
先日父が亡くなり相続放棄をしました。しかし、財産の中に車があり、駐車場の管理者から早急に処分するよう電話がありました。相続放棄をしても、車を処分してもよいのでしょうか。
相続放棄をした人は、原則として車を処分することはできません。自己判断で安易に処分することは控えましょう。
相続放棄をする場合、金銭、不動産、車などの財産を処分することはできません。「単純承認」とみなされ、相続放棄ができなくなってしまうからです(法定単純承認)。
とはいえ、車のような大きな財産をそのまま放置するわけにもいきません。きちんと処理しなければ他人に迷惑がかかってしまう可能性もあります。
本コラムでは、相続放棄をした後に車を処分する手順や注意すべきケースについて解説します。
目次
1 相続放棄をするなら車の処分は原則NG
相続放棄をする「前」の車の処分は原則NG
相続放棄をすると、法律上はじめから相続人ではなかったことになりますので、マイナスの財産だけでなく、プラスの財産も一切引継ぐことはありません。
したがって、これから相続放棄をする予定の人は、車の処分(売却、廃車)や名義変更をしてはいけません。車の名義変更や処分をすることで、「単純承認」とみなされ相続放棄ができなくなる可能性があります。単純承認とは、プラスの財産もマイナスの財産も全て引継ぐことをいいます。相続放棄をする前に財産を処分すると、法律上単純承認したものとみなされてしまい、相続放棄ができなくなるのです(法定単純承認)。
また、被相続人名義のままで車を乗り続ける行為も単純承認とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。
相続放棄をした「後」の車の処分も原則NG
相続放棄をした「後」であっても、車の処分や名義変更を行ってしまうと、単純承認とみなされ相続放棄が認められなくなってしまう可能性があります。
2 例外的に車の処分ができる場合
相続放棄したとはいえ、そのまま車を放置しておくことができないケースもあるでしょうが、原則として相続放棄をする場合には、車を処分を行うことはできません。
しかし、例外的に下記に該当する場合には相続放棄をすることが可能です。
例外1 車検証の所有者が被相続人ではない場合
車の所有者が被相続人ではなく、第三者やリース会社・クレジット会社であるケースもあります。特にローンを支払い中の場合は、車の所有者はローン会社やディーラーの可能性が高いです。
被相続人が所有者でない場合、車は相続財産ではありません。所有者に連絡をしてから車を引き取ってもらいましょう。
ただし、ローン支払い中であっても、金融機関のマイカーローンなどで購入している場合などは、所有者は被相続人であるケースもあります。
一方、被相続人が所有者の場合は、車は相続財産となります。車を処分することはできません。
例外2 車の資産価値がない場合
資産価値がない場合は処分しても問題ない
車に資産価値がない場合は、相続財産の処分にあたらず、相続人が車を処分しても問題はないと考えられています。
資産価値を算出するためには、中古車買取業者にを査定してもらう方法が有効です。より正確に客観的な資産価値を把握するために、複数の業者に査定してもらうのがよいでしょう。
もっとも、形式的には「処分」に該当する行為ではあるので、完全に問題ないとは言い切れない部分もあります。処分の際は、事前に弁護士や司法書士の相談しましょう。また、債権者から求められた際に備えて、車に価値がないことを示す査定書など客観的な資料を保管しておきましょう。
資産価値がある場合はどうするのか
車に資産価値があった場合は、車の取り扱いに注意が必要です。
車を使用し続けたり、勝手に車を売却すると、単純承認とみなされる可能性があります。
車に資産価値がある場合、家庭裁判所に相続財産管理人を選任してもらい、相続財産を処分してもらうことが原則です。
相続財産管理人とは、相続人全員が相続放棄した場合や法定相続人に該当する親族がいない場合などに相続財産を管理して清算を行う人をいいます。
相続財産管理人の選任を申立ができる人は、利害関係者(相続放棄をした相続人など )や債権者などに限定されています。
相続財産管理人の選任を行う際は、一般的に20~100万円程度の予納金を家庭裁判所に納付する必要があります。予納金を誰がどのように負担するかは実務上悩ましい問題です。
しかし、費用がかかるからといって車をそのままにしておくと、駐車場や税金などのコストがかかり続ける可能性もあります。また、相続放棄した相続人は車に対して一定の管理義務を負い続けることになります。
3 車を処分する際に注意すべき2つのケース
ケース1 被相続人が自動車税を滞納していた
被相続人が自動車税を滞納していたケースでは、税金を支払わないと車を廃車にできない可能性があります。
車の処分を急ぐ場合には、相続人が自分のお金で滞納している税金を支払って処分するのも一つの方法です。なお、「相続人の財産」から税金を支払う分には、単純承認には当たらないとされています。
もちろん、相続放棄をしているため、自動車税の支払い義務はありません。急がないのであれば、相続財産管理人による処分を待ってみるのも良いでしょう。
ケース2 被相続人が自動車保険に加入していた
自動車保険に加入していた場合には、保険料の支払いを止めるためには、自動車保険の解約手続きや名義変更手続きを行う必要があります。
しかし、自動車保険の解約手続きや名義変更手続きは、単純承認に該当し、相続放棄ができなくなるリスクがあります。
そのため、自己判断で手続きを進めるのは危険です。被相続人が自動車保険に加入している場合は、弁護士や司法書士に相談するのが賢明です。
4 まとめ
最後までご覧いただき誠にありがとうございます。
それでは、本コラムのまとめです。
・相続放棄をする「前」であっても「後」であっても、原則として車の処分(売却、廃車)や名義変更はできない。
・例外的に車が処分できる場合は2つある。
例外1 車検証の所有者が被相続人ではない場合
例外2 車の資産価値がない場合
・車を処分する際に注意すべき2つのケース
ケース1 被相続人が自動車税を滞納していた
ケース2 被相続人が自動車保険に加入していた
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