ウェブサイトでのショッピングから、様々なサービス利用の申し込みなど、オンライン上で手続きを行うことが増えてきました。オンラインバンキングによる振り込みやe-TAXでの確定申告・納税など、お金に関わる重要な手続きも、オンラインで行うことが当たり前になってきました。
では、「相続登記」(相続を原因とする不動産の名義変更手続)の手続きもオンラインできるのでしょうか。
相続登記もオンラインで申請することは可能です。
しかし、他のオンライン手続きと異なり、現状必ずしも簡単に早く手続きができるというわけではありません。
そこで、本コラムでは、相続登記をオンラインで申請する際の手続き、メリットとデメリットについて相続専門の司法書士が徹底解説いたします。相続登記の義務化が決定した今、相続発生前であっても事前に知っておきたい内容です。
それでは始めていきましょう。
目次
1 相続登記はオンラインで申請できる
相続登記は、オンラインで申請することができます。
不動産登記では従来、登記申請書を法務局の窓口へ持ち込むか、あるいは郵送で提出するという二つの申請方式が認められていました。そして、15年ほど前、オンラインでの申請という3つ目の方式が加わりました。
現在、法務局は「登記・供託オンライン申請システム」を運営しており、相続登記はこのシステム上でオンライン申請することができます。
具体的には、「申請用総合ソフト」をダウンロードし、このソフトを用いて申請します。数ある登記様式の中から「相続登記」のものを選べば、フォーマットを埋める形で、相続登記の申請書を作成することが可能です。
2 オンライン申請のメリットとデメリット
登記申請は誰でもオンラインで行うことができますが、現状、オンラインで登記申請を行っているのは「司法書士」がほとんどです。一般の方が相続登記をオンラインで申請しているケースはかなり少数です。
その理由は、オンライン申請には、窓口や郵送での申請と比べ、現状ではかかる手間に対してメリットがそれほど多くないからです。
それでは、オンライン申請のデメリットとメリットとは、何なのでしょうか。他の申請方法と比較しながら確認していきましょう。
オンライン申請 |
郵送申請 |
窓口申請 |
|
申請書の提出 |
オンライン |
郵送 |
持参 |
添付書類の提出 |
郵送または持参(*1) |
郵送 |
持参 |
登録免許税の納付 |
電子納付または収入印紙 |
収入印紙 |
収入印紙 |
申請書等の修正 |
オンライン |
郵送 |
持参又は郵送 |
処理状況の確認 |
オンラインで確認可 |
法務局に問い合わせ |
法務局に問い合わせ |
(*1 オンラインで提出することも可能ですが、手続きが非常に難しく、実際上はほとんど利用されていないため本コラムでは解説を省略してします)
2-1 オンライン申請のメリット
上記の比較表を見れば一目瞭然ですが、オンライン申請のメリットは何といってもほとんどの手続きを自宅で行えることです。具体的には以下の4つのメリットが挙げられます。
メリット① 管轄法務局に行く必要がない
メリット② 申請書に誤りがあった場合でもオンライン上で申請書を修正することができる
申請書に誤りがあった場合、郵送または窓口での申請であれば、再度申請書を郵送するか、または法務局へ出向いて申請書を修正するなどの対応が必要になります。これに対して、オンライン申請ではソフト上で通知を受け、申請書を修正することができます。なお、遺産分割協議書・戸籍などの添付書面に不備や不足があった場合にはオンラインで対応することはできません。
2-2 オンライン申請のデメリット
オンライン申請のデメリットは申請の準備(ソフトの利用や電子署名の利用登録など)に手間がかかる点、また、せっかくオンラインで申請しても、書類などは郵送(あるいは窓口へ持参)しなければならないことがあげられます。具体的には下記の3つがデメリットとして挙げられます。
相続登記を窓口あるいは郵送で申請する場合であれば、申請書はパソコンやタブレットを用いて作成したものを印刷して法務局に提出することになります。
これに対して、オンラインで相続登記を申請する場合には、前述の申請用総合ソフトを使う必要があります。無料でダウンロードできますが、Wordなどの汎用的はソフトと比べると、インターフェースが見づらく、使いにくいと感じる方が多いようです。
相続登記のオンライン申請には「電子署名」が必須です。紙の申請書に判子を押印する代わりに、申請書のデータに「電子署名」をする必要があるのです。後ほど詳しく説明しますが、この電子署名を利用するための準備には手間がかかります。
「相続登記はオンライン申請できる」とはいっても、実はすべての手続きをオンラインで済ませることは現時点ではできません。オンラインで登記申請を行う際には、システム上で申請書を作成し、添付書類をPDFなどのデータにして申請書と一緒に送信します。
しかしそれで終わりではなく、戸籍謄本、遺産分割協議書などの添付書類の原本は法務局に持参するか又は郵送で提出する必要があるのです。
なお、完全にオンラインで申請を完結させる方法も存在しますが、後述する電子署名をすべての添付書類に施す処理が必要となるため、手続きの難易度が高く、専門家の間でもほとんど利用されていません。
以上がオンライン申請のデメリットです。人生でそう何度も相続登記を申請する機会はないでしょうから、そのためにわざわざオンライン申請ができる環境を整えるのは・・・と考える人が多いのは無理もありません。また、結局は添付書面はオンラインで申請しないのであれば、最初から窓口か郵送での申請を利用した方が早いということもあるでしょう。
2-3 オンライン申請がおすすめなのはこんな人
● すでにマイナンバーカードを持っている方
● すでにマイナンバーカードの電子署名用手続きを済ませている
登記のオンライン申請用ソフトの操作は決して簡単ではありません。しかし、オンラインのマニュアルや、操作説明の動画なども用意されていますので、パソコンの操作が得意な方であれば、時間をかければ利用が可能でしょう。
また、電子署名の利用には、マイナンバーカードを取得し、ICカードリーダーなどの準備が必要です。すでにe-taxなどを利用しており「公的個人認証サービス」の利用登録を済ませている方でしたら、その点がほぼクリアされていますから、オンライン申請のハードルは下がるでしょう。
3 相続登記のオンライン申請で準備すべきもの
相続登記のオンライン申請に必要なものは、オンライン申請に特有なものと全ての申請方法に共通するものに分けることができます。
3-1 オンライン申請のときだけ必要となるもの
①マイナンバーカード
オンライン申請を行うにはマイナンバーカードが必要となります。マイナンバーカードの詳細は下記をご覧ください。
【参考】内閣府ホームページ
②ICカードリーダー
前述の通り、相続登記のオンライン申請には「電子署名」が必須です。この「電子署名」のサービスはいろいろな会社が提供していますが、個人でオンライン申請を行う方にとって便利なのは、マイナンバーカードを使った「公的個人認証サービス」です。
「公的個人認証サービス」は、e-taxなどさまざまな行政サービスで本人確認のツールとして利用されています。
この「公的個人認証サービス」をご自宅のパソコンで利用するには、「マイナンバーカード」と「ICカードリーダー」が必要です。パソコンに接続した「ICカードリーダー」で「マイナンバーカード」に搭載されているICチップを読み取ることで、そのパソコンから申請を行っているのが本人であるということを証明できます。
③スキャナー(「相続関係説明図」を作成することで不要に)
相続登記のオンライン申請の際には、オンライン上で作成した申請書とともに、遺産分割協議書や戸籍などをPDFデータで提出する必要があるからです。これらの書類をPDFデータにするためにはスキャナーが必要となります。
もっとも、後述する「相続関係説明図」をワープロソフト等で作るやり方を選べば、遺産分割協議書や戸籍をオンラインで提出する必要はありませんので、「スキャナー」がなくても申請が可能です。
3-2 相続登記の必要書類(他の申請方法と共通のもの)
「相続登記」と一口に言っても、申請に必要な書類は具体的なケースごとに異なります。主に財産の分割方法によって、必要書類が異なってきます。代表的な分割方法は下記の3つです。
①「遺産分割」(相続人間の財産分けに関する話し合い)で決める方法
②亡くなった方の「遺言」で決める方法
③法律で定められた「法定相続分」の通りに分ける方法
これらの代表的な相続登記の3パターンについて、それぞれの場合の一般的な必要書類は下記のとおりです。これらの必要書類はオンライン申請であっても窓口申請・郵送申請であっても必要です。
①遺産分割協議書(※相続人全員が実印で押印したもの)
②相続人全員の印鑑証明書(※有効期限なし)
③亡くなった方の出生から死亡までの戸籍
④亡くなった方の最後の住所と登記簿上の住所をつなげる住民票の除票(本籍地記載のもの)または戸籍の附票
⑤相続人全員の現在戸籍
⑥不動産を取得する相続人の住民票または戸籍の附票
⑦相続する不動産の最新年度の固定資産評価証明書
①遺言書(検認が必要な自筆証書遺言、秘密証書遺言の場合は、検認済証明書付きのもの)
②亡くなった方の死亡の記載がある戸籍
③亡くなった方の最後の住所と登記簿上の住所をつなげる住民票の除票(本籍地記載のもの)または戸籍の附票
④不動産を取得する相続人の現在戸籍
⑤不動産を取得する相続人の住民票または戸籍の附票
⑥相続する不動産の最新年度の固定資産評価証明書
①亡くなった方の出生から死亡までの戸籍
②亡くなった方の最後の住所と登記簿上の住所をつなげる住民票の除票(本籍地記載のもの)または戸籍の附票
③相続人全員の現在戸籍
④不動産を取得する相続人の住民票または戸籍の附票
⑤相続する不動産の最新年度の固定資産評価証明書
以上がオーソドックスなケースの必要書類です。この他にも、相続人の中に相続を放棄した方がいたり、未成年や成年後見人がいたりなどイレギュラーなケースでは提出する書類が追加で必要となります。
4 相続登記のオンライン申請手続きの流れ
それでは、次にオンライン申請の流れを確認していきましょう。オンライン申請は以下のような流れで進んでいきます。
ステップ3 電子署名の準備
ステップ4 申請書の作成
ステップ5 添付書類の作成
ステップ1 相続関係説明図の作成
専門家に依頼せず、ご自身でオンライン申請を行う場合は、「相続関係説明図」を作成しておくと便利です。
相続登記のオンライン申請の際には、申請書とともに、相続を証明する書類をデータで添付して提出する必要があります。例えば、前述の【遺産分割の話し合いによる相続登記の場合】、相続を証明する書類とは、下記が該当します。
①遺産分割協議書(相続人全員が実印で押印したもの)
②相続人全員の印鑑証明書(有効期限はなし)
③亡くなった方の出生から死亡までの戸籍
⑤相続人全員の現在戸籍
これらを全部データ化して添付する代わりに、「相続関係説明図」一枚を添付すればいいことになっているのです。
「相続関係説明図」とは、亡くなった方とその相続人の関係を図のように簡単に表したものです。
亡くなった方の「住所・死亡日・氏名」、相続人の「住所・生年月日・被相続人との続柄・氏名」を記載します。一般的に、婚姻の間柄を二重線でつなぎ、子等は単線でつなぎます。
【相続関係説明図】
この「相続関係説明図」によって、オンラインで添付する書類を減らせるほか、郵送で提出する戸籍などの書類を相続登記完了後に返却してもらうことができます。(原本還付といいます)
ステップ2 申請用ソフトのダウンロードとインストール
登記・供託オンライン申請システムから、申請用ソフトをダウンロードし、インストールします。
申請書を作成する前に、利用者情報などの登録が必要です。
ステップ3 電子署名の準備
(1)公的個人認証サービスに登録する
マイナンバーカードを使った「公的個人認証サービス」の利用登録を行います。手順については公的個人認証サービスポータルサイトで確認できます。
(2)「PDF署名プラグイン」をインストール
申請用ソフトのダウンロードページに、「PDF署名プラグイン」が用意されていますので、こちらをダウンロードし、インストールします。これによって、申請用ソフトを起動したあとに、申請用ソフト内の操作で電子署名の設定を行うことができるようになります。
ステップ4 登記申請書の作成
続けて、申請用総合ソフトを起動し、申請書を作成します。
「登記・供託オンライン申請システム」には、遺産分割協議書で相続を行った場合の操作手順書が載っていますので参考にしてみましょう。
申請書作成の大まかな流れは紙面で申請書を作成するときと変わりませんが、オンライン申請では対象となる不動産を「オンライン物件検索」または「登記事項証明書のQRコード読み込み」で入力する必要があります。
ステップ5 相続関係説明図の添付
4-1で作成した「相続関係説明図」をPDFにして添付します。
ステップ6 電子署名の実施
作成した申請書に、電子署名を行います。ICカードリーダーにマイナンバーカードをセットし、電子署名用のパスワードを入力しましょう。
ステップ7 相続登記の申請
申請用総合ソフト上で、申請書を送信します。
ステップ8 申請後~完了まで
(1)登録免許税を納付する
オンライン申請の場合には、申請用総合ソフト上で電子納付を選択することで、インターネットバンキング等を利用して納付することができます。あるいは、窓口や郵送申請の時と同様に、収入印紙で納入することも可能です。その場合は、郵送するソフト上で「登録免許税納付用紙」を選択して印刷し、収入印紙を貼ってその他の添付書類とともに郵送しましょう。
(2)添付書類を郵送する
3で説明した戸籍などの書類を、管轄法務局の窓口に提出するか、信書扱いの郵便(書留やレターパックなど)で送付しましょう。ソフト上で「書面により提出した添付情報の内訳表」を選択して印刷し、表紙にします。
(3)処理状況をチェックする
もし申請書などに間違いがあれば、通知があります。あるいは、法務局から電話がかかってくることもあります。
(4)登記手続の完了
提出した申請書並びに添付書類に問題がなければ、申請から1~2週間程度で登記手続きは完了します。完了しているかどうかはソフト上で確認することができます。
登記手続きが完了すると、新たに登記名義人となった方に対して「登記識別情報通知」が発行されます。また、遺産分割協議書や戸籍謄本などの添付書類の返却を受けることができます。登記識別情報通知や添付書類は、法務局の窓口で受領することもできますし、郵送で返却を受けることもできます。いずれの方法によるかは、登記申請書に記載することができます。
【登記識別情報通知の見本】
5 手続きが分からない場合は専門家に相談してみよう
これまで、相続登記のオンライン申請について説明させていただきましたが、専門家以外でオンライン申請を実際にやっている方はかなり少ないのが現状です。
相続登記はシンプルなものから複雑なものまで、難易度の幅が非常に広い手続きです。手続きに躓いてしまった場合は司法書士や弁護士などの専門家への相談をお勧めします。昨今の情勢から、オンラインでの面談に対応している事務所も増えてきました。ご自宅にいながら、専門家に相談することも可能です。
また、専門家に依頼する際は次のようなメリットがあります。
自分で手続きを行った場合に最も危惧されるのが、準備に時間がかかり過ぎたり、分からなくなって途中で投げ出してしまい手続きをしないまま長期間放置してしまうことです。相続登記を長期間しなかった場合、下記のようなリスクがあります。
・相続人の一人が亡くなり、相続人が増えてしまい遺産分割協議がまとまらなくなる
・相続人の一人が認知症を発症し、手続きを進めることができなくなる
・相続登記がなされていないと、不動産の売却ができない
・相続人の持分が売却されたり、差し押さえられたりする恐れがある
相続登記を放置することで、手続はさらに複雑化し、司法書士なしでは解決が難しくなり、費用も増大してしまいます。短期間で確実に相続登記を完了させたい場合には、司法書士に依頼するのが賢明です。
自分で手続きを行えば費用は安く済みますが、申請書や添付書類に不備があると、やり直しなどで非常に時間がかかります。また、法務局は平日しか空いていないので、仕事で日中しか動けない方は、相続登記の申請のために仕事を休まなくてはならない可能性があります。
また、司法書士に相続登記を依頼することで、戸籍や住民票などの添付書類の収集や遺産分割協議書の作成も代行してもらうことが可能です。また、別途依頼すれば、金融機関の相続手続(預貯金の解約・名義変更など)を代行してもらうことも可能です。
相続登記の手間を省きたければ、司法書士に依頼するのが得策です。
相続登記とは不動産の名義変更という相続手続全体の中の1つの手続きに過ぎません。相続のプロフェッショナルである司法書士に依頼することで、遺産分割協議の内容やその他の相続手続など相続全般について相談することが可能です。
6 まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます。本コラムのまとめとなります。
①相続登記はオンラインで申請できる
②相続登記のオンライン申請はソフトの利用や電子署名の準備に手間がかかる
③相続登記のオンライン申請は郵送、窓口での申請に比べて難しい
④相続登記のオンライン申請では必ず「相続関係説明図」を作ろう
⑤複雑な相続登記は専門家に相談を(オンラインでの相談も活用を)
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