あなたの身近な親族、たとえば両親や兄弟が亡くなったとき、亡くなった方の預貯金を相続することになれば、銀行で相続手続をします。
それでは、不動産――土地や建物、マンションや畑の相続は、どこで手続きすればいいのでしょうか。その答えは「法務局」です。
不動産の持ち主が亡くなったとき、何もしないままでは不動産の名義は変わりません。法務局に対し、「不動産の持ち主であるAさんが亡くなり、Bさんが不動産を相続しました」と登記申請をして初めて、不動産の名義が変わるのです。この手続のことを「相続登記」といいます。
このコラムでは、不動産を相続した人が法務局で行う相続登記の手続方法や費用について相続専門の司法書士が分かりやすく丁寧に解説します。
多くの方にとってはじめての経験となる相続登記。本コラムによって、皆様が抱える疑問や心配の解決の一助となれば幸いです。それでは、内容に入っていきましょう。
目次
1 相続登記の手続きは“法務局”で行う
相続登記とは、相続によって不動産の所有者(持ち主)が変わったことを法務局に届け出る手続きです。相続登記の手続は、法務局でしか行うことができません。なぜなら、全国の不動産の所有者を管理しているのが法務局だからです。
それでは、法務局とはそもそもどんな場所なのでしょうか。
1-1 法務局とは
法務局は、法務省の地方組織の一つとして、登記、戸籍、国籍、供託などに関わる行政事務を行っています。そのほかには、国の利害に関係のある訴訟活動を行う訟務事務、国民の基本的人権を守る人権擁護事務なども行っています。
全国8か所に法務局があります。また、42か所に地方法務局があり、その出先機関として支局と出張所があります。法務局,地方法務局及び支局では,登記,戸籍,国籍,供託,訟務,人権擁護の事務を行っており,出張所では主に登記の事務を行っています。
今回、相続登記を行うにあたって関係するのは「不動産登記」の部門です。登記にはこの他「商業・法人登記」の部門もあります。
1-2 登記簿とは
不動産を売ったり買ったりするとき、その不動産が誰のものなのか、面積はどれくらいなのか、抵当権など第三者の権利がついていないか等はとても重要な情報です。これらの情報をまとめたものが「不動産登記簿」であり、それを管理しているのが法務局です。
「不動産登記簿」にはその不動産の正式な所在地、過去から現在にいたるまでの所有者、面積、権利関係(抵当権や根抵当権についての記録など)などが記載されています。「不動産登記簿」は不動産の身分証明書のようなものです。
皆様が親族から不動産を相続したとき、この「不動産登記簿」の所有者欄を変えるための届け出=相続登記をすることによって、その不動産の所有者があなたになったことを、公に示すことができるようになります。
また、不動産登記簿は全て一般に公開されている(登記事項証明書などを請求すれば誰でも内容を確認することができる)ので、不動産取引の安全と円滑を図る機能も果たしています。
【登記簿謄本の見本】
1-3 相続登記は不動産を管轄する“管轄法務局”に申請する
全ての不動産には、その不動産を管轄する「管轄法務局」が決められています。
そして、不動産登記簿の内容を変更するため登記申請は、必ず「管轄法務局」にしなければなりません。
例えば、相続登記をしたい不動産を管轄する法務局が「A地方法務局甲出張所」であった場合には、相続登記は必ずA地方法務局甲出張所に申請しなければなりません。他県のB地方法務局では手続きができませんし、A地方法務局の中でも、乙支局や丙出張所では手続きができないのです。自宅の最寄りの法務局で相続登記の手続ができるというわけではなく、あくまで不動産を管轄する法務局に対して相続登記の申請を行うことになります。
なお、不動産登記の申請は管轄の法務局で行うことができますが、不動産登記簿(登記事項証明書)は、どの法務局においても日本全国の不動産のものが取得・閲覧が可能です。
1-4 “管轄法務局”は不動産の所在地で決まる
管轄法務局は不動産所在地の市区町村ごとに決まっています。不動産の管轄法務局は下記から検索することが可能です。
「管轄一覧から探す」や「地図から探す」などから、相続登記の申請を行う不動産のある都道府県の法務局をクリックして、「管轄法務局」を確認してみましょう。
例えば、埼玉県であれば、県全域が17の管轄に分かれています。「富士見市」の不動産の管轄法務局は「さいたま地方法務局志木出張所」になり、「加須市」の不動産の管轄法務局は「さいたま地方法務局久喜支局」ということになります。
2 法務局に相続登記を申請する3つの方法
法務局に「相続登記」を申請する方法は3つあります。窓口に直接書類をもっていく「窓口申請」、書類を郵送する「郵送申請」、オンラインで必要な情報を送付する「オンライン申請」です。
方法① 窓口申請
管轄法務局の不動産登記の受付窓口に、相続登記の必要書類を直接提出します。窓口の営業時間は平日の午前八時三十分から午後五時十五分までです。
書類を持参しその場で申請が受付されるので、登記完了までの時間が書類の郵送の到着にかかる時間の分だけ郵送申請よりも短くなります。
窓口の営業時間が限られているので、平日の日中に時間がとれない方は利用できない。
方法② 郵送申請
管轄法務局の不動産登記受付係に、相続登記の必要書類を郵送します。HPなどで住所を調べ、「〇〇地方法務局 〇〇支局 不動産権利登記受付」宛に発送しましょう。
この際、郵便は必ず信書扱いで送る必要があります。簡易書留や、赤いレターパックなどを使いましょう。同じレターパックでも、青色のものでは信書扱いにならず受付されないことがありますので注意しましょう。
郵送した申請書が法務局に到着してからの受付となるため、窓口での申請より完了までの時間が長い。
方法③ オンライン申請
「登記・供託オンライン申請システム」を利用すれば、Web上で相続登記の申請を行うことができます。
しかし、このシステムで実際の申請を行うには事前の利用者登録と、その他に電子署名サービスの利用登録も必要となります。一度や二度の申請のためにこれらに登録するには、あまりに手間がかかり過ぎるといえるでしょう。
そのため、実際に登録をしてオンライン申請を行っているのは司法書士などの専門家がほとんどです。
また、全ての手続をWeb上で完結できるわけではなく、戸籍や印鑑証明書など必要書類は結局窓口へ直接提出するか、郵送で送付しなければなりません。Web上で手続きできるのは、相続登記の申請書の作成と申請手続のみです。
一般の方が相続登記を申請する際は、窓口申請か郵送申請を利用するケースが多いでしょう。
・申請をするために、オンライン申請システムと電子署名サービスの両方に登録しなければならない。
・オンラインで申請書を提出しても、必要書類を窓口へ提出又は郵送で送付する必要がある。
3 法務局に相続登記を申請する際の必要書類
「相続登記」と一口に言っても、申請に必要な書類は個々のケースにより様々です。
亡くなった方の遺産の分け方によって、必要書類が異なってきます。代表的なものは3つあります。
相続人同士が話し合いで決める「遺産分割」という方法、亡くなった方の「遺言」で決める方法、法律で定められた「法定相続分」の通りに分ける方法です。
これらの代表的な相続登記の3パターンについて、それぞれの場合の一般的な必要書類を下記にまとめました。
①遺産分割協議書(※相続人全員が実印で押印したもの)
②相続人全員の印鑑証明書(※有効期限なし)
③亡くなった方の出生から死亡までの戸籍
④亡くなった方の最後の住所と登記簿上の住所をつなげる住民票の除票(本籍地記載のもの)または戸籍の附票
⑤相続人全員の現在戸籍
⑥不動産を取得する相続人の住民票または戸籍の附票
⑦相続する不動産の最新年度の固定資産評価証明書
①遺言書(検認が必要な自筆証書遺言、秘密証書遺言の場合は、検認済証明書付きのもの)
②亡くなった方の死亡の記載がある戸籍
③亡くなった方の最後の住所と登記簿上の住所をつなげる住民票の除票(本籍地記載のもの)または戸籍の附票
④不動産を取得する相続人の現在戸籍
⑤不動産を取得する相続人の住民票または戸籍の附票
⑥相続する不動産の最新年度の固定資産評価証明書
①亡くなった方の出生から死亡までの戸籍
②亡くなった方の最後の住所と登記簿上の住所をつなげる住民票の除票(本籍地記載のもの)または戸籍の附票
③相続人全員の現在戸籍
④不動産を取得する相続人の住民票または戸籍の附票
⑤相続する不動産の最新年度の固定資産評価証明書
そのほかにも、主に下記のような事由がある場合には、追加で書類が必要となります。これらの場合、一度司法書士などの専門家に相談することをおすすめいたします。
・相続人の中に相続放棄をした方がいる場合
・相続人の中に未成年の方がいる場合
・相続人の中に行方不明・生死不明の方がいて、不在者財産管理人制度を利用している場合
・相続人の中に認知症などで判断能力を喪失している方や障がい者の方がいて、成年後見制度を利用している場合
・亡くなった方(被相続人)の住所と登記簿上の住所が住民票や戸籍の附票によってもつながらない場合
4 法務局に相続登記を申請する際の費用
それでは、次に法務局で相続登記を申請する際にかかる費用について確認しましょう。
費用① 登録免許税
● 登録免許税の金額
相続登記を申請する際に、登録免許税という税金を納付しなければなりません。登録免許税は、登記の名義や内容を変更する際に原則としてかかる税金です。
登録免許税の額は、不動産の固定資産評価額によって決まります。
相続の場合、登録免許税の額は固定資産評価額の「1000分の4」となります。
例えば、固定資産税評価額が1000万円の土地の相続にかかる登録免許税は「4万円」ということになります。金額分の収入印紙を購入し、紙に貼って申請書とともに提出しましょう。
● 固定資産税額はどこで確認するのか
固定資産評価額は、毎年不動産の所有者に送付されてくる「固定資産税納税通知書」に記載されています。また、市区町村で発行している「固定資産評価証明書」でも固定資産評価額を知ることができます。
前述の通り、相続登記の申請の際には、「固定資産評価証明書」を申請書とともに提出する必要があります。
● 登録免許税の納付方法
原則として、登録免許税の金額分の収入印紙を購入し、貼付用紙に貼って申請書とともに提出します。オンライン申請の場合には、電子納付を行うことも可能です。
費用② 必要書類の取得費用・郵送費などの実費
登録免許税のほかには、相続登記の申請に必要な書類(戸籍、印鑑証明書、住民票、固定資産評価証明書など)を取得する際に市役所などに支払う手数料や、郵送で申請する場合には郵送費などの実費がかかります。相続人の人数や不動産の個数などによって変わりますが5千円~3万円程度で収まることがほとんどです。
費用③ 専門家(司法書士・弁護士)の報酬
専門家(司法書士・弁護士)に依頼した場合には、専門家の報酬がかかります。
司法書士の場合、一般的な目安としては、自宅の土地・建物のみを相続登記するシンプルなケースであれば7~8万円前後が相場です。報酬は事務所ごとに異なります。また、報酬は不動産の固定資産税評価額や不動産の個数などによって変動します。
5 法務局に相続登記の相談をする2つの方法
相続登記の準備をしていて、分からないことが出てきた…そんなときに法務局に相談することはできるのでしょうか。申請書の書き方や添付書類について法務局に相談することは可能です。
相談の方法としては、下記の2つの方法があります
各法務局・支局・出張所では、登記に関する一般的な質問を電話で受け付けています。また、東京法務局は「登記電話相談室」を設けており、後述する窓口相談の予約などもこの相談室で受け付けています。
【参考】登記電話相談室(東京法務局)
管轄の法務局に直接行って相続登記について相談することも可能です。
登記相談は原則として予約制となっています。(事前に窓口や電話で予約をしなければならない)。また、利用は1回20分以内とされています。
なお、現在新型コロナウイルス感染拡大防止のため、法務局への相談は原則として電話で行われているようです。事前に管轄の法務局に相談しましょう。
【参考】登記手続案内(東京法務局)
6 法務局で相続登記の相談をする際の注意点
法務局に相続登記の相談をする際は下記のような注意点があります。事前にしっかりと確認をしましょう。
法務局に相談できるのは、あくまで「相続登記の手続き」(申請書の書き方や添付書類に関する質問など)のみになります。法律判断が伴うアドバイスは受けることはできません。
例えば、遺産分割協議の内容をどうしたらよいのか、遺産分割協議書や遺言書は有効なのか無効なのか、遺留分はどうなるのかなどの法律上の相談は受け付けていません。
上述のように、法務局で相談できるのは「相続登記の手続き」に関する部分だけです。相続税に関する相談はできません。相続税の相談は税務署や税理士に相談することになります。
登記相談では登記申請書の「書き方」の説明を受けることはできますが、登記申請書や添付書類は自分で作成・収集しなければなりません。法務局で代わりに作成・収集してくれるわけではありません。
登記相談は、あくまで事前の「相談」であって、相談したからといって内容の適合性や完了の保証がなされるわけではありません。
したがって、登記申請後、法務局から申請書の訂正や添付書類の追加を求められる(これを「補正」といいます)ことがあります。
7 司法書士に相続登記を依頼するメリット
これまで、法務局での相続手続きについて説明させていただきましたが、相続登記はシンプルなものから複雑なものまで、難易度の幅が非常に広い手続きです。自分で進めていく中で行きづまりそうなときには、司法書士への依頼をお勧めします。なお、法律上相続登記の代理が認めらているのは、弁護士と司法書士ですが、相続登記のついては登記の専門家である司法書士に依頼するケースが多いです。
司法書士へ依頼するメリットとしては、下記の3点が挙げられます。
自分で手続きを行った場合に最も危惧されるのが、準備に時間がかかり過ぎたり、分からなくなって途中で投げ出してしまい手続きをしないまま長期間放置してしまうことです。相続登記を長期間しなかった場合、下記のようなリスクがあります。
・相続人の一人が亡くなり、相続人が増えてしまい遺産分割協議がまとまらなくなる
・相続人の一人が認知症を発症し、手続きを進めることができなくなる
・相続登記がなされていないと、不動産の売却ができない
・相続人の持分が売却されたり、差し押さえられたりする恐れがある
相続登記を放置することで、手続はさらに複雑化し、司法書士なしでは解決が難しくなり、費用も増大してしまいます。短期間で確実に相続登記を完了させたい場合には、司法書士に依頼するのが賢明です。
自分で手続きを行えば費用は安く済みますが、申請書や添付書類に不備があると、やり直しなどで非常に時間がかかります。また、法務局は平日しか空いていないので、仕事で日中しか動けない方は、相続登記の申請のために仕事を休まなくてはならない可能性があります。
また、司法書士に相続登記を依頼することで、戸籍や住民票などの添付書類の収集や遺産分割協議書の作成も代行してもらうことが可能です。また、別途依頼すれば、金融機関の相続手続(預貯金の解約・名義変更など)を代行してもらうことも可能です。
相続登記の手間を省きたければ、司法書士に依頼するのが得策です。
相続登記とは不動産の名義変更という相続手続全体の中の1つの手続きに過ぎません。相続のプロフェッショナルである司法書士に依頼することで、遺産分割協議の内容やその他の相続手続など相続全般については相談することが可能です。
8 司法書士に相続登記を依頼する際の注意点
司法書士に相続登記を依頼する際は次のような点に注意しましょう。
一口に司法書士いっても、医師と同様に専門分野は様々です。相続登記を依頼するのであれば、相続の実務経験が豊富な司法書士を選ぶことが大事です。HPやSNSなどを参考に判断するとよいでしょう。
9 まとめ
最後までお読みいただきありがとうございました。本コラムが皆様のお役に立てば幸いです。何か不明点があればお気軽にお問い合わせください。
それでは、最後に本コラムのまとめです。
①相続登記とは、相続によって不動産の所有者(持ち主)が変わったことを法務局に届け出る手続きをいう。
②相続登記は管轄の法務局に対して行う。
③相続登記の申請方法は、窓口申請・郵送申請・オンライン申請の3つ。
④相続登記を行うには様々な書類を揃えなければならない。費用もかかる。
⑤相続登記の手続については、法務局に相談することもできる。
⑥相続登記を司法書士に依頼するメリットがある。手続きに躓いた場合には相談してみましょう。
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