”要介護”でも間に合う?家族信託の活用方法と注意点~間に合わない場合の対処法も~

悩む主婦 相談者

父が高齢となってきたので、家族信託を検討しています。要介護認定を受けてしまうともう家族信託はできませんか?

要介護認定を受けたからといって必ずしも家族信託ができなくなるわけではありません。一度専門家に相談してみましょう。

motoki 元木司法書士

近年、「家族信託」が相続対策や財産管理の有効な方法として注目を集めています。しかしながら、「要介護認定を受けると家族信託を利用できないのでは?」という不安の声もしばしば耳にします。結論からいえば、要介護認定を受けているからといって、必ずしも家族信託が利用できなくなるわけではありません。本コラムでは、要介護認定の仕組みや家族信託に関する基礎知識を押さえつつ、実際に家族信託を活用する際のポイントや注意点をわかりやすく解説します。

数多くの家族信託スキームを構築し、要介護や認知症の問題でお困りのご家族から相談を受けてきた実務経験をもとに、読者の皆さまにとって役立つ情報をお伝えします。

1 要介護認定とは

1-1 要介護認定の基本

要介護認定とは、介護保険サービスを受ける際に必要となる行政上の手続きです。市区町村の担当窓口へ申請し、主治医の意見書や訪問調査などの結果を踏まえて、その人の心身の状態に応じた介護度(要支援1・2、要介護1~5など)が判定されます。

  • 要支援:日常生活動作はほぼ自立しているが、一部サポートが必要
  • 要介護:常時、一定以上の介護や支援が必要

要介護認定を受けたからといって、ただちに判断能力が著しく低下しているというわけではありません。身体的には介護が必要でも、認知機能(判断能力)が保たれているケースも多々あるのです。

1-2 要介護認定と認知機能の関係と家族信託への影響

「要介護=認知症」というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、要介護度は「生活動作の困難度」を中心に判定されるものであり、一概に認知症とは限りません。
また、初期の認知症であっても、自分の意思表示がしっかりできる状態であれば、家族信託や各種契約手続きを行うことが可能です。

したがって、誤解されていることが多いですが、必ずしも「要介護認定を受けた=家族信託ができない」というわけではありません。弊社がサポートしてきたお客様の中でも、要介護認定を受けた後に家族信託をスタートできたケースは多数あります。

もっとも、要介護認定を受けている場合には、判断能力が低下しているケースも多くあり、また、その後判断能力が低下していく可能性が高いです。そのため、できるだけ早く家族信託などの認知症対策や相続対策を実行した方がよいといえるでしょう。

図表1:要支援・要介護度別の認知機能の目安と家族信託への影響

要支援・要介護度 身体的特徴(例) 認知機能の目安(例) 家族信託への影響(例)
要支援1・2 日常生活はほぼ自立しているが、
一部に支援を必要とする場合がある
判断力や記憶力に大きな問題はないことが多い 原則として家族信託契約の締結は十分可能
要支援段階から対策を検討しておくと、将来のリスクを減らせる。
要介護1 日常生活の一部で介助が必要 軽度の認知症が見られる場合もあるが、
多くは意思表示ができる状態
多少のサポートは必要だが、本人が契約内容を理解できるなら家族信託は可能。
医療・介護サービスを活用しつつ早めの検討を。
要介護2 立ち上がり・歩行に介助が必要
(屋内移動が難しくなる場合も)
個人差が大きく、
認知機能が保たれているケースも少なくない
判断能力さえ残っていれば家族信託契約は可能。
医師の診断書などで意思能力の有無を確認しておくとスムーズ。
要介護3 日常生活の大半に介助が必要 中度の認知機能低下が進行する場合あり 本人の意思確認が難しいケースも増えるため、契約の可否を慎重に判断。
締結時点で意思能力を確認できるか、専門家としっかり相談を。
要介護4 ほぼ全面的な介助が必要
(着替え・食事など)
認知症が進行し、
意思決定にサポートが不可欠なことが多い
早期の対策が望ましい段階。すでに認知症が進んでいる場合は、
家族信託よりも成年後見制度の活用を検討すべきケースが多い。
要介護5 寝たきり状態など、
ほぼすべての動作に介助が必要
重度の認知症を伴う可能性が高く、
本人の意思確認が困難なことが多い

家族信託契約の締結は困難になりがち。
成年後見制度の利用が現実的。早期に専門家へ相談し、
必要な手続きを進めることが重要。

1-3 要介護認定の申請方法

要介護認定の申請は、住民票のある市区町村の介護保険担当窓口で行います。初めて申請する方は、以下のようなステップを踏むのが一般的です。

【要介護認定の申請手続きの流れ】

  1. 申請先への相談・申請書類の提出

    • お住まいの市区町村(介護保険担当窓口)に申請します。
    • 申請書は窓口でもらうか、市区町村のホームページなどから入手可能です。本人以外(家族等)でも申請できます。
  2. 調査・主治医意見書の取得

    • 市区町村の職員や委託された調査員が、自宅や施設を訪問して生活状況などを聞き取り調査します(認定調査)。
    • 主治医から、心身の状態などについての「主治医意見書」を作成してもらいます。
  3. 審査・判定

    • 調査結果と主治医意見書の情報をもとにコンピュータで一次判定を行い、その後、専門家による審査会で最終的に要介護度を判定します。
    • 判定結果(要支援1~2、要介護1~5など)は市区町村から通知されます。
  4. 認定結果の通知・サービスの利用

    • 認定結果が出たら、ケアマネージャーと相談しながらケアプランを作成して、介護サービスを利用します。
    • 非該当(自立)となった場合は、地域の介護予防・福祉サービスを活用することも可能です。

申請の際に何をどうしたらいいかわからない場合や、家族のサポートが難しい場合は、地域包括支援センターケアマネジャー(介護支援専門員)に相談することができます。地域包括支援センターは高齢者の総合的な相談窓口であり、要介護認定の手続きに限らず、介護保険サービスや福祉関連制度の案内を行っています。また、ケアマネジャーは要介護度が確定した後、介護サービスの計画(ケアプラン)を作成する専門家ですが、申請段階でも相談に乗ってくれることがあります。
こういった専門機関や専門家を活用することで、要介護認定の手続きをスムーズに進めることが可能です。

2 家族信託の基本

2-1 家族信託とは何か

家族信託とは、財産管理や運用、処分を信頼できる家族などに任せる仕組みです。認知症による財産の凍結から守りたい財産の名義を「受託者(家族など)」へ移し、受託者が信託契約に基づき財産を管理・運用します。依頼する人(委託者)は受益者として、その財産から生じる利益を受け取る立場に立ちます。

委託者:財産を預けたい人(一般的には高齢の親)
受託者:財産を預かり管理・運用する人(一般的には子供)
受益者:財産から生じる利益を受け取る人(家族信託では委託者本人がなる場合が多い)

判断能力が残っているうちに家族信託を用いて受託者が財産の管理をできるようにしておけば、委託者が認知症などによって判断能力がなくなってしまっても、お金や不動産を凍結から守ることができます。

【家族信託の基本形】

2-2 従来の制度との違い

財産管理の方法としては、従来「成年後見制度」や「任意後見契約」が知られています。しかし、成年後見制度には家庭裁判所の監督などの制約が多かったり、柔軟な資産運用が難しいといったデメリットもあるのが現状です。また、成年後見監督人(弁護士・司法書士など)が選任される場合もあります。(任意後見では必ず任意後見監督人が選任される)。

一方、家族信託は、家族間で財産を管理・運用するための設計を比較的自由に組むことができるという特徴があります。家庭裁判所や専門家の関与なしで、家族だけで財産管理ができるのが最大のメリットです。さらに、信託契約の中に将来的な二次受益者(自分が亡くなった後に利益を受け取る人)を指定することで、相続対策の機能を持たせることも可能です。

【参考記事】

【家族信託と成年後見制度】

3 要介護でも家族信託は利用できるのか

3-1 判断能力がポイント

家族信託を組むうえで、最も重要な要素となるのが委託者の判断能力です。実際に、要介護認定を受けている方の中には、身体能力が低下しているだけで、認知機能はしっかり保たれているケースも多くあります。
要介護認定は、あくまで「身体や日常生活においてどれだけ介助が必要か」を判定するものであり、「認知機能の低下度合い」を直接測るものではありません。そのため、要介護認定を受けているからといって、必ずしも家族信託が利用できなくなるわけではないという点をまずは押さえておくことが大切です。

家族信託は、契約締結時に「本人(委託者)が契約内容を理解しているか」「意思決定ができるだけの能力があるか」が問われます。認知症などによって判断能力が著しく低下している場合は、家族信託ではなく成年後見制度や任意後見契約を検討する必要がありますが、軽度の認知症や身体の不自由さだけであれば、十分に家族信託を利用できる可能性があるのです。

3-2 要介護状態でも家族信託を検討する際の4つのチェックポイント

要介護認定後に家族信託を検討するときには、以下の4つのチェックポイントを押さえておくとスムーズに進められます。それぞれのポイントについて、詳しい解説と注意点を見ていきましょう。

  1. 判断能力の確認
  2. 医師の診断書・鑑定書の準備
  3. 受託者の選定と後継体制づくり
  4. 契約書の作成と公正証書化

チェックポイントの詳細

チェックポイント 概要 解説・注意点
1. 判断能力の確認 家族信託は委託者本人の意思表示が欠かせない。
契約内容を十分に理解し、自分の意思を示せるかを確認する。
認知機能の程度は医師や専門家の面談などで総合的に判断。
– 「高齢だから」「要介護だから」という先入観で諦めず、実際の意思能力を冷静に見極める。
2. 医師の診断書の準備 判断能力に疑義がある場合、医師の診断書を準備した方がよいケースもある。 – 医師の診断書があると、後々のトラブルを防ぎやすい。
– 「軽度の認知症だが、契約内容を理解している」などを証明できれば契約締結がスムーズ。
– 必要に応じて専門医に相談すると安心。
3. 受託者の選定と後継体制づくり 受託者は財産を管理・運用する重要な役割。
信頼できる家族・親族を選ぶほか、
高齢の場合は後継受託者の準備も検討する。
– 受託者自身が高齢であるケースも多いので、万一の際に後継者がスムーズに業務を引き継げる仕組みを契約書に盛り込む。
– 受託者にとっての負担(事務作業・管理責任など)も事前に理解を得る。
4. 契約書の作成と公正証書化 契約内容の不備や後々の紛争を防ぐためにも、
専門家に依頼して公正証書化するのがおすすめ。
– 司法書士や弁護士に相談し、漏れや不明点のない契約書を作成する。
– 公正証書化することで、契約内容に強い証明力が生まれ、親族間トラブルの予防にもつながる。

チェックポイント1:判断能力の確認

まず注目すべきは、契約時点での本人(委託者)の意思能力です。身体が不自由でも、頭脳明晰な場合は問題なく契約できることが多々あります。逆に、外見や年齢だけでは判断できないため、家族が「無理そう」と決めつけてしまわず、専門家と協力しながら実際の認知機能を把握しましょう。認知症であっても初期段階であれば、契約内容を理解できるレベルの場合があります。

チェックポイント2:医師の診断書の準備

「判断能力がしっかりしているかどうか」を客観的に示すために、医師の診断書を用意するケースもあります。特に、後々の相続争いや親族間トラブルを避けたい場合には、医学的な見地からの判断も取っておくことで、契約の有効性をより強固にできるでしょう。
軽度の認知症と診断された方でも、信託契約の概要を理解し、自分の意思を表明できるのであれば、家族信託を利用できる可能性があります。

チェックポイント3:受託者の選定と後継体制づくり

家族信託において、受託者は“財産管理の実務”を担う最重要ポジションと言っても過言ではありません。家族間であれば、子や孫などが受託者となることが多いですが、受託者自身が高齢の場合もあります。その際は、何らかの事情で受託者が管理能力を失った際の「後継受託者」を早めに決めておくと安心です。
また、受託者は契約内容に従って財産を運用・処分するため、受益者(委託者)の希望を実現するためには、常に受益者の意思や生活状況を把握する努力が求められます。家族であっても、定期的に情報共有の場を設けるなど、トラブル回避に向けた体制づくりを心がけましょう。

チェックポイント4:契約書の作成と公正証書化

家族信託の内容をしっかり文書化しておかないと、後々の誤解や争いを招くリスクが高まります。複雑な契約内容や複数の財産が絡む場合は司法書士や弁護士など専門家の力を借りて契約書を作成するのがおすすめです。
さらに、公証役場で「公正証書」にしておけば、契約内容の真正性(正しさ)を第三者が証明することになり、万が一の時にも「契約自体が無効だ」と主張されるリスクを抑えられます。公正証書化の手間や費用はかかりますが、それ以上の安心感を得られるというメリットを考えれば、公正証書にした方がよいでしょう。なお、信託口口座を開設する場合には信託契約書を公正証書にしなければならない金融機関がほとんどです。

【参考記事】

4 家族信託の具体的な活用事例

事例A:要介護2だが認知機能はしっかりしている場合

70代のAさんは体力が低下し、日常生活に介助が必要になったため「要介護2」の認定を受けました。しかし、認知機能は問題なく、自分の財産管理の必要性を十分に理解しています。
Aさんは自宅と預貯金を持っており、今後のさらなる体力低下に備えて早めに家族信託を利用することを決意。息子を受託者として、自宅の名義を信託財産に移し、預貯金の管理も任せる形をとりました。
この事例では、要介護認定を受けていても認知機能が保たれていたため、家族信託契約の締結に何ら問題はありませんでした。

事例B:要介護5だが意思表示は可能な場合

80代のBさんは、脳梗塞の後遺症により寝たきり状態で「要介護5」の認定を受けています。身体機能は非常に低下していますが、手足の不自由さに比して意識ははっきりしており、自分の資産状況や家族のことをよく理解していました。
Bさんは自身が亡くなった後の財産分配についても強い意向を持っていたため、家族信託を検討。医師の診断書や本人面談を経て、契約内容を理解していると確認できたことから、家族信託の締結が可能と判断されました。

事例C:認知症で意思表示が困難な場合

Cさん(80代・要介護4認定)は数年前から認知症の症状が徐々に進行しており、現在は日常生活の多くの場面で介護が必要な状態です。自宅での生活を続けながら介護サービスを利用しているものの、物事の理解や判断が著しく難しくなり、家族との会話も断片的になってきています。最近では、自分が何の手続きをしているのか把握できない状況がしばしば見受けられ、書類にサインすることもままならないほどです。

このように判断能力が十分とはいえない状態にある場合、新たに家族信託契約を締結することは現実的に困難です。家族信託を成立させるには、委託者(Cさん本人)が契約内容を理解し、同意しているという事実が不可欠だからです。しかし、Cさんは認知症の進行によって意思表示が難しく、契約の意味や効果を理解できるかどうか極めて疑わしい状況にあります。結果として、家族信託をスタートすることはできません。

こうしたケースでは、成年後見制度を利用せざるを得ない場合がほとんどです。家庭裁判所に「後見開始の申立て」を行い、選任された後見人がCさんの財産管理や生活上の契約を代理で行うことになります。家族信託のように自由度の高い財産管理は難しいものの、後見制度を活用することで、認知症が進行した方の生活や財産を法的に保護し、必要な医療・介護サービスを適切に受けられるように手続き面でサポートしていくことが可能となるのです。

5 家族信託ができない場合の成年後見制度

家族信託を組むには、契約時点で委託者(財産を託す人)の判断能力が確保されていることが大前提です。もし既に認知症が進んでいたり、意思表示が困難な状況である場合、家族信託の契約は難しくなります。そういったケースでは、成年後見制度の活用を検討することが重要です。

成年後見制度には、主に「法定後見制度」と「任意後見契約」の2種類があります。法定後見制度は、本人の判断能力が失われた後に利用するもので、家庭裁判所が後見人を選任します。一方、任意後見契約は、まだ判断能力があるうちに「将来、判断能力が低下した場合に代理として行動してもらう人(任意後見人)」をあらかじめ契約によって定めておく制度です。

一般的に、家族信託は柔軟な財産管理や相続対策を目的とする場合に有効である一方で、成年後見制度は判断能力が大きく低下した方の日常生活の法律行為を包括的に支援する制度、と言えます。両者を比較すると以下のような違いがあります。

図表3:家族信託と成年後見制度の比較
        家族信託 成年後見制度
利用開始の時期 委託者の判断能力があるうちに契約を締結
(意思能力がないと契約不可)
法定後見:判断能力が低下したあと(家裁申立)
任意後見:判断能力があるうちに契約を結び、低下後に発効
柔軟性 財産運用・管理や受益者の設定など自由度が高い
(相続対策の設計がしやすい)
原則として家庭裁判所の監督下で、後見人が財産管理を行う
(財産の使い方に制限がある、投資目的などの運用は難しい場合が多い)
主体・関係性 信頼できる家族が受託者になり、契約内容に従って財産管理・処分を行う
(信頼関係が重要)
家庭裁判所が後見人を選任し、後見人は裁判所への報告義務を負う
(家族が後見人になるとは限らない。専門職後見人が選任される可能性も)
費用面 信託契約書の作成費用や登録免許税、公正証書化の手数料がかかる
(スキームの複雑さによって変動)
家庭裁判所への申立費用、鑑定費用(必要な場合)、後見人報酬
(報酬は財産額等に応じて裁判所が決定する場合が多い)
目的・特徴 財産管理・運用から相続対策まで包括的に設計できる
(原則、契約成立後は裁判所の関与なし)
本人の財産保護や身上監護が目的
(医療や福祉サービス利用など、生活全般の法的サポートを後見人が担う)

上表からわかるように、家族信託は判断能力が残っている段階で自由度の高い設計ができる点が大きな魅力です。一方で、すでに判断能力が低下している場合には成年後見制度の出番となります。
「家族信託と成年後見制度、どちらを利用すべきか」は本人の判断能力の状態や財産の種類・目的によって異なりますが、いずれにしても早い段階での検討が望まれます。もし家族信託を希望している場合は、認知症が重度化する前に契約を締結しておく必要がありますし、任意後見契約を検討する場合も、やはり同様に「元気なうちに」準備することが肝心です。

【参考記事】

6 家族信託の相談は司法書士へ

6-1 司法書士に相談するメリット

家族信託を活用するには、制度そのものの仕組みだけでなく、契約内容の構成や税務・法務の知識まで含めて総合的に検討する必要があります。特に要介護状態の方が家族信託を組むケースでは、今後の認知機能や身体状況の変化がどの程度考慮されているのかをしっかり見極めることが大切です。
ここで頼りになるのが、司法書士です。司法書士は登記の専門家として知られていますが、近年では家族信託や相続・遺言、成年後見制度など、高齢者をめぐる財産管理の問題にも精通しています。家族信託を成立させるための契約書作成に加え、公正証書化のサポート、信託登記の手続き面まで、一貫して相談できるのが大きなメリットです。

【参考記事】


6-2 成年後見制度との比較検討も可能

すでに認知症の進行が疑われる場合など、家族信託ではなく、成年後見制度(法定後見)を利用せざるを得ない場合も増えています。また、家族信託ではなく、任意後見の方が適しているケースもあるでしょう。任意後見と家族信託を併用することもあります。

司法書士は、家族信託と成年後見制度両方の専門家として、それぞれの特徴を踏まえたうえで、「どちらを採用すべきか」あるいは「両方をどう使い分けるのか」をアドバイスすることが可能です。

6-3 将来の相談窓口としての役割

家族信託は契約を結んで終わりではありません。長期にわたって財産を管理・運用するため、受託者や受益者、あるいは家族構成が変化する可能性もあります。そうした変化に応じて契約内容を見直す必要が生じることもあるでしょう。

司法書士は、初回の相談から契約締結後のサポートまで継続的に寄り添い、将来起こりうる不測の事態にも柔軟に対応することができま。家族にとっては、家族信託をスタートしてからが本番です。家族信託は長期間続くケースも多いので、家族信託がスタートした後のサポートを受けられるかどうかも非常に重要です。

このように、家族信託の運用から予期しない事態への対処まで、総合的なサポートを受けられる点で、司法書士に相談する意義は非常に大きいと言えます。

7 まとめ

「要介護認定を受けているからといって、家族信託は使えない」というのは誤解です。認知症などで意思能力が完全に失われている場合は別として、身体が不自由でも判断能力が残っていれば家族信託は十分に検討可能です。むしろ、要介護認定を受けた段階ではこれから先のリスクを見据えて、早めの財産管理体制づくりを行うことが大切だと言えます。

 

弊社ではこれまで、要介護や認知症の方を含む多くのご家族の相談に応じてきました。実務経験から申し上げると、「もっと早めに検討しておけばよかった」というケースが少なくありません。家族信託をはじめとする財産管理スキームは、人間の判断能力がしっかりしている段階でこそ効果を最大限に発揮します。ぜひ、健康なうちから、あるいは介護の必要性を感じ始めた段階から、専門家に相談して最適な方法を検討してみてください。

 

本記事のまとめ

①要介護認定と判断能力の有無は必ずしも連動しない

上記表はあくまで一般的な傾向をまとめたものです。要支援・要介護度が高くても、認知機能がしっかりしている方もいれば、反対に要介護度が低くても認知症が進行しているケースも考えられます。要介護認定の有無だけにとらわれず、本人の判断能力や契約の理解度を専門家とともに確認することが重要です。

②家族信託の可否は“判断能力”がポイント

家族信託は、契約を締結する時点で「本人(委託者)が契約内容を理解し、意思決定できる能力」を持っているかどうかがカギになります。要介護度だけで「できる・できない」を判断せず、医師の診断書や専門家の面談などを通して総合的に検討することが重要です。

③成年後見制度との併用・切り替えも視野に

もし認知機能の低下が著しく、家族信託の契約締結が難しい状態であれば、成年後見制度を検討する必要があります。また、家族信託を利用していても、その後さらに認知症が進み、契約内容の変更や管理が難しくなる場合には、任意後見制度との併用を検討するケースもあります。

 

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