に精通した行政書士がまだ少ない
家族信託の分野は比較的新しく、行政書士全体の中でもこれを専門に扱っている人はまだ多くありません。多くの行政書士は相続手続き全般や各種許認可業務を主な業務としており、そのため家族信託の実務経験が豊富とは言えない行政書士も多いのが実情です。
中には「家族信託に強い」と掲げている行政書士事務所もありますが、実際に豊富な信託組成の実績を持つかどうかは注意深く見極める必要があります。経験や実績が乏しい場合、信託契約の設計ミスや条項の不備に気づけないおそれもあります。
実際に、「家族信託を専門に扱う行政書士は少ないため、十分な対応が受けられない場合もある」と指摘する声もあります。要するに、家族信託の相談先として行政書士をメインに据えることには、こうしたリスクがあると言えるでしょう。
以上を踏まえると、行政書士に依頼することで費用を多少抑えられる・書類作成を任せられるといったメリットは確かにあります。しかし、行政書士だけでは信託の登記や万一のトラブル対応までカバーできないため、家族信託を円滑に完結・維持するには不安が残ると言えます。そのため、家族信託を安全かつ確実に実現するには、初めから司法書士や弁護士に依頼したほうが結果的に安心で、費用面でも有利になるケースが多いでしょう。次章では、司法書士・弁護士に依頼するメリットについてさらに詳しく見ていきましょう。
4. 家族信託は司法書士・弁護士に任せるのが安心な理由
前章までの内容から既にお分かりかと思いますが、ここでは改めて家族信託の実行を司法書士や弁護士に依頼すべき理由をポイントごとに整理します。大切なご両親の財産を扱う手続きですから、「安全第一」で検討いただくことを強くおすすめします。
理由1:不動産の信託登記まで含めた「ワンストップ対応」が可能だから安心
家族信託において不動産が絡む場合、信託登記の漏れなく確実な実行が極めて重要です。司法書士や弁護士であれば、信託契約の作成から名義変更登記(信託登記)まで一貫して対応できます。専門家間の引き継ぎも不要で、スムーズに完了まで導けるのが大きなメリットといえるでしょう。
登記申請は法務局への細かな書類提出作業を伴い、一般の方にはハードルが高い手続きです。司法書士・弁護士に任せれば煩雑な登記手続きを丸ごと代行してもらえるため、手続き漏れやミスの心配がありません。特に司法書士は登記のプロフェッショナルなので安心感が違います。家族信託の相談から信託用の口座開設までワンストップで対応できる司法書士や弁護士を選ぶことで、手続き全体がスムーズに進行します。
理由2:認知症発症時や緊急時にも対応力がある
家族信託を検討している間に、もしも親御さんの判断能力が低下してしまった場合、成年後見制度の申立て等を検討する必要があるかもしれません。司法書士や弁護士であれば、家庭裁判所への成年後見申立て手続きや後見人への就任も可能です。実際、家庭裁判所が専門職後見人を選任する際は司法書士や弁護士が選ばれることが多く、行政書士が選ばれる例は稀です。
当法人でも、信託契約前に判断能力が不十分となってしまったケースで当法人が後見人に就任し、親御さんの財産管理を継続した事例があります。行政書士では申立代理すらできない場面でも、司法書士・弁護士なら迅速に必要な法的措置を講じられるため、いざという時の安心感が違います。
さらに、信託契約後に親族間で争いが起きそうな場合でも、弁護士であれば事前に紛争回避策を講じたり、万一揉めた際も代理人となって解決に当たることができます。このようにトラブル対応力が高いことも、安全に家族信託を運用していく上で大切なポイントです。家族信託は長期間にわたって運用される制度ですから、将来的なリスクへの対応力も専門家選びの重要な判断基準となるでしょう。
理由3:資格試験の難易度の高さ=専門知識の深さ
業務範囲だけでなく、資格者の知識・能力面から見ても司法書士・弁護士に依頼するメリットがあります。司法書士試験や司法試験(弁護士)は行政書士試験に比べて圧倒的に難関であり、要求される法律知識の範囲・深さが違います。実際、行政書士試験の合格率が10%前後であるのに対し、司法書士試験は4〜5%程度と極めて低い水準です。司法試験も法科大学院修了者でも合格率約40〜50%で難易度は非常に高く設定されています。
数字は一例ですが、司法書士・弁護士は試験段階から民法や信託法を含む広範な法律知識を習得していることを示しています。資格の難易度が全てではありませんが、「扱える業務の広さ=求められる専門知識の量」とも言え、難関資格者ほど家族信託のような複雑な法制度にも精通している傾向は否めません。家族信託契約には信託法・相続法・税法など横断的な知識が必要ですから、専門知識が豊富な司法書士・弁護士に任せた方が安心といえるでしょう。
理由4:家族信託に関する実績やノウハウが豊富
前述のように、行政書士で家族信託の実務経験が豊富な方は稀です。一方、司法書士業界ではここ数年家族信託に注力する司法書士が増えており、数百件規模の信託組成実績を持つ専門家も出てきています。当法人も相続・信託を専門分野とし、日々多くの家族信託や成年後見の案件をお手伝いしています。
実績が多いからこそ見えてくる落とし穴や成功パターンがあり、蓄積されたノウハウがお客様の安心に繋がります。弁護士についても、相続専門の弁護士事務所などでは信託案件を積極的に扱っており、実績がある先生なら安心です。逆に経験の浅い専門家だと「必要性が低いのに家族信託を無理におしつけてきた」「定型的な契約書を作られてしまった」という事態も起こり得ます。
経験豊富な司法書士・弁護士に相談することで、家族の事情に即したオーダーメイドの信託設計や適切な助言が期待できるのです。家族信託は画一的な制度ではなく、各家庭の状況に応じたカスタマイズが必要な制度です。そのため、豊富な経験に基づく柔軟な提案力が専門家には求められます。
理由5:結果的にトータル費用が割高にならない
「司法書士や弁護士に頼むと高そう…」というイメージを持つ方もいます。しかし実は、行政書士+司法書士と分けて依頼した場合と、初めから司法書士に一括依頼した場合で、トータル費用は大きく変わらないか、むしろ安く済むこともあります。行政書士に支払う契約書作成費用に加え、結局司法書士に登記費用を払えば二重の支出になりますし、別々に相談する手間もかかります。これは相続手続きを依頼すること場合でも全く同じです。行政書士に依頼することで費用が高くなってしまう可能性があります。
また、行政書士作成の信託契約書に不備があり修正となれば公証役場の費用が余計にかかったり、最悪作り直しになれば無駄な出費です。初めから信託実務に強い司法書士(または弁護士)に依頼しておけば、必要な範囲の手続きをまとめて頼めて費用も明確ですし、やり直しのリスクも低いため結果的にコストパフォーマンスが良くなることが多いです。
当法人でも、複数の専門家に分散して依頼して混乱したケースを一本化してサポートし直したところ、迅速に問題解決し追加費用も最小限に抑えられた、という事例がありました。費用面の不安はぜひ一度専門家に見積もり相談してみてください。「安心を買う」意味でも、専門性の高い司法書士・弁護士に任せる価値は大きいと考えます。
さらに、家族信託の効果を最大限に発揮するためには、税務面での配慮も欠かせません。信託設定時の贈与税の課税関係や、信託運用中の所得税の取り扱い、将来の相続税への影響など、複合的な税務知識が必要になる場面も多々あります。経験豊富な専門家であれば、税理士との連携も含めた総合的なアドバイスを提供できるため、後々のトラブルを未然に防ぐことができるでしょう。
以上のように、家族信託を成功させるには「適切な専門家選び」が欠かせません。特に不動産を含む信託案件では、司法書士や弁護士に依頼するのが安全策です。では、具体的にどのように専門家を探せばよいのでしょうか。次に、筆者の経験も踏まえながら専門家選びのポイントや実際の相談事例について触れてみます。
5. 専門家選びのポイントと事例紹介:信託のプロに相談しよう
5-1. 家族信託の専門家を選ぶ5つのポイント
ポイント1:家族信託の取扱実績を具体的に確認すること。
まず注目したいのは、その事務所がどの程度の家族信託案件を手掛けてきたかという実績です。ホームページや面談時の説明で、過去に組成した信託の件数や具体的な事例を尋ねてみましょう。たとえば「年間〇〇件以上の家族信託をサポート」や「累計〇百件超の信託コンサルティング実績」といった数値を示せる専門家は、豊富なノウハウを蓄積しています。件数だけでなく、信託財産の規模や家族構成の複雑さなど自分の状況に近い事例を提示できるかも重要な判断材料です。実績が多いほど契約設計の選択肢が広がり、想定外のリスクを事前に回避しやすくなります。
ポイント2:資格と知識という意味での専門性を見極めること。
相談先が司法書士か弁護士であるかを必ず確認しましょう。行政書士は書類作成の力強い味方ですが、家族信託を完結させるうえで欠かせない不動産の信託登記や成年後見申立てには対応できません。同じ司法書士・弁護士でも、信託法・相続法・登記実務に精通しているかどうかでサポートの質が変わります。ブログやコラムで家族信託の最新情報を積極的に発信していたり、専門セミナーで登壇実績があるかをチェックすると、その分野に注力しているかが読み取れます。面談では「なぜこの条項が必要なのか」「不動産以外の資産をどう組み入れるか」「信託口口座」を開設すべきかどうかなど踏み込んだ質問を投げかけ、回答の深さを確かめると安心です。
ポイント3:情報発信の姿勢とコミュニケーションの丁寧さを重視すること。
家族信託はまだ歴史の浅い制度です。制度改正や金融機関の運用ルールが更新されるたびに、専門家も知識をアップデートし続ける必要があります。ウェブサイトや SNS、メールマガジンなどで具体的かつタイムリーな情報を発信している専門家は、研究熱心で継続学習を怠らない傾向があります。また初回相談でのヒアリングが丁寧か、専門用語をかみ砕いて説明してくれるかといったコミュニケーション姿勢が、長きにわたり続き家族信託の運用における安心感を左右します。疑問に対してすぐ回答が得られるか、連絡が取りやすいかも確認しておきたいポイントです。
ポイント4:税理士や不動産会社など他専門家とのネットワークを持っているか。
家族信託は法律だけでなく、税務・不動産評価・資産運用など多方面の知識が交差します。相続税や贈与税の負担を抑える設計をするには税理士との協働が欠かせませんし、賃貸物件を信託財産に含めるなら不動産管理会社との連携も必要です。司法書士や弁護士が税理士・公認会計士・ファイナンシャルプランナーとチームを組む体制を整えていれば、ワンストップで最適な提案を受けられます。信託後の財産運用や賃借人対応まで視野に入れた総合力のある事務所を選ぶことで、長期的な安心が確保できます。
ポイント5:利用者の口コミや評判を参考にすること。
実際に相談した人の体験談ほど信頼できる情報源はありません。Google ビジネスプロフィールやポータルサイトのレビューで「親切で分かりやすかった」「登記まで任せられて助かった」といった声が多い専門家は安心感があります。逆に「説明が抽象的で理解しづらい」「登記は別の事務所に回されて費用が増えた」といったコメントが目立つ場合は注意が必要です。口コミを読む際は、対応スピードや費用の明確さ、アフターフォローの充実度など、自分が重視する観点に着目すると判断しやすくなります。
これら5つのポイントを総合すると、家族信託に関する高い専門性と豊富な実績をもち、税務や不動産までワンストップでサポートできる司法書士(または弁護士)を選ぶことが最善策と言えるでしょう。当法人でも、豊富な家族信託実績を持つ司法書士が丁寧に対応しておりますので、少しでもご不安があればお気軽にご相談ください。初回面談は無料ですので、まずは専門家の「顔」と「姿勢」を確かめる機会としてご活用いただければ幸いです。
5-2. 相談事例:行政書士に依頼したが結局司法書士に…
最後に、筆者が実際に経験した事例を一つご紹介します。
事例1 ― 信託登記で行き詰まり、司法書士に“駆け込み”相談
都内在住の A さん(60 代・会社員) は、80 代のお父様が軽度認知症と診断されたことを機に「預金や自宅不動産が凍結されたら困る」と考え、家族信託を検討し始めました。検索でヒットした「家族信託 行政書士 格安」という広告を見て、費用が手ごろな行政書士事務所を訪問。そこでは信託契約書のドラフト作成と公正証書化を一式 20 万円前後で提案され、A さんは即決で依頼しました。
約2ヶ月後、信託契約書(公正証書)が完成。しかし、いざ お父様名義の自宅(土地・建物評価額 3,800 万円) を信託財産に組み入れる段階になると、行政書士から「信託登記はご自身で法務局へ」との説明を受けます。A さんは「契約書があれば手続きは終わりだと思っていた」と動揺。自力で登記申請書を作成しようとしましたが、登記原因や登録免許税の計算で行き詰まり、インターネットで“信託登記 司法書士”を検索して当法人にご相談くださいました。
当法人では面談当日に状況を整理し、必要書類を即日リストアップ。10日後には所有権移転と信託登記を完了し、信託口口座も無事に開設できました。追加費用は契約書の再チェック・登記手続で約10万円。A さんは「最初から司法書士に相談していれば、契約書作成から登記まで 1 回で終わり、時間も費用も抑えられた」と感想を述べられました。
依頼者が困ってしまうケースは珍しくありません。特に不動産が絡む家族信託では、最初から司法書士に任せていればスムーズに完了したのに…という事態が起こりがちです。
事例2 ― 認知症が進行し、行政書士ではフォロー不可に
神奈川県在住の B さん(50 代・公務員) は、ほぼ寝たきりの母親(82 歳)の預貯金の管理と母親名義の不動産の売却をスムーズに行うため、家族信託の設定を検討。知人に紹介された行政書士C氏に相談し、ヒアリングを受けながら契約書案を作り始めました。ところが打ち合わせの途中で、いろいろな準備をしている中で、お母様の認知症が急速に進行し、医師からは「契約内容を理解する能力が不十分」と診断されました。
C氏は親身に対応してくれたものの、「判断能力が足りない状態では信託契約は締結できません。成年後見の申立ては弁護士か司法書士に依頼してください」と説明。B さんは「ここまで準備したのに最初からやり直し?」と肩を落とし、当法人を紹介されて再相談に来られました。
当法人の司法書士が速やかに成年後見申立の準備を行い、家庭裁判所への成年後見申立書を 2 週間で作成・提出。無事に B さんが後見人に選任され、母親名義の預金も凍結されることなく支払いが継続できました。B さんは「最初から成年後見も視野に入れた説明を受けていれば、慌てずに済んだ」と振り返っています。
事例のまとめ
上記 2 件はいずれも匿名で再構成した事例ですが、〈契約書は作れたが信託登記で止まる〉、あるいは 〈契約前に判断能力が低下して成年後見に切り替えざるを得なくなる〉 といった局面で、行政書士では対応できず最終的に司法書士・弁護士へ依頼し直すパターンが少なくありません。
もちろん、書類作成に秀でた行政書士の先生が強力なパートナーになるケースもあります。とはいえ 不動産登記や家庭裁判所手続きが必要になる場面を想定すると、家族信託はスタートからワンストップ対応できる司法書士(紛争リスクが高い場合は弁護士との連携も視野)に相談するほうが、結果的に“時間・費用・安心”の三拍子がそろうと言えるでしょう。
6. よくある質問(FAQ)
最後に、家族信託の専門家選びに関してよくある質問とその回答をまとめます。
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