
目次
はじめに
日本は世界に類を見ない超高齢社会を迎え、「長寿リスク」という新たな課題に直面しています。平均寿命が着実に延びる中、特に深刻な問題として浮上しているのが、認知症によって引き起こされる「資産凍結」の問題です。認知症を発症すると、たとえ家族であっても本人の預金口座からの引き出しや不動産の売却などが困難となり、必要な生活費や医療費の支払いにも支障をきたす可能性があります。
家族信託は、こうした認知症による資産凍結のリスクに備える有効な手段として注目を集めています。しかし、この対策を成功させる上で、「いつ始めるか」というタイミングが極めて重要となります。早すぎても遅すぎても、それぞれに課題やデメリットが存在するためです。
本コラムでは、年齢層別の認知症発症率のデータや実際に起きた資産凍結の具体的な事例を交えながら、家族信託開始のベストなタイミングについて詳しく解説します。また、開始時期の先延ばしによって生じる様々なリスクや、家族内での円滑な話し合いの進め方、預貯金・不動産・有価証券といった資産の種類ごとの適切な検討時期について、実務家の視点から具体的なアドバイスを紹介します。
ここで家族信託を行うタイミングを逃してしまい、間に合わなかった事例を紹介します。
Aさん(78歳)は「自分はまだ元気だから大丈夫」と考え、家族から財産管理の話題が出ても後回しにしてきました。ところが、79歳のとき軽度認知障害(MCI)と診断され、80歳で症状が一気に進行。判断能力が著しく低下してしまい、家族信託の契約を結ぼうにも時すでに遅しという状況に陥ってしまいました。
どうような対応になったのか・・・
認知症が進行した時点でAさん本人には契約行為の判断能力がなく、家族信託などを利用した資産管理対策jは取れなくなってしまいました。その結果、Aさん名義の銀行口座は家族が引き出しできない状態(凍結)となり、不動産についても売却や利活用ができずに凍結。家族は家庭裁判所で成年後見人を選任する手続きを取らざるを得なくなりました。成年後見制度により最低限の資産管理は可能になったものの、家庭裁判所が関与することで柔軟な財産活用や相続対策は制約を受けています。例えば、自宅を売却して介護費用に充てたくても、家庭裁判所の許可が必要で時間と手間がかかってしまいました。
もっと早く対策をしておけば・・・
家族は「もっと早く対策しておけばよかった」と深く後悔しています。Aさん自身は契約を渋っていたものの、いざ認知症が進行すると家族も財産をどうすることもできず、経済的にも精神的にも大きな負担を強いられました。「まだ平気」と思っていたわず数年の間に状況が一変し、認知症は突然やってきてから慌てても手遅れになる現実を痛感する結果となりました。このケースでは、家族間で十分な話し合いがされていなかったため、後見人選任の過程でも意見の調整に苦労し、親族間の様々な不安・不満も生じてしまったようです。
3. 「まだ大丈夫」は危険!家族信託を先延ばしするリスクと誤解
家族信託を検討するご家族によくあるのは、「うちは皆元気だから、今はまだ大丈夫」と考え、先延ばしにすることです。ずっと元気であれば家族信託は必要ないかもしれませんが、判断能力の低下は突然現れる可能性があるのです。この「まだ大丈夫」という油断こそが最も危険です。
ここでは、よくある誤解と、先延ばしによるリスクを説明していきます。
誤解1:「元気だから今はまだいらない」
多くの方が心のどこかで「自分は大丈夫、認知症にはならないだろう」と考えがちです。
しかし、実際には前述の通り、高齢者のうち4人に1人が認知症になる時代です。どんなに健康に自信があっても、事故や持病の悪化で突然判断能力が低下するケースもあります。例えば、「まだ若い」と思っていた60代でも、ある日倒れて意識障害が残ったり、予想外に早く認知症症状が現れたりすることもあるのです。元気なうちに備えておかないと、いざという時に家族信託はおろか他の契約も結べず手遅れになるリスクがあります。
誤解2:「財産がそれほど多くないから必要ない」
「うちは資産家じゃないから家族信託なんて大げさ」と思われる方もいます。
しかし、資産の多寡にかかわらず、認知症になると銀行預金ひとつ引き出せなくなる可能性があります。たとえ財産がご自宅と預貯金だけであっても、本人に判断能力がなければ家族は日常の生活費や介護費用ですら引き出せなくなる恐れがあります。実際、認知症を発症してしまうと、預貯金を下ろすことも自宅を売却することもできなくなり、配偶者や子がいても代わりに自由にお金を動かすことはできません。資産規模に関係なく、「生活に必要なお金が使えない」事態になり得ることを理解しておく必要があります。
誤解3:「何かあれば成年後見制度があるから平気」
成年後見制度は、認知症などによって本人の判断能力が低下した後に、家庭裁判所が選任する成年後見人に財産管理などを任せる仕組みですが、決して万能ではありません。
家庭裁判所が選任する後見人には家族がなれる場合もありますが、専門職後見人(弁護士・司法書士・社会福祉士等)がつくケースもあり、家族の意向だけが反映されるとは限りません。また、後見制度では、預貯金や不動産などの財産は家庭裁判所の監督下に入りますので、家族が自由に使途を決定できるわけではありません。
一度後見人がつくと原則として本人が亡くなるまで続き、解任・変更もしにくい制度です。「もっと柔軟に資産を使いたい」と思っても、後見では思うようにいかず不便に感じる人も少なくありません。家族信託は後見制度のような不自由さや煩雑さを避けつつ、本人と家族の意向に沿った資産管理を可能にする点で有効ですが、それも本人に判断能力があるうちに始めておかないと利用できません。
誤解4:「タイミングは本人が嫌がらなくなってからで良い」
「親が嫌がるうちは無理に進めなくても…」と遠慮するケースもあります。
しかし、本人が認知症になってしまってからでは、信託契約が締結できず、手遅れとなる可能性があります。むしろ、比較的若く元気なうちにこそ認知症リスクや対策について話題に出すべきです。親世代にとっても、自分が元気なうちに意思を示せるタイミングだからこそ納得して契約できるメリットがあります。「まだら認知症」と言われる初期段階では本人が自分の状態を認めたがらず、契約を拒否することもありますし、中期以降では契約自体が無効になってしまいます。子ども世代から見て「早すぎるかな?」と思う少し前倒しの時期に提案するくらいでちょうど良いのです。
先延ばしのリスク
親の認知症はある日突然発覚する可能性があります。親と同居していない場合には、お正月やお盆などの帰省のタイミングで気づくこともあるでしょう。
発症が分かってから慌てて対策を講じようとしても、その時点で判断能力が低下していれば有効な手立ては限られてしまいます。また、判断能力低下後の唯一の対処法である成年後見制度は家族にとって精神的・経済的負担が大きく、何より本人の希望を十分に反映した資産管理が難しくなります。「備えられるうちに備える」ことが何より重要だという点を肝に銘じておきましょう。
4. 家族会議を開くタイミングと進め方
家族信託をスムーズに始めるには、家族の中でしっかり意見を一致させておくことがが不可欠です。そのために有効なのが「家族会議」です。
では、いつどのように家族会議を開き、話し合いを進めれば良いのでしょうか?
家族会議はできるだけ早い時期に
重要なのは、親(委託者)本人が元気なうちに家族会議の場を設けることです。親が「まだ早すぎるかな」と思うくらいの時期に子どもたちを招集し、将来の介護や資産管理について話し始める意義は非常に大きいとされています。例えば、定年退職前後の65歳~70歳くらいで一度話し合いの場を持っておくと、親も子も現実的な将来設計を共有しやすくなります早めに会議を開くことで、親の希望や意向を本人の口から直接聞けるため、子ども世代にとっても受け止めやすくなります。
定期的な話し合いで意思を共有
家族会議は一度開けば終わりではありません。節目ごとに定期的に開催し、親の近況や考えの変化をアップデートして共有するのが理想です。例えば、毎年のお正月やお盆など親族が集まる機会に、少し時間をとって近況と希望を確認し合うと良いでしょう。60代・70代・80代と年代が進むにつれて、話し合うべき議題(例えば60代ならリタイア後の生活設計、70代なら介護や財産管理の具体策、80代なら相続の問題、高齢者施設など)も変化していきます。各段階で親の「今の想い」を伝えてもらい、家族全員で認識を揃えることが理想です。
誰を話し合いに巻き込むべきか
基本的には親(委託者本人)と子ども全員が家族会議の中心メンバーになります。配偶者がいればもちろん同席し、場合によっては信託で役割を担う予定の受託者候補の家族(長男・長女など)を中心に、推定相続人となる全ての子を含めるべきです。さらに必要に応じて、嫁・婿、成人した孫なども参加するケースがあります。ただし、血のつながらない親族(義理の子や孫など)や相続権がない親族などは、議論が混乱するようであれば参加を見合わせてもらった方がよいでしょう。遠方に住んでいて集まれない家族には、オンライン参加を依頼したり、会議の内容を後日共有するなどして全員の情報共有を図りましょう。
家族会議の切り出し方
理想は、親本人から子どもたちへ声をかける形で家族会議を始めるのが望ましいです。親が「自分の今後について相談したい」という形で呼びかければ、子どもたちも素直に耳を傾けやすいでしょう。一方、子どもの側から切り出す場合は、「財産目当ての話ではない」ことを丁寧に伝える配慮が必要です。例えば「お父さん(お母さん)のこれからの生活をみんなでサポートするために話し合いたい」といった主旨で提案すると良いでしょう。最初の議題はデリケートな相続や家族信託の話ではなく、介護や生活設計に関することから始めるのがお勧めです。いきなり遺産の話を切り出すと親も構えてしまいますが、「もし介護が必要になったら在宅が良いか施設が良いか」「万一入院となったらどうしたいか」といった話題であれば、親も話しやすく建設的な議論につながります。
専門家やファイナンシャルプランナーの活用
家族だけでは話し合いづらい場合や、意見がまとまらない場合には、家族信託や相続に詳しい専門家(司法書士やファイナンシャルプランナー等)に第三者的立場で同席してもらうのも有効です。専門家から客観的な情報提供を受けることで、親世代・子世代の双方が家族信託の必要性を理解しやすくなります。ただし、専門家選びも重要で、家族全員に公平な視点でアドバイスできる人を選ぶようにしましょう。家族信託を行う目的は、親のライフプランの実現にあるわけですから、ファイナンシャルプランナーにライフプランニングをしてもらう、というのをはじめの一歩としてもよいでしょう
会議の記録とフォロー
家族会議で話し合った内容は簡単でも構いませんので会議のメモを作成し、出席できなかった親族とも共有しておきます。誰が何を希望し、どんな合意があったのか記録を残すことで、後々の勘違いや記憶違いによるトラブルを防げます。また、時間の経過とともに考えや状況が変わることもありますから、定期的に話し合いをアップデートすることが大切です。家族信託の契約内容も、必要に応じて見直しや追加ができる柔軟性がありますので(信託財産の追加条項を設ける等)、家族会議を通じて常に最適な形に調整していくと良いでしょう。
5. 財産の種類別:信託開始のベストタイミングとポイント
家族信託を検討する際には、親が保有する資産の種類に応じて、適切なタイミングや注意点が異なる場合があります。ここでは、不動産・預貯金・上場株式など代表的な資産ごとに、家族信信託を開始する最適なタイミングと押さえておきたいポイントを解説します。
● 不動産:早めの信託で「資産凍結」を回避
背景とリスク
自宅や土地、アパートなどの不動産をお持ちの場合、認知症による凍結リスクには特に注意を払う必要があります。というのも、不動産の所有者が認知症になり判断能力を失うと、その不動産は売却も賃貸も相続手続きも一切できない状態に陥るからです。例えば、親が施設入居することになり「実家を売って入居費用に充てたい」と思っても、親本人に判断力がなければ売買契約が結べず家が売れないという事態になります。また、相続が発生しても遺産分割協議や処分がスムーズに進められず、空き家問題や親族間の争いに発展する恐れもあります。
信託開始の目安
不動産をお持ちの場合、できるだけ早い段階で家族信託に組み込んでおくのが望ましいです。具体的には、不動産の名義人(親)がまだ判断能力に全く問題ない60代後半~70代前半のうちに信託契約を結ぶのがベストでしょう。早めに不動産を信託財産とすることで、仮に後から親が認知症を発症しても、受託者(子など)の判断で売却や活用を継続できるようになります。特に、将来的にその不動産を処分して介護費に充てる計画がある場合や、売却する可能性が高いアパートや駐車場を持っている場合などには、早期に家族信託によって資産凍結と相続トラブルの双方を未然に防ぐ効果が期待できます。
ポイント
不動産を信託する際は、契約時に信託登記(受託者への名義変更登記)を行います。これによって登記簿上も「信託不動産」であることが明示され、受託者が管理・処分権限を持つことになります。手続きには多少時間や費用がかかるため、余裕をもって進めましょう。また、不動産の家族信託では契約条項で売却権限や賃貸管理権限を明確に定めておくことが重要です。
● 預貯金(現金):判断能力が十分あるうちに段階的導入
背景とリスク
預貯金は日々の生活費や医療・介護費用の支払い源です。しかし、高齢になると銀行等による取引制限が出てくる可能性があることをご存知でしょうか。金融機関では振り込め詐欺防止のため、一定の年齢以上の高齢者には、大きい金額を引き出す際にその使途などについて詳細な聞き取りを行ったり、70歳以上は原則家族同伴を求めるケースもあるようです。認知症を発症し判断能力が低下すると、銀行口座は実質的に凍結状態となり、本人も家族も預金を下ろせなくなります。日常生活の資金が引き出せず、介護費や医療費などの支払いにも支障が出る恐れがあるため、預貯金についても対策が必要です。
信託開始の目安
預貯金の家族信託は、段階的に家族信託を導入しやすい資産です。例えば、最初は少額から家族信託を始め、子が信託金銭から支払いを行う体制に慣れていき、問題なければ徐々に追加信託し、信託金銭を増やしていくといった対応も可能です。もっとも、委託者(親)の判断能力が低下すると、追加信託ができなくなるリスクがありますので、早めの対応が重要となってきます
タイミングとしては、親が70代に入る頃には、主要な預貯金口座について信託口口座への資金移動を検討するとよいでしょう。「判断力も体力もまだまだ元気!」という60代でも、万一急病や事故で意思表示ができなくなるケースに備え、後見制度に頼らずに済む仕組みを作っておく意味があります。理想的には、物忘れなど体調の変化を感じ始める前に(遅くとも軽微な兆候が出始めた時点ですぐに)信託契約を結ぶのが安心です。
ポイント
預貯金を家族信託する場合、信託契約後に信託口口座を開設し、そこに契約によって定めた金額を移します。受託者(家族)がその口座から日々の支払いを代行できるため、親の判断能力が仮に落ちても、子どもが代わりに資金管理を継続できる強みがあります。契約内容としては、どの費目に信託口口座の資金を使えるか(生活費・医療費・介護費など)や、信託金額の上限、追加信託の方法などを定めておきます。加えて、金融機関によっては信託口口座の開設手続きに時間がかかることもあるため、早めに各銀行の対応を確認しておきましょう。また、親が「お小遣い程度は自分で管理したい」という場合は、信託に出す額と手元に残す額のバランスも考慮します。徐々に家族信託の運用に慣れていくことで、親の抵抗感を和らげることもできます。
【参考コラム】
● 上場株式・有価証券:相場変動リスクを回避
背景とリスク
上場株式や投資信託などの有価証券を保有している場合、認知症発症による影響は経済的にも大きくなりがちです。判断能力を失うと株式・投資信託の売買や組み換えができなくため、市場環境が変わってもポートフォリオを見直せなくなります。株式・投資信託は価格が常に変動しているため、タイミングよく売却したくても、本人が取引の判断できなければ好機(あるいは損切のタイミング)を逃すリスクもあります。
信託開始の目安
リスク管理の観点から早めの信託が望ましいといえます。上場株式や投資信託など市場性のある資産は、親が70代前半~半ばまでに子どもと話し合い、一部を信託に移しておくと安心です。こうすることで、親の判断力低下後も受託者が必要に応じて売却・現金化し、資金を確保できます。特に株価が高いうちに売却して介護資金などに回す、といった戦略も立てやすくなります。
ポイント
上場株式などを信託する場合、信託契約で受託者に売却権限を付与しておけば、市況や資産状況に応じて適切なタイミングで処分・運用してもらえます。例えば「株価が一定水準を下回ったら売却し、預金化して受益者(親)の療養費に充当できる」といった具体的な指示を入れておくことも可能です。もっとも、現時点では、家族信託に対応できる証券会社は少ないので、親が証券口座を保有している証券会社で家族信託の証券口座が開設できるかを確認する必要があります。開設できない場合、開設可能な証券口座に移管する必要があります。
6. 条件付きの家族信託(親が認知症になったらスタートする家族信託)の危険性
6-1. 条件付きの家族信託とは
家族信託をスタートさせるためには、委託者(親)と受託者(子)が信託契約を締結する必要があります。これは、言うまでもなく法律上の契約行為です。そのため、契約を結ぶ時点で委託者(親)が判断能力を持っていることが必要となります。簡単に言えば、しっかり判断できるうちにしか契約はできないということになります。
認知症発症後に契約できないとなると、「認知症になったら発動」という条件を付けて、あらかじめ信託契約を結んでおく方法が考えられます。条件付き家族信託とは、このように一定の条件を満たしたときに信託が効力を発揮するよう定めた契約のことです。例えば、契約書に「将来、委託者が認知症になった場合に本信託の効力が発生する」といった条項を入れておくイメージです。こうすれば契約自体は元気なうちに結んでおき、実際の財産の管理や移転は認知症になった時点で開始できる…という狙いがあります。元気なうちは自分の財産は自分で管理しておきたいという希望を叶えることができそうです。
一見すると便利な仕組みに思えますが、実務上のリスクが非常に大きい点に注意しなければなりません。条件付き家族信託には法律面・運用面で様々な問題があり、専門家でも慎重な対応が求められる難しい契約です(筆者は行ったことはありません)。
6-2. 条件付き家族信託の危険性(避けた方が無難)
危険性1 お金を移せない
認知症を発症するという条件が発動するまでは、たとえ、受託者であっても委託者の預貯金を自由に動かすことができません。信託契約は結んであっても、委託者名義の銀行口座からお金を引き出して信託用の口座に移すことがすぐにはできないのです。スタートするのは委託者の認知症発症後ですから、万一、委託者が銀行で預貯金を引き出せない状態になってしまうと、信託に組み入れるはずのお金を受託者へ引き渡せず、計画通りに財産管理が行えなくなってしまいます。これでは家族信託をした意味がありません。
危険性2 登記手続きができない
信託財産に不動産が含まれる場合、本来は信託契約後に不動産の名義を受託者へ変更する登記が必要です。しかし、契約に条件を付けていると、この登記をすぐに行うことができません(委託者が認知症を発症してからでないと登記ができない)。いざ認知症になって契約が発動し登記をしようとしても、委託者本人の意思確認ができなければ不動産の名義変更手続きは止まってしまいます。その結果、肝心の不動産管理や処分が受託者に移せず、信託の目的を果たせなくなる恐れがあります。これでは家族信託をした意味がありません。
危険性3 契約が無効になる可能性
「認知症になったら発動」という条件付きの契約は避けるのが無難です。どうしてもという場合でも十分な準備と慎重な設計が必要です。家族信託以外の制度(成年後見制度や任意後見契約、遺言等)も併せて検討し、最善の方法で財産管理・承継対策を進めることが大切です。家族の将来を見据え、安心して財産を託せるよう、早めの行動と適切な方法選びを心がけましょう。
7. まとめ~「早すぎるかな?」と思う今が始めどき~
家族信託を始める最適なタイミングについて、認知症リスクのデータや事例を交えて解説してきました。総括すると、家族信託の検討・準備は早ければ早いほど良いというのが結論です。認知症はいつ訪れるか分からず、発症してからでは有効な手が打てなくなるため、判断能力が十分にある今この瞬間がベストタイミングと言えます。
もちろん、ご家庭の状況によって適切なアプローチは異なりますが、「備えあれば憂いなし」です。早期に家族で話し合い、専門家とも連携しながらオーダーメイドの家族信託プランを作っておけば、将来の不安を大きく減らすことができます。親御さん自身も元気なうちに希望を伝えておくことで、子どもたちにとっても安心材料となるでしょう。
最後に、家族信託は決して「財産が多い人だけの特別な対策」ではなく、誰もが大認知症時代を生き抜くために必要な有効な選択肢です。ぜひ、「まだ大丈夫」と思わずに前向きに検討してみてください。早めの一歩が、あなたとご家族の未来の安心につながります。
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