相続登記を申請すると、他の相続手続にも必要な戸籍なども法務局に提出しなければならないため、同時に手続きが進められないですよね。何かよい方法はありますか?
法定相続情報一覧図を取得することがオススメですよ。
2017年5月に導入された「法定相続情報証明制度」により、被相続人の相続関係を証明する「法定相続情報一覧図」が全国の法務局で取得できるようになりました。
導入以前は、被相続人の法定相続人を証明するために、法務局や銀行などのすべて相続手続き先に対して、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員分の現在の戸籍謄本などの提出が必要でした。
そのため、複数の相続手続きを同時並行で進めるためには、戸籍一式を複数用意する必要ありました。戸籍謄本を1セット揃えるだけでも、5,000円~2万円程度の費用がかかります。これを複数セット揃えるとなると費用もそれなりにかかります。
この”戸籍一式”に代わる書面が「法定相続情報一覧図」です。相続手続きの際、法定相続情報一覧図を提出すれば戸籍一式を提出する必要がありません。また、法定相続情報一覧図の取得は手数料が無料であるため、複数の相続手続きを戸籍1セット分の費用で進めていくことが可能です。
本コラムでは、法定相続情報一覧図・相続登記のメリットや必要書類を解説いたします。法定相続情報一覧図を利用して相続手続きを効率的に進めていきましょう。
目次
1 法定相続情報一覧図を用いるメリット
相続手続きを行う際に「法定相続情報一覧図」を用いると次の5つのメリットがあります。
それでは、順番に確認していきましょう。
メリット1 取得手数料がかからない
法定相続情報一覧図の取得には、取得通数に関わらず取得手数料がかかりません。
手続き先分の法定相続情報一覧図を取得すれば、それぞれを同時並行に進めていくことができます。
なお、法定相続情報一覧図を取得するためには戸籍一式がが必要となりますので、戸籍の取得費用はかかります。
メリット2 5年間は再取得ができる
最初に取得した枚数では足りないといったような場合、追加で法定相続情報一覧図の発行を受けることも可能です。一度作成された法定相続情報一覧図のデータは、法務局で5年間保管されますので、最初の取得から5年間は再取得ができます。再取得の場合も手数料はかかりません。
①再取得を受けることできるのは、当初申請をした登記所のみです。
②再取得の申出人となることができるのは、当初申出人となっていた方のみです。
メリット3 法務局のチェックによって、法定相続人を確実に把握できる
相続人が誰であるかは戸籍を解読して確定させる必要があります。ところが、ほとんどの人は戸籍を読むことに慣れていませんので、遺産分割協議において法定相続人である人を見落としてしまったり、実際には法定相続人ではない人を加えてしまうなどのリスクがあります。
遺産分割協議は法定相続人全員行う必要があります。法定相続人にあった場合には遺産分割協議は無効となってしまいます。
法定相続情報一覧図を作成をする場合、法務局に対して被相続人(=亡くなった人)の法定相続人を確定させるために必要な戸籍謄本を一式提出します。法務局では、その戸籍を読み解き、戸籍の過不足や法定相続人に誤りがないかのチェックを行います。
つまり、法定相続情報一覧図の取得を行うことで、法務局に戸籍や法定相続人の確認をしてもらえるということになります。
メリット4 複数の相続手続きを並行して進められる
【法定相続情報一覧図がない場合とある場合の手続き方法の違い】
相続手続きは、複数の手続き先に対して行うことがほとんどです。
それぞれに提出する書類は、手続き先ごとに異なりますが、戸籍はあらゆる手続きで必要となる書類です。場合にっては、戸籍に原本が返却されないこともありますし、そうでなくても一度は必ず戸籍の原本を提出する必要があります。
つまり、戸籍1セットでは複数の手続きを同時に進めていくことはできないということです。
数セット用意することが可能であれば同時並行に進めていくこともできますが、戸籍類を数セット用意するためにはそれなりに費用がかかってしまいます。
ここで役立つのが、戸籍の代わりとなる「法定相続情報一覧図」です。
前述のとおり、法定相続情報一覧図は何通取得しても手数料はかかりません。法定相続情報一覧図を手続き先の分だけ取得すれば、複数の相続手続きを同時に進めていくことが可能となります。
メリット5 手続き先での戸籍チェックを省けるため、相続手続きが早く進む
銀行や証券会社など金融庁機関や法務局などでは、まずはじめに提出された戸籍一式を調査・解読して法定相続人の確認作業を行います。これは「遺産分割協議」が法定相続人全員のもとで行われたものかどうかを確認する必要があるからです。万が一、法定相続人に漏れがあった場合には、遺産分割協議は無効となり、相続手続きは進めていくことができません。
戸籍一式の調査・解読にはかなりの時間を要します。また、複数の担当者がチェックするためにさらに時間がかかります。
しかし、法定相続情報一覧図を提出すればこれらの時間を省略できます。何故なら、法定相続情報一覧図は「法務局が法定相続人を証明する書類」だからです。手続き先において改めて法定相続人をチェックする必要はありません。
2 法定相続情報一覧図を取得するタイミング
法定相続情報一覧図を取得するタイミングには2通りあります。
タイミング① 戸籍一式を取得した直後
(=相続手続の開始前)
タイミング② 相続登記の申請と同時
【相続手続きの一般的な流れと法定相続情報一覧図の申し出のタイミング】
タイミング① 戸籍一式を取得した直後(=相続手続きの前)
【メリット】
・相続登記申請時の提出書類を削減できる
・登記申請と同時に他の手続きを進められる
・遺産分割協議の前に、法務局の確認が入るので法定相続人を誤ることがない
【デメリット】
・相続登記の申請までに時間を要する
相続手続きに着手したら、まずは戸籍の収集から始めます。何よりも先にまず、法定相続人を確定させる必要があるからです。この戸籍の収集が完了した直後に、法定相続情報一覧図の取得を行うのが1つ目のタイミングです。
このタイミングで法定相続情報一覧図を取得するメリットは、
・相続登記申請時の提出書類を削減できる
・登記申請と同時に他の手続きを進められる
・遺産分割協議の前に、法務局の確認が入るので法定相続人を誤ることがない
などが挙げられます。
しかし、この場合、登記を申請するまでに時間を要します。
売却などが控えており、とにかく早く不動産の登記だけしてしましたいというような時には、パターン②の採用をおすすめします。
相続登記に法定相続情報一覧図を使用できるという点が、タイミング②とは異なります。
【添付書類の比較】
法定相続情報一覧図には、被相続人の法定相続人情報と、被相続人・各相続人の住所を記載されます。
そのため、上図で示したように、通常提出が求められる書類の一部(上記緑の部分)法定相続情報一覧図1枚で代用することが可能となります。
タイミング② 相続登記の申請と同時
相続登記の申請と同時に法定相続情報一覧図の申請を行う方法です。
この場合、相続登記の申請時点では法定相続情報一覧図は手元にないため使用できませんが、相続登記の申請も、法定相続情報一覧図の申請も、どちらも法務局に対して行うため、同時に取得してしまおうということです。
法定相続情報一覧図を取得した後は、銀行や証券会社などの相続手続きを同時に進められることがメリットです。
3 法定相続情報一覧図の取得方法
では、法定相続情報一覧図の取得方法について、詳しく説明します。
【法定相続情報一覧図の取得方法】
STEP1 戸籍謄本等の収集
法定相続人(被相続人の財産を相続することができる人)は民法という法律で規定されています。
被相続人の出生から死亡までの戸籍などを収集する意義は、法定相続人を確定することです。法定相続人の確定を誤ってしまうと、後に行う遺産分割協議が無効となってしまいます。そのため、とても大切な工程になります。
収集が必要な書類は下記の通りです。
① 被相続人の出生から死亡までの一連の戸籍
② 法定相続人それぞれの現在の戸籍
③ 被相続人の住民票の除票または戸籍の(除)附票
④ 法定相続人の住民票または戸籍の附票(※)
※法定相続情報一覧図に法定相続人の住所を記載する時のみ必要となります。
①被相続人の出生から死亡までの一連の戸籍謄本
【】
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(または改製原戸籍謄本・除籍謄本)を収集します。
戸籍は、被相続人が生まれてから結婚による分籍や転籍、戸籍のコンピュータ化による改製などにより、複数となることがほとんどです。
また、古い戸籍のため廃棄されてしまっていたり、戦災のために焼失してしまったなどの理由により取得ができない場合があります。その場合には、廃棄証明書等により発行がなされない戸籍であることを証明する書類を取得する必要があります。
②法定相続人の現在の戸籍謄本
法定相続人全員の現在の戸籍謄本を収集します。戸籍抄本(法定相続人となる人だけが記載された戸籍)でも可能です。
被相続人が死亡した日以後の証明日のものが必要ですので、ご注意ください。
③被相続人の住民票の除票または戸籍の(除)附票
被相続人の最後の住所が記載されている住民票の除票を収集します。戸籍の附票でも可能です。
④法定相続人の住民票または戸籍の附票
法定相続情報一覧図に法定相続人の住所を載せるかどうかは任意です。記載を希望する時のみ、住民票または戸籍の附票を提出する必要があります。
法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載しておくと、相続登記の際に必要な「不動産を取得する相続人の住所証明書」として利用できますので、載せることをおすすめします。
STEP2 法定相続情報一覧図を作成する
STEP1で収集した戸籍謄本等の書面を法務局に提出すれば、「法定相続情報一覧図」は法務局が作成してくれるものだと思われがちですが、それは誤りです。
「法定相続情報一覧図」自体は、相続人が作成し提出する必要があります。自分で作成が難しい場合には、司法書士や弁護士などの専門家に依頼することも可能です。
法務局では、相続人が作った一覧図を、同時に提出された戸籍謄本と照合し正誤の確認をします。
一覧図が正しいものであれば、法務局の認証文と認証印が入り、公的書面としての「法定相続情報一覧図」となります。
法定相続情報一覧図の申出には、管轄の法務局に対して、下記の書面を提出します。
① 法定相続情報一覧図
② STEP1で収集した戸籍謄本・住所証明書一式
③ 法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書
④ 申出人の住所・氏名が確認できる書類
ではまず、法定相続情報一覧図を作成方法を解説します。
●法定相続一覧図の様式について
法定相続情報一覧図とは、被相続人の家系図のようなものです。
様式には「家系図方式」と「列挙方式」があります。家系図方式で作成するのが一般的です。
法務局のホームページに様々な場合の様式がありますので、作成する場合にはご利用ください。
【参考】法務局ホームページ:主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例
●法定相続情報一覧図の記載方法
家系図方式の法定相続情報一覧図の作成方法は下記のとおりです。
【法定相続情報一覧図の記載方法】
●法定相続人の中に相続放棄・欠格・廃除がある場合
法定相続人の中に、相続放棄をした人、相続欠格になった人、相続廃除された人がいる場合は、法定相続情報一覧図の記載は次のようになります。
相続欠格になった人 → そのまま記載する(欠格の記載しない)
相続廃除された人 → 記載しない
上記の3パターンは、いずれも法律上は財産は「相続しない」という点では同じですが、法定相続情報一覧図への記載方法は異なります。
この違いは戸籍への記載方法が異なることが原因です。
相続放棄・相続欠格の場合、戸籍謄本にはその事実は記載されません。そのため、法定相続情報一覧図にも反映されません。
一方、相続廃除されたという事実は、届出によって戸籍謄本に記載されます。よって、相続廃除をされた人は、法定相続情報一覧図には記載されないのです。
●代襲相続が起こっている場合
代襲相続とは、被相続人が死亡した時、本来は相続人となるはずだった人(被代襲者)が既に死亡しているなどの場合に、その子など(代襲者)が代わりに相続することをいいます。
代襲相続が起こっている場合の、法定相続情報一覧図の作成ポイントは、下記2点です。
ポイント① 被代襲者については、住所・氏名の記載はしない。
「被代襲者」と記載した上で、死亡日を記載する。
ポイント② 代襲者については、続柄(孫など)とともに「代襲者」と記載する。
【代襲相続の例】
【代襲相続の場合の法定相続情報一覧図の記載方法】
●数次相続が起こっている場合
数次相続とは、被相続人が亡くなり、その相続手続きが完了しないうちに、法定相続人のうちの1人が亡くなってしまった状況を言います。
代襲相続との違いは、「亡くなった順番」です。代襲相続は被相続人が亡くなった際に既に亡くなっていた場合の話ですが、数次相続は被相続人の亡くなった後に法定相続人が亡くなった場合の話です。
数次相続が起こっている場合の、法定相続情報一覧図の作成ポイントは、下記の通りです。
ポイント
数次相続の場合は、2人分の相続関係を1つの法定相続情報一覧図にまとめることはできません。それぞれの相続について、法定相続情報一覧図を作成する必要があります。
「はじめに死亡した被相続人に関する法定相続情報一覧図」と「次に死亡した相続人に関する法定相続情報一覧図」を作成することになります。
【数次相続の例】
【数次相続の場合の法定相続情報一覧図の記載方法】
実際に相続登記や、銀行などの手続きに使用する際には、1・2両方の法定相続情報一覧図を提出する必要があります。
●被相続人が日本国籍を有しない場合や、法定相続人の中に日本国籍を有しない者がいる場合
被相続人が日本国籍を有しない場合や、法定相続人の中に1人でも日本国籍を有しない者がいる場合には、戸籍が存在しないため、法定相続情報一覧図は利用できません。
被相続人の死亡時に、日本に帰化している場合には利用可能です。
STEP3 「法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書」を記入し、管轄の法務局へ提出
法務局所定の「法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書」に必要事項を記入し、STEP1で用意した戸籍謄本等、STEP2で作成した法定相続情報一覧図と合わせて申出をします。
法定相続情報一覧図は、即日発行してもらうことはできません。法務局に上記の書類を提出してから、1~2週間程度の時間がかかります。
提出した戸籍謄本等は、法定相続情報一覧図の発行時に返却されます。
「法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書」の記載方法は下記の通りです。
【法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書 】
(法務局ホームページより引用)
●申出人
被相続人の法定相続人またはその代理人
*代理人は申出人の親族または一定の有資格者(司法書士・弁護士・行政書士など)に限られます。
●申出先
次のいずれかを管轄する登記所(法務局)
・被相続人の本籍地
・被相続人の最後の住所地
・申出人の住所地
・被相続人名義の不動産の所在地
●交付枚数
希望の枚数を記載します。上限はありません。
●手数料
無料(何通取得しても手数料は無料です)
●提出書類
①法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書
②作成した法定相続情報一覧図
③STEP1で収集した戸籍謄本・住所証明書
④申出人の住所・氏名が確認できるもの
住民票の写し、運転免許証・マイナンバーカード表面のコピーなど
*コピーには原本と相違ないことを記載のうえ記名押印をする。
⑤【親族が代理する場合】委任状、申出人と代理人が親族であることがわかる戸籍謄本
⑥【資格者代理人が代理する場合】委任状、資格者代理人団体所定の身分証明書の写し等
●提出方法
管轄の法務局窓口にて提出 又は 郵送提出
STEP4 認証された法定相続情報一覧図の受領
STEP3で提出された法定相続情報一覧図は、法務局内での確認を経て、不備が無ければ「法定相続情報一覧図の写し」が交付されます。
法定相続情報一覧図の写しは偽造防止対策がされた専用の用紙で発行され、登記官による認証文の記載と認証印が押されます。
【認証された法定相続情報一覧図の写しの例】
法定相続情報一覧図の写しの受領方法は、
①法務局窓口での受取
②郵送
のどちらかです。希望の受け取り方法を、申出の際に提出する「法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書」に記載します。
郵送を選択する場合には、申出の時に返信用封筒を同封する必要があります。
4 法定相続情報一覧図作成・相続登記の手続きは専門家へ
法定相続情報一覧図は、一度作成すれば、相続手続きの負担を大きく軽減することができます。相続手続きに種類が多い方にはぜひ活用をおすすめしたい制度です。
しかし、作成するためには、一度必要な戸籍謄本を全て収集したり、法務局に認証の申出を行ったりと煩雑な手続きを経る必要があります。
できる限り早急に法定相続情報一覧図を作成し相続手続きを進めたい場合や、相続関係が複雑な場合には、手続きすべてを司法書士などの専門家に任せることおすすめします。
司法書士に依頼すると、戸籍の収集から法定相続情報一覧図の取得、相続登記の申請まで全て代理してもらえますので、迅速に相続手続きを進めることができます。
5 まとめ
最後までご覧いただきありがとうございます。いかがでしたでしょうか。
法定相続情報一覧図は、相続手続きに必ず必要となる書類ではありませんが、取得しておくと迅速に手続きを進めることが可能になる便利なものです。
相続登記やその他の相続手続きをより早急に完了させるために、法定相続情報一覧図の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
それでは、本コラムのまとめです。
1 法定相続情報一覧図を用いるメリット
メリット1 取得手数料がかからない
メリット2 5年間は再取得ができる
メリット3 法務局のチェックによって、法定相続人を確実に把握できる
メリット4 複数の相続手続きを並行して進められる
メリット5 手続き先での戸籍チェックを省けるため、相続手続きが早く進む
2 法定相続情報一覧図を取得するタイミング
タイミング① 戸籍謄本一式を揃え終えた直後
(=不動産登記・銀行口座解約などの手続きに着手する前)
タイミング② 相続登記の申請と同時
3.法定相続情報一覧図の申出方法
STEP1 戸籍謄本等の収集
STEP2 法定相続情報一覧図を作成する
STEP3 「法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書」を記入し、管轄の法務局へ提出
STEP4 認証された法定相続情報一覧図の受領
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