「親が認知症と診断された。」
高齢者の「5人に1人」が認知症を発症する時代。親が認知症になることは誰にでも起こり得る話です。
それでは、親が認知症になった場合、まず何を行うべきなのでしょうか?実際、その場面に直面すると、多くの人は対処法が分からないまま、認知症が進行していく親を前に焦りや不安を感じながら過ごしていくことになります。
筆者は家族信託や成年後見の専門家として、これまで1,000件以上の認知症対策の相談を受けてきました。その経験から言えることは、親が認知症と診断された直後の「初動」がいかに大切であるかということです。この初動の対応が遅れてしまい後悔するご家庭をこれまで多く目にしてきました。残念ながら、認知症が進行してしまうとできることは非常に限られてきてしまうのです。
そこで、本コラムでは、筆者の今までの経験から「親が認知症と診断されたらすぐに行うべき8つのこと」を皆さんにお伝えします。ポイントは、何より「すぐに」行うということです。
これら8つのことを実行しておけば、たとえ親が認知症になったとしても、家族で幸せに暮らし続けることができます。
いざという時に後悔しないよう、本コラムをお役立てください。それでは、内容に入っていきましょう。
目次
1. まずはやるべきことの全体像をチェックしよう
まずは、やるべきことの一覧を確認しましょう!
その1 財産の棚卸しをする | 今後の医療や介護に様々な費用がかかります。親が現在保有している財産をしっかり把握しておく必要があります。 |
その2 財産凍結の予防策を講じる | 認知症が進行すると、親の財産が凍結し使えなくなる恐れがあります。事前に家族信託などの財産凍結対策を行っておきましょう。 |
その3 認知症について正しく理解する | 認知症にも様々な種類があります。親のケアや治療を適切に行っていくためには、まずは親の認知症についての正しい理解が求められます。 |
その4 治療によって進行を遅らせる | 治療によって認知症の進行をある程度遅らせることが可能とされています。早期に治療を開始しましょう。 |
その5 今後の介護について地域包括支援センターに相談する |
認知症の進行によって今後は「介護」について考えていかなければなりません。早めに地域包括支援センターに相談にいくとよいでしょう。 |
その6 車の運転を止めてもらう | 万が一事故を起こしてしまったら大変です。早めに車の運転は止めてもらいましょう。 |
その7 徘徊対策を講じる | 命の危険にも繋がる徘徊の問題。必ず対策を講じておきましょう。 |
その8 相談窓口を確認しておく | 内容に応じて相談窓口を事前に知っておくことも重要です。 |
2. 親が認知症と診断されたらすぐに行うべき8つのこと
意外と盲点となっているのが、「その1」と「その2」ですので注意しましょう。
その1 財産の棚卸しをする
親が認知症を発症し家族が困るのは、親の通帳やキャッシュカードなどの居場所が分からず、親の財産を把握することができないことです。認知症が進行してくると、医療費や介護費用など今まではかかってこなかった様々な支払いが必要となってきます。
認知症と診断された直後であれば、まだある程度記憶はしっかりしています。手遅れになる前に、親に確認をして「財産の棚卸し」を確実に行っておきましょう。今後の家族の生活にとって、財産の棚卸しは非常に大切なことです。
それでは、財産の棚卸しのポイントを確認してみましょう。
どの金融機関に口座があるのかを確認するには、まずは通帳やキャッシュカードを見つける必要があります。保管場所を事前に確認してひとまとめにしておきましょう。普通預金の残高を確認するだけでなく、定期預金の有無についても確認しましょう。暗証番号を控えておくことも忘れないようにしましょう。
通帳やキャッシュカードが見つからない場合には、郵送物が手がかりになることもあります。郵送物が届いているということは、何らかの取引あった可能性があります。 親の記憶では口座があるが、これらの手がかりが見つからない場合には、銀行に口座があるかどうか「照会」を行うことも可能です。照会を行うことによって、口座の有無だけでなく、現在の残高を確認することができます。
● 口座をまとめておくと便利
高齢者の中には、たくさんの口座を保有している方が多くいます。7~8つの口座を保有しているケースも珍しくはありません。
口座が多数あると管理が煩雑になりますので、なるべく口座をまとめておくことがおすすめです。店舗やATMが遠い銀行の口座は解約し、近場にある銀行の口座にまとめておくと便利でしょう。
● ペイオフには注意
ただし、万が一銀行が破綻した場合には、1金融機関につき1000万円までとその利息は全額保護されますが、それを超える範囲は保護されません(ペイオフ)ので、預貯金の金額によっては、1つの口座で管理することにはリスクがあります。このようなリスクを管理するためには、利息はつきませんが「決済用普通預金口座」(※)で管理することがおすすめです。決済用普通預金口座では、銀行が破綻したとても、「全額」が保護の対象となります。
※決済用普通預金口座とは・・・預金保険制度により預金の全額が保護される普通預金をいいます。
財産を把握するために必ず確認しておかなければならないのが、貸金庫の有無です。
貸金庫の中で、不動産の権利証や契約書、証書などの重要書類や貴重品が保管されていることがよくあります。
貸金庫を借りている金融機関には、必ず預貯金の口座があります。親に確認してみるだけでなく、通帳から貸金庫の利用料が引き落とされていないかどうかもチェックしましょう。
貸金庫がある場合には、事前に中にあるものを取り出して自宅で保管しておくのがよいでしょう。親の認知症が進行し判断能力が失われてしまうと、銀行で手続きができず貸金庫の内容物を取り出すことができなくなる恐れがあります。
今後、医療費や介護費用など様々な出費が想定されますので、このタイミングで親の収入と支出を確認しておくことも重要です。
● 主な収入
収入として代表的なものとしては、「年金」が挙げられます。年金には、公的年金の他に企業年金、国民年金基金、個人年金保険など様々な種類のものがあります。どの口座にいくら振り込まれているのかを把握しておきましょう。他の収入としては、アパート・駐車場などの収益物件からの不動産収入、株式・投資信託からの配当金などが考えられます。
● 主な支出
支出としては、まずは電気・ガス・水道などのライフライン関係の支払いが考えられます。これらの費用をどのように支払っているのか(口座振替なのか、クレジットカードで支払っているのかなど)を確認しましょう。他に、食費、医療費、固定資産税、電話料金などの支出が考えられます。
将来的な自宅の売却に備えて、親が住んでいる自宅の名義をこの段階で確認しておくことも大切です。建物だけでなく、土地の名義まで確認しましょう。
今後、認知症が進行し自宅での暮らしが難しくなると、親を施設に移すことを検討しなければなりません。施設の入居にあたっては、入居一時金としてある程度まとまった資金が必要となりますから、自宅を売却することがよくあります。その際、自宅の一部が親の兄弟の名義となっていたり、祖父母の名義のままとなっており、売却がスムーズにできないケースがあります。
親が認知症と診断されたタイミングで、自宅の土地・建物の名義を必ず確認しておきましょう。
それでは、自宅の名義は、どのように確認すればよいのでしょうか。方法は3つあります。
① 登記簿謄本を取得する
● 登記簿謄本の取得方法
最も確実な方法が登記簿謄本を取得することです。登記簿謄本は法務局で取得することが可能です。登記情報提供サービスを利用してインターネット簡単に取得することも可能です。
登記簿謄本を取得する際は、土地については「地番」、建物については「家屋番号」を記載・入力する必要がありますが、これらは必ずしも自宅の「住所」と同じというわけではありませんので、注意が必要です。地番や家屋番号は、②の権利証や③の固定資産税納税通知書に記載されています。また、管轄の法務局に問い合わせをして教えてもらうこともできます。
● 名義はどこを確認すれば分かるのか
下記は登記簿謄本の見本ですが、誰の名義になっているかは、登記簿の「甲区」という部分の一番下を見ればわかります。
● 取得費用
登記簿謄本は、法務局の窓口で取得した場合には1通600円、インターネットで取得した場合は1通334円です。
【参考】登記情報提供サービス https://www1.touki.or.jp/
<登記簿の見本>
②権利証を確認する
権利証を見ることによっても名義を確認することができます。権利証は自宅や貸金庫で保管しているケースが多いでしょう。権利証は自宅を購入した際に発行されているものなので、紛失しているケースもよくあります。紛失している場合、権利証は再発行されるものではないので、①の登記簿謄本や③の固定資産税納税を確認してみましょう。
③固定資産税の納税通知書を確認する
市区町村から毎年送付される固定資産税の納税通知書によっても自宅の名義を確認することが可能です。ただし、納税通知書に書かれている名義人はあくまで固定資産税の納税義務者(固定資産税を払う義務がある人)なので、必ずしも自宅の名義人とは限りません。ほとんどのケースで両者は一致しますが、念のため①の登記簿謄本を取得した方がよいでしょう。
● 医療保険や介護保険に介入しているかチェック
日本では7割以上の人が民間の医療保険に加入しているとされています。また、所定の要介護状態となったときに給付金が受け取れる民間の介護保険に加入している方も増えています。
認知症の進行によって、医療費や介護費用の負担が増加していくことが予想されます。まずは、いつ、どのような事由で、いくらの保険金が支払われるのかどうかをしっかり確認しておきましょう。契約時に交付された保険証券をみて分からなければ、保険会社に問い合わせをしてみましょう。
● 指定代理請求人の有無もチェック
必ず確認しておきたいのが、保険契約に「指定代理請求人」が指定されているかどうかです。指定代理請求人とは、被保険者が事故や病気等で寝たきりの状態となり、意思表示が困難であるときに、被保険者に代わって保険金の請求をできる人を言います。保険の加入時に指定していないときは、途中で指定することも可能です。指定代理請求人は、被保険者と一定の親族関係にある者に限定されています。
指定代理請求人の指定がなされていない場合には、親が認知症によって判断能力を失ってしまうと、保険金の請求ができなくなる恐れがあります。必ず指定を行っておきましょう。また、保険金の受取口座についても注意しましょう。指定代理請求人によって保険金の請求ができたとしても、受取口座が認知症を発症した親の口座である場合、支払われた保険金が引き出せず利用できなくなる可能性があります。親の口座ではなく、指定代理請求人の口座への支払いが可能かどうか、事前に保険会社に問い合わせをしておきましょう。
その2 財産凍結の予防策を講じる
● 財産凍結の問題とは
財産の棚卸しが終わったら、次に行うべきことは「財産凍結」の予防策を行うことです。
自分では正常な判断ができなくなってしまった人を保護するために、法律上判断能力がない人が行った行為は「無効」とされています。それゆえ、自分では自分の財産に関する行為ができなくなり、財産が動かせなくなってしまうのです。これが財産凍結の問題です。認知症が進行して判断能力が低下してくると、親の預貯金を引き出すことができなくなったり、親名義の不動産の売却ができなくなったりする恐れがあるのです。
親の財産が凍結してしまうということは、お金があっても使えなくなってしまうということを意味します。そうなると、今後必要となってくる医療費や介護費用をどのように工面するのかを考えなくてはなりません、最悪のケースとしては、子供などの家族が立て替えなければならないかもしれません。
<財産凍結の具体例>
● 事後的にとれる手段は法定後見制度しかない
そして、認知症の進行が進み、判断能力が失われてしまうと、「法定後見制度」という制度を利用するしか対策の選択肢はありません。法定後見制度とは、認知症などによって判断能力が低下した「後」に、管轄の家庭裁判所に対して申立を行い、成年後見人を選任してもらう制度です。その後の財産の管理は、家庭裁判所によって選任された成年後見人が全て行うことになります。
法定後見制度には、認知症高齢者の財産を守ることができるというメリットもある一方で、次のようなデメリットが指摘されています。親の財産は家庭裁判所の監督下に置かれ、ケースによっては費用を払って弁護士や司法書士などの専門家に財産管理を依頼することになるというのが一番大きなデメリットです。
<法定後見制度のデメリット>
● 財産凍結対策には家族信託が最も有効
このようなデメリットを避けるために最も有効な方法が、「家族信託」という制度を利用することです。
家族信託とは、不動産や金銭などの財産の管理や承継を信頼できる家族に元気なうちに託しておく制度です「信託」という文字をみると、銀行に依頼して行うものだと誤解する人も多いのですが、家族信託はあくまで「家族を信じて」、「財産」のことを「託す」制度です。言い換えれば、家族が家族のために行う財産管理の制度、ということになります。
家族信託を開始するには、委託者(財産の管理を託す人)と受託者(財産の管理を託される人)が信託契約を締結する必要があります。そして、信託契約の中で、受益者(信託から利益を受ける人)や信託財産(管理権限を受託者に移転する財産)などを決定します。家族信託では、委託者と受益者は同一人物となるのが一般的です(このような信託を「自益信託」と言います。)。家族信託を利用するケースで最も多いのは、高齢の親(委託者兼受益者)が元気なうちに子供(受託者)に財産管理をお願いするケースです。子供(受託者)に財産の管理権限を移転しておくことで、親が認知症などで判断能力を失った後でも、子供が親に代わって財産管理を行うことができます。
したがって、親の判断能力がまだ残っているうちに家族信託を開始しておけば、財産凍結の問題を避けることができるのです。
<家族信託の基本イメージ>
● 家族信託を行うにも判断能力が必要となる
ここで1点注意しなければならないのが、判断能力の低下が進行してしまうと、信託契約を締結することができず、家族信託を利用できなくなるということです。よく誤解されていることではありますが、認知症と診断されたら必ずできなくなるというわけではありません。あくまで判断能力の程度の問題です。認知症と診断されたら、なるべく早い段階で弁護士や司法書士などの専門家に相談をしてみましょう。
その3 認知症について正しく理解する
● 認知症とは
認知症を発症した親に対して適切なケアや治療を行っていくためには、家族が認知症の特性や症状を正しく理解している必要があります。
認知症は、「一度獲得された知的機能が,後天的な脳の機能障害によって全般的に低下し,社会生活や日常生活に支障をきたすようになった状態で,それが意識障害のないときにみられる」と定義されています(「認知症疾患診療ガイドライン2017」・一般社団法人日本神経学会)。単なる物忘れと大きく異なる点は、日常生活に支障が出ていること、忘れたこと自体を認識していないことと言われています。
<物忘れと認知症>
●認知症の種類
そして、認知症は病気の名前ではなく、腰痛や頭痛のようにあくまで「症状」を表す言葉です。認知症を引き起こすとされる病気は、80~90種類あるとされていますが、代表的な認知症の原因は、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症の4つとされています。アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症は、加齢による脳の老化によってゆっくりと進行していく「変性性認知症」と分類されています。これに対して、「血管性認知症」は脳梗塞や脳卒中によって引き起こされるものをいいます。
<認知症の原因疾患の割合>
(2013年5月「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」)
● 認知症の症状
認知症の症状や治療法・対処法は、原因疾患によって異なりますが、認知症の症状は、認知機能障害と認知症の行動・心理症状(BPSD)の2つに大きく分けることができます。
認知機能障害は、どの原因疾患であっても現れるとされる症状で、記憶障害(記憶ができなくなる)、見当識障害(日付や場所が分からなくなる)などが典型例です。
認知症の行動・心理症状(BPSD)は、認知機能障害によって引き起こされる徘徊、うつ、不安、暴力、不潔行為などをいいます。
一口に認知症といっても、様々な原因疾患、症状があります。親の認知症がどの種類にあたるのか、しっかり医師から説明を受け理解をしておくことが大切です。
軽度認知障害(MCI)とは、物忘れが主な症状ではあるが、まだ日常生活への影響はほとんどなく、認知症とは診断できない状態をいいます。まだ認知症を発症しているわけではありませんが、軽度認知障害の人は年間で10~15%が認知症に移行するとされていますので、認知症の予備軍とされています。2012年の厚生労働省の調査によると、400万人以上の人が軽度認知障害とされています。
軽度認知障害と診断を受けた場合であっても、適度な運動、食事療法、認知トレーニングなどによって認知症への移行を遅らせることができるとされています。早期発見・早期対策が進行を予防するためのポイントです。
その4 治療によって進行を遅らせる
● 正しい治療のためにはまず正しい診断を受ける
一部の外科的対応で治療することができる認知症を除き、残念ながら認知症を完全に治療することはできません。しかし、治療によってある程度進行を遅らせることは可能だとされています。
まず、治療にあたって大切なことは、「正しい診断」に基づいて治療を行うことです。先ほど述べたように、認知症の原因疾患は多岐に渡ります。何が原因で認知症を発症しているのかによって、治療方法は異なりますので、原因を正確に把握していることが大切です。診断に疑問がある場合には、「認知症疾患医療センター」に指定されている病院や認知症専門のクリニックなどで改めて診断を受けてみましょう。
● 治療は2種類に分かれる
認知症の治療には、薬物療法と非薬物療法の2つがあります。この2つを組み合わせて治療を行っていくことが多いようです。
薬物療法では、症状に応じて処方される薬が異なります。認知症機能障害の進行を緩和するために用いられるのが、認知機能改善薬です。抗認知症薬とも呼ばれます。主に「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」と「NMDA受容体拮抗剤」の2種類が使われています。また、行動・心理症状(BPSD)を緩和するためには、睡眠薬(睡眠導入剤)、向精神薬、漢方薬などが用いられます。
非薬物療法には、音療療法、運動療法、回想法(自分の思い出を他人に話すことで精神的な安定を図り、認知症の進行を予防する方法)などがあります。
<薬物療法と非薬物療法>
その5 今後の介護について地域包括支援センターに相談する
今後の認知症の進行に備えて、「介護」についてしっかり情報収集をし、計画を立てておくことが重要です。
認知症の初期段階では、在宅介護となることが多いですが、家族だけで介護の問題を抱え込まず、まずは、「地域包括支援センター」に相談してみることをおすすめします。
地域包括支援センターとは、介護・医療・保健・福祉など高齢者に関する総合的な相談窓口です。人口2~3万人のエリアごと(中学校の学区と同じくらい)に全国で約5,000ヶ所設置されています。場所が分からない場合には、市区町村の役所に問い合わせてみましょう。
地域包括支援センターには、主任ケアマネジャー、社会福祉士、保健師などの専門家が高齢者に関する様々な相談に無料でのってくれます。介護保険の申請、介護サービスの手続、ケアマネジャーのいる居宅介護支援事業所の紹介など「介護のはじめの一歩」の相談をするのは、地域包括支援センターが最適です。早い段階で一度相談にいってみましょう。
その6 車の運転を止めてもらう
● 車の運転は危険、運転免許の返納を
認知症の進行はゆっくりと進んでいきますので、すぐにこれまでのような日常生活が送れなくなってしまうわけではありません。ですので、認知症と診断されたからといって急に生活を変える必要はないと言われています。
ただし、「車の運転」についてはすぐに止めてもらった方が賢明といえます。万が一、交通事故を起こして他人を怪我させてしまった場合、大きな責任を負うことになります。本人だけでなく、家族が監督責任を負う可能性もあります。認知症と診断された段階で、運転免許証の自主返納をするようにしましょう。
● 自主返納に応じてもらえない場合
とはいえ、中にはなかなか自主返納には応じてくれないこともあるでしょう。そのような場合、医師からも運転を控えてもらうよう伝えてもらう、物理的に運転ができないようにする(例えば、鍵を隠す、エンジンがかからないようにする、廃車処分にするなど)などの工夫が必要となるでしょう。
● 自治体によっては特典も
自治体によって内容は異なりますが、運転免許証を自主返納すると、バス・地下鉄・タクシーなどの運賃の割引、各種施設の入館料・サービス利用料金の割引や、日用品の購入割引などの「特典」を受けることができます。また、運転免許証の返納をすると、「運転経歴証明書」の交付を受けることができ、この証明書は以後「身分証明書」の代わりとして利用することができます。
2017年3月に施行された改正道路交通法によって、75歳以上の方が運転免許の更新を行う際は、認知機能検査の受検が義務付けられました。
認知機能検査によって、第1分類(認知症のおそれがある方)、第2分類(認知機能が低下しているおそれがある方)、第3分類(認知機能が低下しているおそれがない方)の3つに分類されます。
第1分類に分類されると、医師の診断を受けることが義務付けられ、認知症という診断がなされると運転免許の停止または取り消しということになります。第2分類に分類されると、更新は認められるが半年後の再検査を受けることが必須となります。
その7 徘徊対策を講じる
● 徘徊は命に関わる問題
親が認知症を発症した場合に注意しなければならないのが、「徘徊」の問題です。
警察庁の発表によると、2019年の認知症の行方不明者数はなんと1万7479人に上ります。アルツハイマー型認知症の10人に6人が徘徊しているというデータもあるそうです。また、認知症で行方不明となった方の約2割は、家族も気がつかない軽度の認知症だったいうデータもありますので、徘徊は必ずしも重度の認知症の方だけの問題ではありません。
徘徊は時に命に関わる問題ですから、事前の対策を講じておくことが大切です。
もっとも、24時間認知症の親を監視し、部屋に閉じ込めておくことはできませんので、徘徊を完全に防止することは難しいとされています。ある程度は外出することを前提に徘徊の対策を考えていきましょう。
● 主な徘徊対策
よく行われている徘徊対策としては、下記のようなものが挙げられます。
・GPS端末を持たせる、GPSを靴に取り付ける
・衣服、カバンなどの持ち物に名前と住所を書いておく
・徘徊SOSネットワーク(※)に登録しておく
※徘徊SOSネットワーク・・・各自治体によって行われている徘徊による行方不明者を早期発見・保護するためのネットワーク。事前に氏名、年齢、住所、特徴、写真などを登録しておくことで、素早く行方不明者の情報を地域に届けることができる。
・近所の人や交番の警官と情報共有しておく
・玄関や窓から簡単には出ていけないようにする
その8 相談窓口を確認しておく
<認知症の相談窓口>
● 医療の相談窓口
医療の相談は、普段から診察を受けている「かかりつけ医」に行うケースが多いでしょう。また、認知症の診療に習熟し、かかりつけ医への助言や支援を行い、専門医療機関や地域包括支援センターとの橋渡し役となる「認知症サポート医」や「認知症疾患医療センター」に相談することも考えられます。
● 介護の相談窓口
介護の相談は、その5で説明した「地域包括支援センター」、「市区町村の高齢者支援窓口」に行うのがよいでしょう。また、全国に支部があり、認知症介護を行っている家族からの相談や家族間の交流などを行っている「公益社団法人 認知症の人と家族の会」という団体もあります。
●財産凍結の相談窓口
財産凍結の相談は、家族信託や成年後見制度に精通している弁護士や司法書士に行うのがよいでしょう。
3. まとめ
家族だけで解決しようとせず、早期に相談することが大切です。
親が認知症になったとしても、悲観的になる必要はありません。「8つこと」を実行していただき、これから起こりうる問題に対してしっかり準備しておけば、これまでのように家族で幸せな生活を送ることは十分可能です。
家族だけで問題を抱え込まず、早めに然るべき場所に相談にいきましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。本コラムをお読みいただき、皆様の不安や悩みが少しでも解消されると嬉しいです。
〈参考文献・情報〉
「60分でわかる!認知症対策」(ファンメディケーション株式会社)
「認知症の取扱説明書」(平松類)
「ボクはやっと認知症のことがわかった」(長谷川和夫)
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